11.■裏切り
「城内を隈なく探せ! それでも見当たらなければ街へ捜索範囲を広げよ!」
アルフォードは報告を聞いたうえで一つの可能性を導き出した。
キラーラットは陽動で騒ぎの間に何らかの方法で城から連れ出し、アリッサが誘拐されたのではないかと。
そして城内総動員で各フロアを捜索したが、それでも見つからなかった。
「兵達は市街へ捜索せよ! 非番も捜索の手伝いをするよう伝えておけ!」
「「はっ!」」
アルフォードの命令で騎士は街で捜索、それ以外の者はキラーラットの後片付け行う事になった。
時刻は次の日付に変わろうとしており、キラーラット騒動からアリッサへの捜索と立て続けで重なり一部の騎士に疲労が見え始めていた。
「アルフォード様、あとは兵に任せてお休みください」
執事長のジョルジュが気遣うように話しかける。
「……いや、このままで良い」
「……かしこまりました」
「ゼロ、アルフォード様に水を持ってきなさい」
「はい」
ジョルジュの指示で水を用意し、既に自らの手によって綺麗になったテーブルの上にグラスとピッチャーを置くとアルフォードはグラスの水を一気に飲み干した。
「ふう」
一呼吸置いたアルフォードは再び無言のまま床を見つめ、ジョルジュもその後ろで様子を伺うように佇んでいた。
ゼロはジョルジュに「パントリーの片づけを行う」と一声かけ大広間から立ち去り、パントリーとは逆の方向である自室へと向かう。
黒いフードを被り、窓を開けると身を乗り出したまま何かを感じ取るように目を瞑った。
(城内から匂いはしなかった……だが、外から微かに感じる……うん? この感じはまさか……)
何かに気付いたゼロは目を開くと窓から飛び出し、夜の闇に紛れて城下町へと向かったのだった。
※※※
「う、うーん………うん?」
アリッサは目を覚ますとそこは、広い自室のベッドの上ではなく、木材や樽などが置かれた埃臭い部屋で固い床の上に寝転がっていた。
状況が分からないので一旦身体を起こそうとしたが、足と両手を後ろ手にロープで縛られ、身動きが取れない状態になっていた。
「なにこれ、どこよここ?」
「お、目が覚めたか?」
隣を見るとゲイルも同じ状況で捕らえられていた。
「ゲイルじゃない………私達に何が起こったのよ?」
「あー……晩餐会のあとの帰り際に城から怪しい奴が出てきて、そいつを追いかけていたら仲間がいたみたいで気付いたら俺もこんな状況さ」
ゲイルは笑いながら話し、その口調からは余裕も見える。
「そうなのね、じゃ助けを呼んだ方がいいかしら? 大声を出せば誰か来てくれるわよ」
「いや、お嬢さんそれはお勧めできねぇぜ。
その声に気付いて扉の向こうから奴らが出てきてどんな目に遭うかわからねぇ」
「そ、そうなの? じゃあどうすればいいのよ」
「ここは一旦大人しくしといて、隙をついて俺がお嬢さんを助ける。
もしかすると街の外にアジトとかもあるかもしれねぇからそこまで奴らに付いて行って、元から絶つってのもありかもな」
「あっ! 前にゲイルが話してた盗賊を全滅させた話ね!」
「そうだ、よく覚えてたな」
「なら、私も盗賊の全滅に協力出来そうね!」
「ああ、そうなるかもな」
「やった!」
―――――ドン!
ドアが勢いよく開き、薄汚い恰好をした目つきの悪い男が入って来てアリッサを睨み怒鳴りつけた。
「うるせぇぞ、次騒いだら容赦しねぇからな!」
「ひっ!」
そう告げると、男は扉を閉めた。
その様子を見たアリッサの表情が強張って、身体が震えた。
「……大丈夫だお嬢さん、大人しくしとけば奴らだって手を出さねぇよ」
「そ、そうよね」
「それに何かあったら俺が助けてやるから安心しな」
「わかったわ」
ゲイルの言葉でアリッサは少し落ち着き、平常心を取り戻したようだった。
しばらくすると扉の向こうから、走る音や何かがぶつかる音、悲鳴のような声も聞こえ騒がしくなっていた。
―――――ドン!
