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10.■害獣騒動

「ゼロ様! 助けて下さい!!!」


メイドがゼロに向かって走りながら助けを求めてきた。

そのすぐ後ろには(おびただ)しい数の魔物が迫ってきている。


その魔物の正体は『キラーラット』、所謂(いわゆる)大きなネズミである。


キラーラットの成体は体長約30cm、主な生息域として下水、郊外、倉庫、草原など幅広く分布しており、繁殖力が強く、縄張り意識も高い。

一匹であれば危険性は高くないが、数で囲まれると厄介な魔物である。

本来は10~20匹で群れをなして行動するが、奥から迫ってくる数は50を超えているだろう。


「とりあえずテーブルの上に!」


「は、はい!」


ゼロとメイドは大広間にあるテーブルの上に乗り、難を乗り越えようとした。

テーブルの下をキラーラットが通過し、たまによじ登ってくるものをゼロが蹴っ飛ばしながらメイドに問いかけた。


「こいつらはどこから入ってきた?」


「私もわかりません、奥から悲鳴が聞こえたので様子を見ようとしたら廊下の奥からいきなり迫ってきて」


「そうか……くそ、一体どうなってるんだ!」


大広間からキラーラットの群れが去り、数匹ほど床をうろうろしてる中で廊下の奥から大広間へと騎士達が慌ただしく入ってきた。


「おい! お前ら大丈夫か!!」

ゼロ達を見た一人の騎士が声をかけた。


「ええ、こちらはなんとか……他の皆さんは大丈夫ですか?」


「何人か噛まれてしまったみたいで怪我をしている。そんな俺も腕を噛まれたがな。まあ、このぐらいの怪我なら大事に至らん」


話しかけてきた騎士が血で滲んだゼロに腕を見せつけている間に、他の騎士達が大広間に残っていたキラーラットを剣で突き刺していた、剣で刺される度に「キーキー」と鳴くのでメイドはしかめっ面をしていた。


「アルフォード様とアリッサ様はご無事でしょうか?」


「ああ、騒ぎと同時に護衛兵が向かったので大丈夫だろう。まだ城内に残っているキラーラット共を駆除する必要があるから無事なようならもう行くぞ」


部屋に残っていたキラーラットを駆除したところで騎士達は大広間から出て行った。

ゼロも様子を確かめるため、テーブルから降り他のフロアへと移動しようとしていたがメイドに呼び止められた。


「あの、ゼロ様……私、魔物が殺されるところを初めて見たので、その……」


メイドは目に涙を溜め、足は震え助けを求めるような目でゼロを見つめた。


「わかった、私が運ぶので皆が居るところまで移動しよう」


「はい……ありがとうございます」


メイドを背負い大広間を後にし、医務室へと運んだ。

医務室では医者と治癒士(ヒーラー)が怪我人の手当てをしている最中であった。

メイドは数名ほど噛まれ、お嫁にいけないなど騒いでいたが、軽度の傷なので治癒術であっという間に傷が消えたため、あっけらかんとしていた。


怪我人の多くが騎士で彼らはキラーラットの進行を防ごうと身を挺した者が多く、全身を噛まれた者もいたが命に別状はない様だった。

念のため医者に診てもらうようメイドに伝え、ゼロは他のフロアの様子を見に行った。


被害は一つを除いてさほど酷くは無かったが、調理場は酷い有様だった。

腹を空かせてたキラーラットが食べ物の匂いに釣られ群がったのだ、運悪くキラーラット騒動の時間帯と騎士達の(まかな)いを作る時間が重なり調理場へ大群が押し寄せてしまったようだ。


調理途中の料理や保管していた食料が食い荒らされててしまい、ゼロが様子を見に行った時には調理台の上に騎士によって倒されて山積みになったキラーラットの死体と、散乱した食材で調理場は地獄と化していた。


