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第63話

「……はぁ」


 我知らず、ため息が出てしまう。


 学生時代から長年にわたり愛用していた、ポーションストッカー(ベルト状……試験管サイズであるポーション瓶を腰の左右に5本ずつ携行可能)を失ったショックは、実はかなりのものだったが、まぁ……今は無事に階層ボスを倒せたことを喜ぶべきだろう。

 実際、正体を現した石距(てながだこ)は、想定していた以上の強敵だった。

 ポーションストッカーは、毎年の様に新商品が出ていて、今は収納力やクッション性に関しては、オレが使っていた物より数段上のタイプも出ている。

 その分かなり良い値段もするが、それは必要経費と割りきることにしよう。


 さて……進むべきか、退くべきか……ここは思案のしどころだと思う。

 とりあえずは戦利品の回収に移るが、ドロップアイテムを拾う手は動かしながらも、オレは思案に暮れていた。

 体力は…………ある。

 さすがに、中級スタミナポーションの効き目は、素晴らしいものがあった。

 むしろ探索開始前より、体力的には充実しているような感じさえするのだ。


 では、何が引っ掛かっているのか?


 まず問題としては、精神的な疲労が挙げられる。

 愛用している(使い回しとはいえ……)新緑の靴に付与された精神疲労耐性は、とても優れたものなのだが、延々と繰り広げていた今回のボス戦は、その魔法効果を僅かに上回る疲労をオレに(もたら)したようで、今のオレは少しばかり戦いに赴く気力に欠けているような気がするのだ。

 精神の疲労は、ポーションで回復できるものではないので、なかなか厄介だと思う。


 もう1つの問題は、石距(てながだこ)の瘴気により、壊れてしまったポーションストッカー。

 万が一を思うと、ポーションをすぐに使えないのは痛い。


 最後に、これはポーションストッカーの件とも重なるのだが、他の装備品の耐久度が気に掛かるということ。

 一応、武器に関しては予備の槍も有るし、服も着替えは用意している。

 防具に関しては、恐らく普通の金属製装備よりは腐食には強いであろうマジックアイテムが大半なのだが、それとても絶対に壊れないとは言い切れないのだ。


 なら進むべきか?


 装備品に不安の残る状況で進むのは、あまり賢い選択肢では無い……かな。

 よし、今日のところは退こう。


 そう決めた時だった。


 石距が遺した宝箱に、何やら罠が仕掛けられているのに気付いたのは……。


【罠解除】も初めての出番だとばかりに、宝箱に潜む罠の存在を、該当スキルを保持することで得られる独特の感覚に訴えて来るし、また【危機察知】も普段ゼラチナス・キューブやジャイアントゲッコ(ヤモリ)など、モンスターの奇襲に対する警報とは、また別種の危険を頻りに知らせて来る。


 ……さすがに緊張はするが、こう浅い階層で宝箱に仕掛けられている罠が、そこまで悪質なものだとも思えないのも事実だ。


 心静かにスキル発動を念じると、罠の解除手順が脳内で順次、再生されていくような感覚をおぼえる。

 それに素直に従いながら、慎重に罠を外していく……と。


『カチリ!』


 硬質な音を立てながら、初めて遭遇した罠が外れていくのが分かった。


 途端に緊張から解放されるのと同時に、あれほどやかましくオレの中で暴れていた、2つのスキルからの警報も、嘘のように雲散霧消する。


 いや、便利なんだけど、ダブルはキツかったなぁ……という、ね。


 宝箱の中には、重厚な装丁が施された書物が1冊……そう、まさかのスキルブックが入っていたのだ。


 ここは試しに【鑑定】してみよう。


 オレは、すぐに探索に戻りたくない気持ちからか、普段ならやらないことを試してみることにした。


 不思議なことに、ダン協お抱えの【鑑定】スキル持ちがスキルブックを鑑定したかどうかという情報は少なくとも公表はされていないので、以前から少し気になっていたということもある。


『スキルブック(妖)……妖怪に属するダンジョンモンスターが遺した膨大な妖力の残滓(ざんし)が、書物として物質化したもの。装丁は洋風だが、得られるスキルは妖怪の出身国特有のものになる可能性が高い。解析または照会に類する語句を念じることで、様々なスキルの中から無作為に得られるものが決まる』


 ふーむ……これはつまり、実はスキルブックを落としたモンスターによって、得られるスキルに違いが出るっていうことだろうか。

 石距なら、どことなく和風のスキル?

 いや、和風のスキルって何だろうな?

 まぁ【縮地】とか【刀術】は、何となく和風だろうか。


 そうなると【乾坤一擲】や【矛術】は中華風で……【勇敢なる心(ブレイブハート)】やら【細剣術】は、こうして考えてみれば洋風な気もするな。


 あぁ……なるほど。

 これは公表しにくいか。


 そもそも、スキルブック自体が極めて稀少なのだから、そうそう狙って得られるものでもない。

 もし狙うとしても、変に弱い日本の妖怪や、中国由来の雑魚モンスターを狩ろうとして、ずっとダンジョンの同じ階層を占有するような人が居たら、何かと不都合が出て来てしまうだろうし……。


 よし。

 これは見なかったことにして、今日は早々に帰るとしよう。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 一話から一気に楽しく読ませて頂きました。一話分のボリュームは少ないですが更新頻度が速いためストレスなく読めました。 [気になる点] 会話が少なく主人公の現状の説明文に感じますので物足りなく…
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