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9.■晩餐

アリッサの迷子騒動から数日経ち、体調の経過など様子をみてたが良好な状態が続いたため、程なくして授業は再開された。



現在、ダンスは順調に進んでおり、簡単なステップからレベルを上げて応用の練習を行っている。

この調子で行けば披露宴までは余裕が持てるほど間に合いそうだ。


魔法は相変わらず構築が出来ずイライラしている。

本来であれば呪文を唱えることである程度マナの制御が可能であるが別の要因があるのかもしれない。


歴史はいつもの日常が戻ってしまい、本を立てメモを取るフリをして安らかに眠りについている。

ルロイによる創世記から太古戦争までの話が子守歌になってしまったようだ。


他の科目に比べ、剣術は目に見えて上達をしている。

ダンスのステップと関連があるのか、足さばきが軽やかになっている。

だが、やはりゲイルには攻撃が当たりそうで当たらないのだった。


ちなみに授業が再開されるまでゲイルは今まで城に顔さえ出さなかった。

だが、迷子騒動のお咎め無しの報を受けた直後にひょっこりと城へ現れると、「大した事件じゃないと思っていた!」と、笑い飛ばしていた。調子のいい男である。



そんなある日の剣術の時間、アリッサは庭園にて剣術の練習に励んでいた。

「―97、98、99、100!」


「よし、止め! 素振りはそんなもんでいいだろう、次は足捌きだな」


「はぁ、はぁ、わかったわ」


額から流れる汗を拭い、練習に取り組むアリッサ。

実践で歯が立たないため、ここ最近はまじめにゲイルのレッスンをこなしている。


「よし、足捌きも問題ねぇし、踏み込みもいい感じだ。そんじゃ実戦練習といきますか!」


「今度こそ倒してみせるわ!」


「ふふ、お嬢さん今日も意気込みがいいですな!」


「当り前よ! いい加減ゲイルに木刀を使わせたいわ」


アリッサとの実戦練習において、ゲイルはまだ木刀を持って対峙したことはない。

実戦練習を始めたての頃はゲイルの足払いですっころばされていたのだが、ここ最近は学び始め、無謀に攻めたりはしないように成長していた。


ゲイルの「今から実戦練習を行う」と、言う声と共に互いに向き合い、アリッサはゲイルの動きを見る。


「なんだ? こねぇのか?」

腕を組んだまま、じろりとアリッサを見下ろし、薄ら笑いも浮かべている。


アリッサは黙ったままジリジリと近づき、振り幅を抑えて木刀を振り下ろした。


「ハアッ!」


「うぉっと危ねぇ! ――おっと!」


ゲイルは身体を逸らし、木刀を(かわ)すことが出来た。

だが、間髪入れず追撃してきたので、思わずバックステップで回避する。


「やるようになったじゃねぇか!」


「これぐらい当然よ!」


「よし、じゃそろそろ打ち合ってみるか!」


「え! 本当!」


「ああ、そんじゃ俺に打ち込んできな」

ゲイルはそう言うと木刀を持ち、アリッサと打ち込み稽古を始めたのだった。



※※※



剣術の授業も終わり昼食の時間になると、さも当たり前のようにゲイルも大広間の席に着いた。

今回もアルフォードが昼食に居合わせたので、ゼロは一度ゲイルに断りを入れようとしたが、アルフォードが許可した為ゼロも下がった。


「さてゲイルよ、アリッサの剣術の腕はどうだ?」


アルフォードにとってゲイルとの食事は剣術の近況を確認する場になっている。


「そうですねー、段々と上達してますので弱ぇ魔物じゃなくても対人で勝負が出来るぐらいにはなっているかと思います」

黄色のポティロンスープをすすりながらゲイルは答える。


「なら、盗賊とかにも勝てるかしら!」


「お嬢さん、一対一ならわからねぇが奴らは数で囲んできたり、騎士道精神なんてもんもねぇから卑怯な事をしてくるぜ」


「卑怯ってどんなことよ?」


「うーん、わかりやすいところで言うと不意討ちとかじゃねぇかな。まぁ城の中に居りゃ会うこともねぇがな、ハハハハ!」


「ゲイルも不意討ちとかされたの?」


「うん? 俺は盗賊ぐらいなら取り囲まれても倒せるかな、不意討ちをくらったとしても奴らぐらいの腕じゃ俺の身体に傷もつかねぇだろうし」


「ふーん、そうなのね。でもいつか私も盗賊を倒してみたいわ」

アリッサは目をキラキラさせながら呟く。


過去に剣術の授業中に聞いたゲイルの盗賊を全滅させた自慢話を思い出し、自分と重ね合わせたのだ。


「ふむ、では剣術はこれまでにして他の授業を優先的に進めていこう」


「え……お父様! 剣術もっと続けたいわ」


「うーむ………」


アルフォードは考えた。

アリッサが剣術に対してやる気を出している、ゲイルとの関係も良好だが、自分が思っているレベルまで既に達している為、これ以上のレッスンなどは求めていない。


だが、ここで剣術を無くしてもアリッサのモチベーションは下がり、他の授業に影響が及ぶの可能性があるのではないかと。