「こりゃとんでもない事が起きたな、あぁ食材が勿体ない……」

ゼロと同時に様子を見に来た一人のコックがぽつりと呟く。


「コックの皆さんは無事でしたか?」


「ああ、なんとかな。

飯を作ってる最中にキラーラット共が襲ってきやがったから、みんなで避難したよ。しかし、あんな大群は見た事ねぇぞ」


「そうでしたか。……保管庫の食材は大丈夫でしたか?」


「扉は開いてないからたぶん大丈夫だ。だが食材が足りないので買い出しを依頼するかもしれねぇが、そん時は頼んでもいいか?」


「かしこまりました」


「ああクソ! 今日は徹夜で片付けだな」


コック達は黙々と死体と食い散らかされた食材を片付け始めた。

ゼロはその様子を見て、ハッと思い出したようにパントリーへと急いだ。


「やはり無傷では済まなかったか」


ゼロが管理をしている食器、グラスが割れてしまっていた。

割れたグラスの一つにアルフォードお気に入りの綺麗な装飾がされた持ちにくそうなグラスも割れていた。


このグラスで毎夜ワインを楽しんでいるので割れたことを伝えるとさぞガッカリするだろう。

貴重な鉱石を使用しオーダーメイドで作製した代物の為、替えが利かないのだ。


食器についても割れてしまったのなら買えば良いと言えど、やはり管理をしている者としてはロスを出したくない。

ゼロは割れた食器を手に取りため息一つ、少し気落ちをしてしまった。


騎士達によるキラーラット駆除も終わりに差し掛かっていた。

追いかけながら逃げ込みそうな場所に騎士を待ち伏せ、徐々に逃げ場を無くし、端へと追い詰めていった。


ゼロも騒ぎが落ち着きそうなところで自分たちがキラーラットを避けるのに乗ったテーブルを綺麗にするため大広間へ戻ると険しい表情をしたアルフォードと護衛達が話をしていた。


「これは一体なんのだ!」


「わ、私達にもわかりません。キラーラットの群れがいきなり城内に現れまして」


「侵入経路はどこだ?」


「現在調査中です!」


「アリッサは無事なのか?」


「扉は閉まっていたのでキラーラットが侵入した形跡はありません。

部屋の中からアリッサ様の声も聞こえませんでしたのでご就寝中かと」


「念のため様子を見に行け」


「はっ! かしこまりました!」


一人の護衛兵がアリッサの部屋へと向かうと同時に廊下の奥からもう一人兵がアルフォードの元へと駆け付け、目の前で跪いた。


「アルフォード様、失礼します!」


「うむ」


「キラーラットの群れの侵入経路が判明致しました!」


「どこだ?」


「はっ! 侵入経路は城外搬入口でございます」


「搬入口だと? そこには兵が立っているのではないのか」


「そ、それが……駆け付けた時にはすでに見張りの兵が気絶させられていまして、先ほど目を覚まさせ状況確認を行ったところ、後ろから何者かに突然襲われ意識を失ってしまったとのことです」


「なに? では城内の者の犯行になるのか?」


「そ、その可能性も考えられます」


「ふむ……()()は無事か?」


「国宝は手を付けられた様子はありませんでした」


アルフォードは顎に手をあて、目を瞑り思案した。

混乱に乗じて国宝である金目の物に手を出さず、搬入口の見張りを背後から襲ったのであれば、賊ではなく城内の何者かによる犯行である可能性が高い。


仮に城内の者の仕業であれば、私怨で騒動を起こしたのではないか?

だが、特定の人物に対してではなく魔物を放ち無差別に被害を出している。


また、悪戯とも考えにくく何か別の意図があったのではないか。

城の者だとしても魔物をどこで用意し放ったのか、そう考えると外に共犯者もいる可能性も高い。


「……明日で構わんが非番の者も含め城の者の身辺調査を行うようにせよ」


「はっ! かしこまりました」


アルフォードは他にも怪我人の状況や他のフロアの被害状況などを兵に質問し確認を行った。

あらかた確認したところで普段食事を取っているいつもの席に腰を下ろした。

ゼロはテーブルの燭台を降ろし「失礼します」とアルフォードに声をかけ、テーブルクロスを片付けようとしていた。


アルフォードは無言のままで、晩餐会の時の楽し気な表情と打って変わって、今は疲労の色が見えた顔でじっと床を見ていた。


「ア、アルフォード様!! 大変です!!!」


アリッサの部屋に様子を見に行った護衛兵が急ぎ足でアルフォードの元へと駆け付けた。

だがアルフォードは座ったまま睨みつけるようにその護衛を見る。


「今度はなんなのだ?」


「アリッサ様が部屋に居ません!」


「……他の部屋にでもいるのであろう」


「私もそう思い他の兵と各フロアを捜したのですが、その……どこにも姿が見えないのです」


「………」


「他の出入り口を見張っている兵にも確認しましたが、アリッサ様の姿を目撃しておらず、搬入口はキラーラットが出現した場所ですので、城の外へは出てないと思われます……」


「最後に目撃したの者は?」


「最後の目撃者はメイドですがお食事を終えたアリッサ様がすぐに寝たいと仰っていたため、ベッドに運びそのまま寝息を立て寝てしまったので部屋を出たとのことです」


「という事はなにか? アリッサは部屋で寝たまま姿が消えてしまったと言うことか?」


「は、はい!」


「………まさか」


そして、アルフォードはある可能性に気付いた。

この騒動の真の目的は私怨、悪戯、窃盗などではなく――――




アリッサが目的であることに。

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