表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

54/312

第54話

 【鑑定】スキルを使い過ぎた影響は思っていたよりも大きく、しばらくグッタリしてしまっていたのだが、またもや疑問が出てきてしまったので、どうにか重たい頭と身体を起こしボチボチ疑問の解消に向けて動くことにする。


 気力を振り絞って周りを見回すと……妻と母、義姉に甥っ子達は製パン機に思い思いの、しかしおよそパンには向かなそうな食材を入れては、謎の新作パンを作ろうとしていたし、父はどこからか年代物の杖術の教本を引っ張り出して来ていて、横目でテレビを見ながらも指南書のページを捲る手は止めていない……何て器用な。

 息子はDVDに飽きたのか、今は絵本に夢中のようだ。

 エマは相変わらず、無防備そのものといった寝姿を晒し続けている。


 ……平和な光景だ。


 これでテレビが映しているのが、物騒なモンスター災害関連のニュースで無ければ、それこそ完璧に平穏な日常風景だっただろう。


 さて……物は試しだ。

 まずは普通のポーション。

 どこも怪我したりはしていないが、おもむろに飲み干す。


 ……特に何も変わらず。

 頭痛のような後遺症も癒えない。


 次に解毒ポーション。

 ……変化無し。


 今度はスタミナポーション。

 ……ん?

 いや、違うようだ。

 まだ少し残っていた探索や戦闘の疲れは癒えたが、オレの求めていた効果は出なかった。

 腹からチャプンチャプンと、水音が聞こえてきそうだ。


 まさかなぁ……とか思いながらも、次にスクロール(魔)を試すと……どうやら、そのまさかだったようだ。

 ほんの僅かにだが、気分が楽になった実感が有る。

 ……これは本当にいよいよ【鑑定】に限らず、スキル使用に使われているのは魔力ということになるのかな?


 ……ならスクロール(魔)の効果は、魔法を覚えることではなく、最大マジックポイント(あくまで仮称)とでも言うべきものの上昇?

 もしくは消費マジックポイント軽減か、はたまたマジックポイント回復速度が早くなる……とか?


 いずれにせよ、ただのネタアイテムでは無いのは確定だろうな。

 よし、この仮説を兄の帰宅を待って、皆に話すことにしよう。

 場合によっては、兄はもちろん、父と妻にもスクロールを分配していく必要性がある。

 あとは……毎日の探索が終わったら、この仮称『マジックポイント』を使いきるべく、寝る前に色々と【鑑定】していこう。


 ◆


 兄の帰宅は深夜になった。

 父は言うに及ばず、妻も先ほど就寝してしまっている。


 オレなどより遥かに時間に対してきちんとしている筈の兄にしては珍しいことだが、久しぶりの単独での探索で夢中になり過ぎたのだろうか?


 もちろん、その分の成果として戦利品も山と持ち帰って来たのだが、むしろ量以上に重要なのはポーションのランクの違いと、素材アイテムの質だろう。


 最寄りのダンジョンは難易度が高い分、幸運にさえ恵まれれば低層階では望むべくもないほど、良いマジックアイテムやドーピングアイテムが手に入る。

 しかしながら、あくまでも低層は低層。

 ポーションについては低ランクのものしか出ていなかったし、素材と呼べるものはゼラチナス・キューブから得たゼラチンぐらいのものだ。


 今夜、兄が羽目を外して来たのは近くの温泉地にあるダンジョンなのだが、元は非常に人気のあるダンジョンだった。

 宿泊施設の充実もそうだが、通いでも帰りにひとっ風呂浴びたい層を見込んで、ダンジョン発生以来、各旅館・ホテルとも、日帰り温泉サービスの充実、強化に取り組んできた歴史がある。

 運転代行やタクシーなども呼びやすい立地なので、飲食店も増えていった。

 一般的な知名度がイマイチな温泉町だったところが、ダンジョン発生を契機に一気に温泉街へとバージョンアップしたのだ。


 しかしながら、このダンジョンが人気を博したのは、そうした立地上の条件だけが理由ではない。

 一層ごとの面積が比較的狭く、その分だけ到達階層を伸ばしやすいのも有るし、そもそもの探索難易度自体も低いと言われているのも有るだろう。

 だが、ここのダンジョンが人気を博した最大の理由は、モンスターのラインナップに変なクセがないということに尽きる。


 誰だって、得られる物や出現モンスターの強さに差がないなら、虫型や人型モンスターよりは、動物型や魔法生物型モンスターを選ぶだろう。

 ジャイアントセンチピード(大ムカデ)よりは、イビルバット……ゴブリンよりはチェアイミテーター(動く椅子のモンスター、木製)……クリーピング・クラッド(動くヘドロ、毒持ち)よりはリビングクラブ(生きてる棍棒、飛行ってよりは浮遊する。つまり遅い)と戦いたいと思う。

 もちろん、兄が活動するような中層から深層には、イビルボア(魔物と化した大イノシシ)やら、ドアイミテーター(小部屋のドアに擬態する厄介な魔法生物)やら、リビングアーマー(動く鎧、探索者に明確な敵対意識を持っているので特にさまよわない)やら、かなりの強さを持った敵が間引きも不十分なままウヨウヨと居るわけなのだが。


 閑話休題(それはそれとして)……


 つまりは、深く潜りやすい分だけ、そのランク決定を到達階層に依存しているタイプのドロップアイテム……この場合、ポーション類や素材アイテムに関しては、最寄りの無理ゲーダンジョンとは雲泥の差とも言えるほど、良い物の獲得しやすさに差があるということになる。


 今夜はまさに、ポーションと素材の大豊作といったところだろう。

 それらを、貸し出したライトインベントリー(六畳間と同等の容量を誇る収納アイテム)がパンパンになるまで、大漁に……いや大量に持って帰ってきた兄……我が兄ながら恐ろしい人ではある。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