第50話
『スキル【敏捷強化】のレベルが上がりました』
オーガから得た戦利品をライトインベントリーに収納し、先ほど邪険に扱ってしまった詫びをしようと振り向いたタイミングで、唐突に【解析者】の声がスキルの成長を伝えてきた。
驚いてしまったせいか、すぐに声が出せずにいると……
「「ありがとうございました」」
今度は完全にハモる兄妹。
さらに……
「本当に危ないところを助けて頂き、ありがとうございました」
こうして落ち着いてから見れば、彼らに良く似た顔立ちをしている母親らしき女性からも、丁寧に礼を言われてしまう。
まるで振り向いて、彼らから礼を言われるのを待っていたみたいになってしまい、非常にバツが悪い。
「いえ、本当にたまたまですので。では……」
そそくさと、その場を後にしようとしたが……
「ちょ……待って!」
「待って下さい!」
……兄妹に呼び止められてしまった。
立ち話するには騒ぎの後の現場は向かないだろうと、ドラッグストアの隣に有るカフェに移動し、今更ながらに自己紹介をし合うことになったのだが、彼らはやはり親子だった。
全員がオレの実家(神社)のことは知っていて、後日お礼に来ることがいつの間にか決められてしまう。
さすがに親子ともどもオーガから命の危機を救われたというのに、いくらオレが固辞したからといって、では無償で……というわけにはいかなかったようだ。
まぁ……なぁ。
さすがにオレが逆の立場なら、無茶苦茶な要求でもされない限り、誠心誠意の謝礼をと考えてしまうだろう。
あまり長らく押し問答をしているわけにもいかず、つい承諾してしまったのだ。
彼らの家は、すぐ近くの住宅地。
ここより高台に位置していて、市内中心地にも僅かに近い。
ちなみに……
兄が、柏木 右京くん。
妹が、柏木 沙奈良さん。
19歳と18歳の兄妹なのだという。
さらに言えば、オレが進学を(学力的に……)断念した仙台市内の国立大の大学生で、一緒に来ていた2人は春休み期間中に知り合ったバイトの先輩だったそうだ。
兄妹揃って美男美女で頭も良くて、性格も誠実で親孝行……か。
何か気後れしてしまうな。
なのに何故だろう?
右京くん……すんげーキラキラした眼でオレのこと見てるし、早口でガンガン色んな質問してくるせいか…………まるで尻尾をブンブン振り回しているワンコみたいに見えてくる。
別に、そんな彼から逃げようと思ったわけでは無いのだが、実際に時間もかなり経ってしまっていた。
妻には簡単な事情をメッセージで送っておいたものの、さすがにあまり待たせるのも良くないだろう。
見かねた母親に右京くんが窘められて見るからにショボーンとしてしまったタイミングで、オレは席を立ち上がりその場を辞す。
そのままダン協に立ち寄り、魔石とポーション類の売却のみ行なって、家への帰りを急ぐ。
その帰り道でも、奇襲を仕掛けて来たスライムを撃退することになってしまったが、そんなタイムロスは僅かなものだ。
しかし……モンスターの出現頻度は確実に高くなっているように思う。
さらにはオーガだ。
正直、この辺りでのオーガの出現は、オレも兄も、まだ想定していなかった。
そうこうしているうちに、玄関が見えてくる。
何故だろう?
普通に仕事をしている頃より、世間がこうなってから長い時間、一緒に居られるようになったハズの息子や妻の顔を、早く見たくて仕方がなかった。
 




