第74話
「あのなぁ……まぁ、気持ちは分からないでもないが、そういう大事なことは真っ先に報告しろと、あと何度お前に言ったら良いんだ?」
既にすっかり諦め顔の兄ではあるが、言うべきことは言ったぞとばかりに、大きくため息をついた。
確かにオレは喜ばしいことや重要なことほど、話の最後に持っていく悪癖があって、せっかちな兄に叱られるということを、それこそ子供の頃から何度となく繰り返している。
両親や妻などは特に気にも留めないので、これを咎めるのは兄と親友のうちの1人だけ……結果的にこの癖は直らず、ちょくちょく兄を呆れさせてしまう。
……さて『魔法』について、ニュースで報じられた内容だが、茨城県土浦市の荒川沖という地域にあるダンジョンで見つかったワンドが、オレの見つけたモノと同様に魔法が使えるようになるマジックアイテムだったというものだ。
こちらは【火魔法】のスキルを使えるようになる魔杖だった。
威力についても、読み上げられたニュースを聞く限りでは恐らく同程度。
そして、数回も使うと目眩がしてくるという内容だった。
目眩は……オレが検証した限りでは、マジックポイント切れ特有の症状なのだが、それについて世間的には今のところ判明していないようだ。
もちろん【鑑定】や【鍛冶】などのスキル持ちの人などは、体感的に予測がついているだろうし、遅かれ早かれこの現象についての情報も世間に出回るようになるだろう。
しかも……これは秘匿しておく意義はほぼ無い情報だ。
せいぜいが、現状でネタスクロールと言われている、スクロール(魔)の価値が劇的に変化するというぐらいだろう。
……いや、けっこう大事だろうか?
この後ダンジョンに向かう兄達に、柏木さんへの伝言を頼むことにした。
もちろん可能ならばということにはなるが、柏木さんを通じてダンジョン探索者協同組合からの公式声明として発表して貰うことで、スクロール(魔)の価値が見直されると同時に、少しでも『魔法』を使いこなすことに長けた探索者の数が増えれば、今後のモンスター災害による被害は確実に減らせるだろう。
閑話休題……
今回のダンジョン探索で得られた戦利品のうち、その最たるものは何と言っても『翠玉の短杖』になるだろう。
何せ、これを所持していれば誰でも【風魔法】が使用可能になるのだから、使わない手はない。
兄だけは【短転移】にもマジックポイントを使うのでほどほどにして貰うにしても、父と妻には積極的に使って貰おう。
たとえ擬似的にでも、純粋な後衛役を今のうちに体験しておくのは良いことだと思うし、やっておいて損は無い筈だ。
今回、得られたスクロール(魔)は全部で8つ。
オレも今後は魔法で使うことを考えて、1つ貰うことにした。
今日は積極的に魔法を多用した分、ちょっと魔力切れを起こすのが早かったので、次からは考えて魔法を使おうと思う。
他は兄が3つに、父と妻が2つずつ。
地道な強化だが、コツコツやっていくしかない。
次に挙げるべき戦利品だが、石距が落とした護符がとても良い性能だった。
『大蛇蛸の護符』という名前がついているようで、装着するのは主に武器になりそうだ。
電柱のようなサイズのムチとしてオレを苦しめた触腕の誇る打撃力を、武器本来の打撃力に加えて付与する護符ということなので、オレの鎗に付けられた槌頭が早速強化できる。
盾持ちなら、盾に付けることでシールドバッシュ(盾による殴打)も強化できそうではあるが、オレ達の中には盾持ちはいない。
もし父の武器を【杖術】スキルが活きる形に作って貰うのならば、殴打はむしろ主要攻撃手段になるのだから、そういう意味でも良いアイテムを得たと思う。
デスサイズからも3つ目となる死蟷螂の護符(斬擊力強化符)を入手し、得物の特性上これが不要な父以外の3人が自分専用の護符を手にしたことになる。
オレも今日は、鎗に新しく追加された月牙の素の攻撃力だけで戦っていたものが、明確に強化されるのは有難い限りだ。
その他の階層ボスの戦利品は……ヘルスコーピオンからは耐毒のネッカチーフを。
ギガントビートルからは腕力向上剤を、それぞれ入手。
ドーピングアイテムは他にも、一般モンスターから得た腕力向上剤が2つで、合計3つ。
幸運向上剤が2つに、持久力向上剤も2つで、敏捷向上剤は4つも得られた。
分配は、腕力向上剤がオレ以外の3人。
幸運向上剤は、父と妻。
持久力向上剤は、オレと兄。
敏捷向上剤は仲良く皆1つずつ……ということになった。
今回はポテンシャルオーブも5つ得られたのでオレが2つ使わせてもらえることに決まった。残りは皆で1つずつ分けてもらう。
その他にお菓子系アイテムも多数ドロップしたが、オーブを多く貰った分オレの割り当ては少々減らしておいてもらうことにした。
スタミナマフィンを父が多めに。
ストレングスクッキーは妻が多めに。
兄とオレはバランス重視……なのだが父と妻に分配されるアイテムが偏る分、結果的にクイックネスゼリーやポテンシャルキャンディが多めになるというのが、最近は定番化しつつあった。
その他にも、アジリティの指輪(敏捷上昇アクセ)や、パワーチョーカー(腕力上昇)、梟のピアス(魔法抵抗力上昇)といったアイテムも得られたので、ますます探索も能力強化も、有利に進められることだろう。
午後の探索は午前中のそれよりは多めに時間が取れるとは言え、今日は数々のニュースに耳目が奪われた関係で、報告会も分配会議も多少いつもより時間が長く掛かってしまっていた。
兄の刀のメンテナンスと父と妻の武器の新調とを、それぞれが個々に柏木さんに頼む都合上、少しばかり慌ただしい出発になってしまっている。
慌てる気持ちも分からないでも無いが、とにかく気を付けて行ってきて欲しい。
オレは食後のデザートとしてすっかり定着してきたお菓子系ドーピングアイテムを頬張りながら、バタバタと出かけていく皆を息子と一緒に見送っていた。




