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第67話

 僅かな時間とは言え普段通りに目を覚ましたオレだったが、ネコゾンビ騒動で睡眠が中断されたせいか、肝心の父がまだ起きてこないため予備の槍を持って鍛練に励んでいた。


 やはりこの槍では軽いにも程がある……柄が木製なのもあるが、今までの得物と比べてしまうと軽すぎてバランスが悪く思える。

 これでは本当の意味での予備にしかならないだろうし、いっそ父の予備武器として進呈してしまうのも良いかもしれない。


 ただ、弘法筆を選ばず……の(たと)えも有る通り、本当に技を極めている人なら、この槍でも存分に使いこなすのだろう。

 こうして鍛練で使う分には、知らず知らず力任せになっていた動作を修正するのに、逆に良いぐらいでもある。


 ◆


 さて……朝食も済ませ、父の杖術の技を無事にスキル化することも出来た。


 やはり【槍術】ではなく【杖術】になったので、それを踏まえて、柏木氏に依頼して新しく父の武器も作って貰った方が良いだろう。


 時刻は9時を回ろうとしている。


 まだ時間が有ると思って、息子や甥っ子達と遊んでいたら、少しばかり出発予定時刻をオーバーしていた。


 まぁ、モンスターに遭遇でもしない限り、歩いて2分の道のりだ。

 慌てる必要はない。


 いつもなら、ダンジョンに直行するのだが、今日は先にダン協の建物に寄る。

 柏木氏に(いた)んだ鎗や防具の具合を見て貰うためだ。


 ダン協内に併設された武具販売店へ向かうと、そこには柏木氏、柏木兄妹の兄の右京君、それから受付のお姉さん(かなり歳上)が勢揃いしていた。


 まるで待ち構えていたかのような格好……というか、事実オレを待っていたようだ。


「やぁ、宗像君、早速来てくれたんだね」


「おはようございます、柏木さん、お姉さん。右京君もおはよう」


「おはようございます!」


「おはようございます。じゃあ私は受付に戻るから、何か有ったら呼んでね?」


「あぁ、ありがとう」


 お姉さんは何やら親しげな様子で柏木氏にヒラヒラと手を振り、オレが入ってきた出入口から、買い取り所の方へ戻っていく。


「お知り合いだったんですか?」


「あぁ、倉木さんは私の探索者時代から、ダン協に居たからね。こことは違うダンジョンでの話だが、当時は良く世話になっていたんだ」


 倉木さんっていうのか。

 若い頃の倉木さんは、かなり綺麗だったのかもしれない。

 今でもスタイル等は崩れていないし、顔のパーツも整ってはいる。

 当時は創作の世界で良く見る、いわゆる美人受付嬢そのものだったのだろう。


「右京君は今日はどうしたの?」


「宗像さんが来るっていうんで、お会いしたかったのも有るんですが、今日は武器を買い換えようと思いまして……黒川さんが亡くなったうえ野田さんも片腕を失って引退しましたから、僕と妹が二人ともロングスピアじゃ、2人でイチから出直すにしても、無理が有りますから」


 野田というのがリーダーっぽかった少年……黒川君というのはオークに潰されてしまった彼、か。


「じゃあ剣とか刀にするの?」


「そうですね……それか宗像さんみたいに短槍でしょうか」


「それも悪くないかもしれないけど、妹さんも槍だから、刺突系の武器より斬撃系か打撃系の武器が良いと思うよ。ただまぁ……右京君は、あんまりガタイの良い方じゃないし、そこのスレッジハンマーみたいなのはオススメしないかな」


 右京君は、良く言えば細マッチョ……だが、一歩間違えると少女にも見える程に線が細いのだ。

 とても重量級の装備は似つかわしくない。


「……父と同じことを言うんですね。でも確かに、そのハンマーは重すぎて断念したところです。そっちの斧も、ちょっとだけ重かったので諦めました」


 ちょっとだけ?

 いや、見るからに無理だろう。

 案外、腕力がダンジョン通いで上がってたりするのかな?