また、精神面を鍛えるために剣術を習わせていたので、継続していても問題は無いのではないのではないかと。


「わかった、では剣術はこれからも続けていく。だが他の科目を優先するので剣術の機会は次から少なくする」


「えー! …まぁ、わかったわ。ところでゼロ、次の剣術っていつかしら?」

渋々納得した様子で後ろにいるゼロに問いかけた。


「次は三日後になります」


「あー……話を追って悪ぃんだが、次の授業だが午後からって出来ますかね」

ゲイルが割って入って来た。


「都合が悪いのか?」


「ええ、ちっと外せねぇ用事がありまして」


「ゼロどうだ?」


「問題ありません、歴史を午前にして剣術を午後に入れ替えるよう調整します」


「すんません、恩に着ます。…あとついでに飯も頂けると助かります」

ゲイルは手で後頭部を撫でながら、笑みを浮かべ申し訳なさそうに伝えた。


「私はいいけど、お父様もいいわよね?」


「うむ、構わん。アリッサをここまで育ててくれたしな」


「ありがとうございます。お礼と言っちゃなんですが美味い酒でも持ってきます」


「ほう、冒険者が飲む酒とは興味があるな」


ゲイルが酒を持ってくる話にアルフォードは興味を惹いたようだった。

城にはワインしか置いていない為、ワイン以外の酒をアルフォードが口にすることは滅多に無いため、三日後のディナーをアルフォードも楽しみにしている様子だった。



※※※



そして三日後、午後の剣術の授業を終え、ゲイルは酒を持ってくると言いディナーの時間まで一度城から外に出た。

ディナーの時間になると純白のドレスに着替えを終えたアリッサ、日々の業務で若干疲れた顔をしたアルフォード、少し遅れてゲイルが大広間へと順に集まった。


ゼロは今回のメニューはアラカルトを無くして、魚、肉、野菜、フルーツを分けて大皿に載せ、取り分けて食べるスタイルにした。

個々に欲しいものを伺いゼロが小皿に取り分けを行ってたが、ゲイルにはそのスタイルが合わないのか自分の皿に好きなものを載せていた。

この男にはマナーという言葉は存在しないのだろう。


ちなみにディナーの時はアルフォードにワインを、アリッサには水かジュースを注いで出している。

今回はゲイルもいるのでゲイルの横に置いてあるグラスにワインを注いだ。

ゲイルは匂いを確かめるようにして、一気に飲んだ。


「おお、ワインってのも美味いですな! なんて言うか口当たりがいい!」


「ほう、ワインを飲む機会が少ないのか?」


「ええ、酒場ではビールか果実酒ぐらいしかでねぇです。あっ! そう言えば、この前言っていた酒を持ってきました」

ゲイルは足元に置いている布袋をゴソゴソと漁り、一本の瓶を取り出した。


「こいつは麦芽(ばくが)を長いこと樽で寝かした酒になります。けっこう強い酒なんですがこれが美味いんです」

ゲイルは瓶の栓を抜き、グラスに注ぐと琥珀色の液体で満たされた。


「ほう、なかなかいい香りがするな……どれ」

アルフォードはくいっと飲む。


「ふぅ、なかなか強い酒だな、しかし美味い。味に深みを感じる」


「私も飲んでみたいわ!」


「お嬢さんには早えよ、俺が取ってやるからこれでも食ってな」


ゲイルはアリッサの皿にフルーツを盛って差し出したが、アリッサは勝手にグラスを持って飲み始めてしまった。


「――! か、辛いわ! これのどこが美味しいのよ!」

アリッサは急いで水を飲み、皿のフルーツを食べて口直しをする。


「だから言ったじゃねぇか」


「フフフ、酒の美味さはもう少し大人になればわかるようになるかもな」


「私だってもう少しで成人になるわよ」


「お嬢さんが大人になったらさも美しくなるんでしょうな」


「あ、当り前よ! あと、もっと褒めていいわよ」


それから終始和やかなムードでディナーは続いたのだが、酒を口にしたからなのかアリッサが眠いと言い始め、先にメイドへ連れられ部屋へと消えてしまった。

ゲイルの武勇伝がキリが良いところでディナーは終了となった。


「王様と飲める機会なんて滅多にねぇから楽しかったです」


「ああ、儂もゲイルの話は興味深かった、酒も美味かったしな」


「ありがとうございます。では、ここらへんでおいとまさせていただきます」


ゲイルは一礼すると大広間から去っていき、それを見届けたアルフォードも自室へと戻る。

皆がいなくなったのを確認したゼロは食器などの片づけを行い、大広間のテーブルを綺麗にして一息つこうとしていたのだが―――


「きゃーーーーーーーー!!!」


突如、廊下の奥から断末魔のような声が聞こえ、ゼロも何事かと急いで様子を見に行く、そこで見たものは本来であれば決して城に現れる事がない存在がいた。



それは廊下を埋め尽くすほどの魔物の群れだった。

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