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第69話

 ……ゾンビ。

 分かってはいたつもりだが、動く死体そのものだ。

 しかし……見るからに、このダンジョンで死んだ人のものでは無い。

 防具らしい防具を身に付けていないどころか、今の時代にこんな服を着た人は、まず居ないハズなのだ。


 さらには、明らかに日本人でもない。


 何だかロールプレイングゲーム(それも古きよきRPG……)の世界から抜け出して来た村人Aとでも言いたくなる風の死体で、金髪碧眼かつツギハギだらけの農夫風な格好をしている。

 髪のベタベタと油ぎった痩せぎすの中年ほどの男性で、腹は何かに食い破られて臓物が出ている上に周りに血が黒く固まっていて、確かにリアルな死体といった風情ではあるが……どうしてもダンジョンに用意されたモンスターのようにしか思えない。


 どこか現実感に乏しいのだ。


 おかげで、戦闘や撃破に関しての抵抗感は非常に薄い。

 もちろん、無慈悲のチェーンアンクレットによる精神補正で、不要な仏心が抑えられているということも関係しているのだろうが……。


 創作の世界のゾンビとは違い、頭を落としても動くこと、案外と動作が機敏なことを除けば、さして強いモンスターでは無かった。

 頭部に続いて両腕を落とし、胴体に数回刺突を喰らわせると、あっさり光に包まれ消えていく。

 ゾンビが消え去った跡には、ゴブリンよりは少し大きい程度の魔石が遺されていた。


 今後こうしたアンデッドモンスターも、普通にダンジョンに出るようになると考えるべきなのだろう。

 事によると何とかダンジョン探索を続けている探索者に、余分な被害が出ることも有り得るのではないだろうか?


 第2層という浅い階層だから、ゾンビで済んだという可能性は高い。

 ダンジョンを世界中にバラ撒いた何者かの悪意を強く感じる。


 だとすれば……何かしら対抗策が有る?


 まるで、ゲームのバランスを保つかのように、一方的な展開を許さないとでも言うかのように、このところ立て続けにルールの追加や変更をしている印象が有るのだ。


 確かにダンジョンが発生してから今までの20年の間、人類はダンジョンからの恩恵を受けるだけで、それを疑問に思うことも裏を疑うことも怠って来たようにしか思えない。

 魔石を利用した発電や浄水、空気汚染の改善に始まり、マジックアイテムの数々が齎した発展は、それはそれは多大なものがあった。

 ここらで揺り戻しがあってもおかしくないと言われれば、それは確かにそうなのだろう。


 ただ、モンスター災害発生以来オレが感じ続けている不快な感覚……まるで何者かに弄ばれているような、この強い違和感……。

 決して気のせいで片付けて良いものでは無い筈だ。


 そこから導き出された答え……必ずや、これらアンデッドモンスターに対する明確な対抗手段は有る筈だという、まるで得体のしれない、しかし確信めいた予感がする。

 何と言ったら良いのかオレにも分からないが、対抗手段が無いなんてことは、まず無いとさえ思えるのだ。


 どうやらワンサイドゲームはお好みで無いようだから……っていうところだろうか。


 その後も現れるゾンビやモンスターを片っ端から倒して進んでいく。


 数はあまり多くないし、そこまで強くもない連中だが、いつもより僅かに億劫に感じるのも事実だ。

 緩和されているとは言え、精神的な負荷が大きくなったのは否めないということだろう。

 幼子の姿をしたゾンビが出た際は、あまりの悪辣さに怒りさえ覚えた。

 それがたとえ()()()なのだとしても、子供の小さな身体に無骨な凶器を振り降ろすという行為自体、やはりキツいものがある。


 最短で階層ボスの部屋へと向かい、ヘルスコーピオンと対峙するが、今日は取り巻きモンスターが少しおかしい。


 いつもならジャイアントスコーピオンしか居ないハズなのに、何故かジャイアントバタフライの姿も見えるのだ。


 これはもしや、ダンジョン自体の難易度が地味に上がっている……?


 もちろん、ジャイアントバタフライの鱗粉は厄介だし、飛行している分だけ若干やりづらくも感じるが、ヘルスコーピオンにしてもジャイアントバタフライにしても、今さら苦戦するようなモンスターではない。

 丁寧にジャイアントバタフライから倒して、残るジャイアントスコーピオン、ヘルスコーピオンと片付けていくのに、大した時間は要らなかった。


 しかし……ただでさえ、無理ゲーダンジョンなどと揶揄されているダンジョンの難易度が、僅かとは言え上昇しているのは、とても面倒に思える。

 気を引き締めて掛からなければ、既知のダンジョンであるが故の油断が、命取りにもなりかねない。

 あまり慎重とは言えない性格をしている自覚はあるが、決して無謀でも無いつもりだ。


 注意しながら、探索を進めていくとしよう。


 そうした心構えが良かったのか、単に【危機察知】のスキルが優秀なだけか……まさか、まさかの階段を登ってすぐのところに、罠を張っていたゼラチナス・キューブに気付けたのは、まさに勿怪(もっけ)の幸いというところだった。


 何の気なしに階段を登りきっていたら、麻痺させられていたかもしれない。

【危機察知】は優秀なスキルだが危機の有無と、大体のモンスターの強弱、あとは概ねの位置ぐらいしか分からない。

 いつもより用心していたから気付けた部分は、やはりあるだろう。


 何という(いや)らしい配置であることか。

 これは奇襲が得意なモンスターに、今まで以上の警戒が必要になるだろう。


 久しぶりに第3層で味わう緊張感……否が応にも磨り減らされていく精神力……そして、またも現れるアンデッドモンスター。


 最初に現れたのはスケルトン……酷く錆びた剣やボロボロの木盾を持っている。


 さらに、革鎧や革手袋程度だが防具を身に付けたゾンビも現れ始めた。

 それらはいずれも前時代な意匠で、やはりこのゾンビやスケルトンが、ダンジョンによって作られた存在……単なるダンジョンモンスターであることを強く感じさせるものだった。


 そして、厄介なのはアンデッドだけでは無かった。

 社会性のある昆虫であるアリが大型化したモンスターであるジャイアントアントや、亜人系モンスターのゴブリン、ゴブリンアーチャー、オークなどに関しては、明らかに連携の精度を上げて、襲って来るのだ。


 しかも曲がり角の右手にゼラチナス・キューブ……左手にゴブリンアーチャーとゴブリンの部隊……後背からオークの群れ……のように、異なる種族間でも、平気で連携してくる始末で、時折オレも捌ききれずに思わぬ怪我をさせられることすらあった。

 かすり傷程度だが、痛みというものは確実に思考を鈍らせ注意力を奪う。

 小まめにポーションを飲むハメに陥り、おかげで少しばかり水っ腹だ。

 短時間でも良いから、ボス部屋に行く前に休憩しよう。


 そうした、普段しない行動が、この時ばかりは幸運を(もた)らすことになった。


 人間万事塞翁馬(にんげんばんじさいおうがうま)(何が災いし、何が幸いするか分からない……みたいな意味)とは、この事だろうか?

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― 新着の感想 ―
[気になる点] なんとなくダンジョンは地下に潜っていくイメージだったのですが。 「階段を登ってすぐのところに」という表現があり、この作品の世界のダンジョンは塔みたいなイメージなのでしょうか?
[気になる点] ちょっと地の分だけな回が多くて読みづらいかな? あと設定垂れ流し(主人公視点での感想的に書かれてますが)が多いのも読みづらさに拍車をかけてると思います ところどころに独り言(強そうな…
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