「右京、しょうもない見栄を張るな。宗像君、済まないね。とりあえず君の要望から聞くとしようか」


 しばらくは黙ってオレ達のやり取りを聞いていた柏木さんだったが、息子の虚勢を張る姿が我慢ならなかったのか、遮って用件を尋ねてきた。


「短鎗と防具の状態を見て頂きたいのと、継続使用が可能ならメンテナンス……無理そうなら新しく作って頂けないかな、と」


「了解した。では、そちらの商談用ソファーへどうぞ。……右京は、しばらくショートソード中心に扱えそうな武器を見つけておけ。盾も持つことを考えて、ギリギリの重さの武器を選ぶんじゃないぞ」


 不服気ではあるが、どうにか素直に頷いて、ショートソードを見ることにしたらしい右京君を置いて、パーティションで区切られた商談用スペースへと移動する。


「さて……状態チェックからしようか?」


「お願いします」


 まずは持っていた鎗から預け、柏木氏から促されるたび、身に付けていた防具を1つ1つ手渡していく。


 やはりというか、なんというか、柏木氏の顔が最も曇ったのは、鎗を手にしている時だった。


「結論から言うと、この短鎗は寿命が近いようだね。他の防具類については、留め具が少し傷んでいるものこそあれ、それさえ交換すればすぐにどうこうという物は無いようだ。良く手入れもされているようだし……」


「そうですか……では取り敢えず留め具の交換は、すぐにでもお願いします。それで、鎗についてなんですがこのまま使い続けるのはやはり難しいですよね?」


「……最悪たった1回、硬いモンスターに突き掛かっただけでも折れかねないな」


「……そうですか。なるべく近い品質の鎗って、有りますか?」


「これは総鉄製だからね。柄まで金属製となると、さすがに普段から置いている店は無いよ。水道橋のダンジョンに併設されていた店舗なら、あるいは有ったかもしれないけど……まぁ、今はあんなだからなぁ」


 あんな……戻りドラゴン等に潰されて、水道橋のダン協の施設群が壊滅したのは、大々的にテレビで報道されていたため、かなり有名な話だ。


「となると、やっぱり新しく作成をお願いするしかないですね。お願い出来ますか?」


「あぁ、もちろん構わないよ。材質や、形状なんかの希望はあるかい?」


「はい、実は……」


 ◆


 柏木氏に防具の留め具の交換と、新しい武器の作成を依頼した後、オレは右京君に付き合って、様々な武器や盾などを一緒に選んだり、新しいポーションストッカーを決めたりしながら、鍛冶作業の終了を待っていた。


 右京君は、全身鎧に盾、長剣……のような、いわゆる騎士や勇者を思わせる装備や、反対に戦斧にバンデイットメイルのみ……みたいな蛮族じみたスタイルに憧れがあるようだった。

 ただ、あまりに華奢だ。

 さぞかし女の子にはモテるのだろうが、モンスターとの戦いに向いているようには、正直あまり見えない。

 結局、刃渡りの短いショートソードと取り回しの良いサイズのヒーターシールド(方形の盾)に決めるようだ。

 今は前衛としては頼りない右京君だが、無理をせず気長にダンジョン探索を続けていけば、いつかは憧れの装備にも辿り着けるハズではある。

 取り敢えずは妹さんと2人で、口の悪い連中からは『ド田舎ダンジョン』などと呼ばれている、この近くの廃校跡ダンジョンに通うことにしたらしい。

 ここからだと車で10分と掛からないし、コンビニが1軒ある以外は、周囲が田んぼや畑ばかりの地域なので、恐らく外に出るモンスターも雑魚ばかりだろうしダンジョン自体の探索難易度もかなり低めらしいので、まだダンジョン初心者の域を出ない彼ら兄妹にとっては、とても良い選択だと思う。


「宗像君、お待たせしたね。出来たよ。早速だがこちらの試用室で違和感が無いか試して欲しい」


 思っていた以上に早い。

 さすが【鍛冶】レベル2の腕だ。


 ……柏木氏の【鍛冶】スキル?

 先ほど【啓蒙促成】で、躊躇わずにサクっと上げておいた。

 何より自分の為に。


 バレるデメリットより、上げるメリットが勝つと踏んだというのも有るし、一応の口止めはしたのだ。


 柏木氏ならバラさないという、いわゆる勘みたいなものが働いたというのもあるけれど……。

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[一言] >僅かな時間とは言え普段よりは目を覚ましたオレだったが、 普段より早いのか遅いのか
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