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第6話

 注意深く玄関のドアを開け、辺りを見回す。

 視界の及ぶ範囲には、特に変わった点は無いように思える。

 オレ、妻と息子(おんぶ紐)、兄の順で、即席の護衛陣形を取り、そろそろと慎重に進んで行く。


 遠目には国道を行き交う車の列も見える。

 水曜日の午前。

 既に通勤ラッシュの時間帯は過ぎているが、元々それなりに交通量の多い道路だ。

 あの車を運転している人々は、既に異変を知っているのだろうか?

 それとも、いまだ変事を知らずに日常を過ごしているのだろうか?

 それを確認する手段も、報せる(すべ)もない身ではあるが、何となくそんなことが気になってしまう。


 以前は中学校の敷地に隣接する、広大な農地だった場所に、オレの家は建っている。

 数年前、新しく宅地として区画整理されたエリアだ。

 北に向けて真っ直ぐ歩けば先ほどの国道沿いの歩道に出る。

 信号を渡って反対側の歩道に移り、今度は西に向けてまた真っ直ぐに行けば、実家が見えてくる。

 距離にして、(およ)そ700メートル。

 普段なら、のんびり歩いても5分と掛からない道のり。

 今日は、それが酷く遠くに感じられる。


 実際、とりわけ有力な索敵手段を持たないオレと兄だが、自分1人で歩く分には、これほど慎重にならずに済むのだろう。

 ダンジョン探索を専業にしている連中には敵わないにしても、それなりの経験と実力は有る方だ

 ゴブリンやコボルト程度なら不意撃ちされたりしなければ、致命的な事態には陥らないだろうし、もし実力や相性的に勝てない相手に出くわしても、発見して即逃走すれば逃げおおせる可能性は高いハズだろう。

 だが、今は護るべき対象が一緒だ。

 いつも以上に慎重に、死角になり得るところには、最大限の注意をしながら進む。


 幸い特に何事も無く住宅地を抜け、国道を渡り、実家に向けて歩を進めていく。

 武装したオレ達の姿に、道行くドライバー達や近所の住人は少し驚いた顔をするが、この道の先にダンジョンが有るからだろうか、それとも先ほどのニュースをテレビやラジオなどで知っているせいか、取り立てて騒ぎにはならなくて済んだ。

 交番の前を通る時こそ、少しばかり緊張感を増したが、駐在の警察官もパトカーの姿も無く、取り越し苦労に終わる。


 あと少し行けば、実家にたどり着く……と思って、無意識に気を抜いてしまっていたのだろうか。

 不意に横合いから迫り来る襲撃者への反応が、僅かに遅れてしまった。

 大人用のバスケットボールほどの大きさのあるソレは、昔ラーメン屋だった空き地で、獲物が通るのをジッと待っていたらしい。

 オレの顔の高さぐらいまで跳ね上がり、へばりつこうとして来た。

 非常に粘性の高い液体といった様な特徴を持つモンスター……スライムだ。

 本当に紙一重といったタイミングで屈み込み、何とか回避に成功したが、問題はオレに回避されたスライムの着地した場所だ。

 折悪しく通り掛かった乗用車のフロントガラスにへばりついたまま、国道を走り去って行ってしまった。

 恐らくタイミング的に、落下点が助手席側だったから、とりあえずは交通事故を起こさず済んだようだが、少し間違えれば大惨事だった。


 現実にダンジョンなどで遭遇するスライムは、可愛らしさのカケラも無く、壁面や天井等から飛び掛かって来るので、厄介なモンスターだ。

 ……とは言え、奇襲さえ回避してしまえば、燃やしたり存在の核になっているコアを破壊すれば容易に倒せるので、事故さえ起こさなければ、何とか対処は出来る……ハズ。



 ごめんなさい、ドライバーさん、頑張って下さい。

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