再び勢いよく扉が開き先ほどとは別の男が入ってた。
「あ、アニキ大変です! すでに何人か――」
「ばかやろう! ここで俺に話すなって言ったじゃねぇか!」
「すんません、ですが――」
「あ? 騎士にバレたのか?」
「いえ、騎士ではなく……」
「じゃ、てめぇらでなんとかしやがれ!」
「はい! すんません!」
ゲイルが睨めつけ一蹴すると男は慌てて扉を閉めた。
「な、なに、知り合いなの……?」
その様子を見たアリッサは戸惑いを隠せないままゲイルを見つめる。
視線に気付いたゲイルも「はぁ」とため息をつくと、するすると自身を拘束していたロープを解き始めた。
「ゲイル、どう言うことよ……」
「バレちまったらしょうがねぇな………そうだ、俺がお嬢さんを攫ったんだよ」
「なんで……どうしてよ」
「バリョッサスに変態が居てよ、お嬢さんを性奴隷にしてぇんだと、そいつが金は惜しまねぇからお嬢さんを連れ来れば一生暮らせるほどの金をくれんだ。
上手いこと言ってバリョッサスまで大人しく付いてきてもらおうと思ったが、さっきのバカのせいで俺と奴らがグルだってバレちまったな」
「そ、そんな……信じてたのに……」
アリッサの目に涙が溜まっていた。
「馬鹿と言えば何でもかんでも信じちまうお嬢さんも世間知らずのバカな姫様だな。へへ、まぁ向こうに行ってもしっかり奉仕しときゃ大丈夫だろうよ。
飽きられちまったら奴隷か娼婦館に売られるかもしれねぇが命までは取らんと思うよ」
「い、嫌ッ!………誰かたす―――」
叫び声を出す前にゲイルは口元を布で抑え、アリッサの耳元で囁く。
「どうだ? スリプ草は美味ぇだろ、晩餐会の時にお嬢さんの飯にエキスを忍ばせたんだ。
次は誰も助けがこねぇ場所で目が覚めるかもしれねぇがバリョッサスまでの道中よろしくな」
そのまま意識を失い、一筋の涙がアリッサの頬を伝って流れた。
その後、再び扉が開くと最初に部屋に入って来た男が現れたのだが、その姿は見るからに変わり果てていた。
頭から血を流し、剣を握っている右腕を左手で抑え、体中傷だらけで足を引きずりながら男は部屋へ入ると、ゲイルに助けを求めた。
「あ、アニキ、とんでもねぇ奴が……き、来て」
「どんな奴だ?」
「はぁはぁ……そ、それが、フードを被りやがって顔が見えねえです。しかもかなり強え。た、体術や俺らの武器を投げつけたりして攻撃してきやがるんです」
「何人やられた?」
「入口にいた奴はやられてました、二階の連中と三人で飛び掛かったんですが、俺だけぶっ飛ばされて、それでアニキに助けを求めに……」
「そうか、他に奴の―――」
ゲイルは男の持っていた剣を奪い取ると後ろへ距離を取った。
男は剣を奪い取られて一瞬訳が分からず目を丸くし――――
「がっ!」
――――背後から男の喉元へ剣が投げつけられ、そのまま男は絶命した。
ゲイルも後ろへ下がらなければ共々串刺しになっていただろう。
危急を察知したゲイルは咄嗟に避けたが、判断が遅ければ致命傷を与えられたかもしれず、額から汗が滲んでいた。
扉を見ると男の死体の後ろにフードを被った細みの男が立っており、ゲイルは警戒しながら剣を構える。
「お前ぇがフード野郎か、一人でこいつらを片付けるなんてやりやがるな。まぁ、オーラも纏えねぇ奴の寄せ集めだが俺は違うぜ」
「………………」
「城のもんか? エクリエル王国に暗部は居ねぇと思ったが、王様が隠れて組織を作ってたのか?」
「………………」
「何も言わねぇか、でもよこいつが目的なんだろ?」
ゲイルはアリッサの頭を足でグイっと踏みつけた。
「……!」
「おお、すげぇ殺気だな! 何者か知んねぇがやっぱこいつが目的だな!」
ゲイルは殺気を感じ取ったのかアリッサを踏みつけるのを止め、相手を見据える。
黒いフードを被った男ことゼロは無言のまま、腰元のシルバーダガーを抜きゲイルと対峙し―――
「行くぜ……!」
――――ゲイルとの戦闘が始まろうとしていた。




