第8話
とりあえず様子見……情報が不足し過ぎていて、結論としては微妙な判断が下されそうになった、その時だった。
『仙台市太白区にモンスター出没情報 既に討伐には成功 軽傷者1名』
結局のところ国営放送の地方局が最も近隣の状況が分かりやすいだろうということで、テレビを無音にしながらも選局し映したままにしていたのだが、ついに同じ区内でもモンスターの被害が出た様だ。
……ん?
軽傷者1名で討伐成功?
…………まさか、さっきのスライムだったりしないよな?
変な汗が背中を伝い落ちるが、素知らぬ顔でテレビを見続ける。
兄の目線がこちらを向いた気がするが、全力で無視。
さらに詳しい情報が出ないか、ここに来て初めて、テレビの消音を解除して続報を待つ。
……結論から言えば違った。
モンスターはモンスターだが、ランクとしては、オレを驚かせたゴブリンとよく比較されるほど低位の存在。
ゴブリンと似たような背丈で、醜い犬の様な顔をした、半人半獣のコボルトというモンスターだ。
出現したのは高速道路上で、要は車で轢き殺した格好。
コボルトに気付いて慌ててブレーキを踏んだドライバーだったが、結局は間に合わずに衝突。
ドライバー自身も軽いむち打ち症になってしまったらしい。
……うーん、こういった場合、運転していた人って何か罪に問われたりするのかね?
「ッ! もしもし? ママ!? ……うん、うん、大丈夫。そっちは?」
突然、妻のスマホが鳴り、普段おっとりしている姿からは想像がつかないぐらいの超反応で、妻が電話に出る。
息子が驚いてグズリだしたので、オレは慌ててフォローに回った。
「うん、良かった……とにかく、無理はしないでね? うん、分かってる。こっちは大丈夫だから……はい」
妻の通話している不安気な姿に、思わず胸が詰まる。
平時なら、どうということもないのだろうが、こういう時に、すぐに会えないのはやはり辛いのだろう。
あの後すぐに機嫌の直った息子は、東京のお婆ちゃんの声を聞かされて、あちらには見えないだろうに、お返事しているつもりなのか、右手を上げてニコニコしている。
◆
しばらく後、義姉(兄の奥さん)の両親の安否も確認が取れた。
こちらは災害時の伝言板によるものだ。
まだ、妻の姉夫婦と甥、姪とは連絡がつかない。
知人、友人のほとんども未だに安否の確認は取れていないし、オレの明日の仕事すらどうすれば良いのか、上司や同僚、顧客に連絡出来ていない今、依然として不透明なままだ。
兄の長男の学校は、取り敢えず休ませるという。
周辺警戒は兄と交互に行っているが、今のところ何も発見出来ていない。
テレビは通常の番組の放送を各局とも取り止め、緊急ニュース特番一色といった様相のまま、各地の状況を断片的に伝え続けている。
そんな中、オレは1人のコメンテーターが発した無責任な発言が、どうしても気になり始めた。
もちろん誰にも正解が分からないのだから、彼にだって責任の持ちようなど無いのかもしれないのだが……
『魔石やダンジョン産の、いわゆるマジックアイテムの利用の蓄積により、今まで地球上に存在し得なかった……そうですね。例えるなら魔素とでも言うべきものが大気中に満ち、それが何らかのトリガーによって、今回のモンスター災害を……ええ、充分に考え得るのではないかと思います。それが証拠に各地の被害状況には人口密度や、それに伴う発展の度合いに依って、かなり明確な差が出ていますよね? つまり……』