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第305話

「来ました!」


 公園の遊具の陰に隠れていたオレ達の頭上を、クリストフォルスの操るシルバードラゴンが通過していく。

 ギリギリの低空飛行だ。

 風圧もかなりのものだが、どうにか堪えてアジ・ダハーカを待ち構える。

 その瞬間はすぐに訪れた。


 いくら頭に血が昇っているからといって、似たような手が三度も通用するほどアジ・ダハーカもバカでは無い。

 しかし、それすらも見越して沙奈良ちゃんが立てた作戦は見事に成功した。

 オレが放ったマギスティールをアジ・ダハーカが急旋回で回避した先に、沙奈良ちゃんのマギスティールが既に()()()あった恰好だ。

 沙奈良ちゃんには、アジ・ダハーカがどちらに躱すか『視えて』いたらしい。


 沙奈良ちゃんの固有スキル【見極める者】。


 オレが思っていた以上に様々な能力を有するスキルなのだが、この極めて限定的な『未来視』もそのうちに含まれている1つに過ぎない。

 そう長い時間は見透せないらしいのだが、それでも強力過ぎるほどに強力な能力だ。

 沙奈良ちゃん単独では、どうやってもマギスティールが当たる未来が視えないということで、オレから協力を申し出たのだが、もしかしたらそれすら視えていたのかもしれない。


 再びド派手に墜落したアジ・ダハーカ。

 こうも立て続けに墜落するのは何故なのだろう?

 例のドーム状の障壁の維持にかなりの魔力を割いている分、飛行魔法やその他の魔法が疎かになっている可能性も有るが、どうもそれだけでも無いような気がする。

 飛ぶのが苦手とも思えないが……。


 今度は沙奈良ちゃんを連れて『子ダンジョン』に転移。

 トムとカタリナは既に臨戦態勢といった風情で、オレ達の到来を待っていた。


『主様、ご首尾は如何ですかニャ?』


「上手くいった。トムもカタリナも準備万端って感じだな」


「もちろんよ。後は師匠からの合図を待つだけね」


 例のスマホ型ゴーレム(リビングドール?)を、両手で大切そうに持っているカタリナ。

 実際、コレのおかげで作戦は極めてスムーズに進んでいる。

 通常のスマホはダンジョン内では一切使えないが、どうやらコレにはそんな心配は要らないらしい。

 魔素と言うよりは術者本人の魔力を消費するため、場所や距離を選ばない仕様なのだと言う。

 実態はスマホと言うよりはトランシーバーや無線に近い代物かもしれないが、ダンジョン内でも問題なく使えるのは羨ましい限りだ。


「いよいよ本番……だな。すぐに出番が来ると思うから、もう少しだけ待っていてくれ」


『了解ですニャー』


「そうね、了解」


「ヒデさん、万が一ってことも有りますから気をつけて下さいね?」


「あぁ。じゃあ、行ってくるよ」


 再び転移すると、上空の戦いも一層その激しさを増していた。

 クリストフォルスの操る人形竜は、何も逃げ回ってばかりいるわけでは無い。

 先ほどまでは誘導がメインだったが、今はむしろ積極的にアジ・ダハーカを攻撃している。

 アジ・ダハーカが傷付くたび、眷族のモンスター達が降ってくるわけだが、そちらは既に問題にもしていない。

 クリストフォルスの援護がメインのエネアとトリアだが、眷族の排除も並行して担当してくれている。

 それに加え、亜衣、兄、マチルダが手ぐすね引いて待ち構えているのだ。

 今さら苦戦などしよう筈も無い。


「ヒデちゃん! そろそろ?」


「そうだな、次にクリストフォルスのドラゴンが近寄って来たら合図しようか」


 兄はちょうど落ちてきた漆黒のモンスターと戦っている最中で、ここには居ない。

 あんまり遠くまでは行かないでくれとは伝えてあったのだが……まぁ、2~3回の【瞬転移】で戻って来られる範囲か。

 少し離れたところで戦っているマチルダは、オレの姿を見ても弓を引く手を休めない。

 マチルダも合図の確認が出来次第、こちらに合流可能な位置には居る。


「了解。それにしても何だか緊張しちゃうね~」


「……だな。そう言えば繋がった?」


「お義父さん? うん、もう待避してくれてると思うよ。良かったね、電波まで通れない感じじゃなくて」


 あ、言われてみれば……。

 転移で飛び回る必要の有るオレに代わり、亜衣に父への連絡を頼んだのだが、スマホの電波が例のドーム状の障壁に遮断される可能性を完全に考慮し忘れていた。

 父達の籠る陣地の前方でオレ達が戦っている以上、父達がモンスターと戦闘している可能性は極めて低かったが、もちろんそれも絶対では無い。

 そのため、父が電話に出られない可能性ばかり気にしていたオレが浅はかだった。

 まぁ、無事に待避を済ませ本拠地の防衛をしに移動してくれたなら、それはそれで良いのだが……。


「そっか。じゃあ、何も気にせず戦えるな」


「うん!」


 ほどなくして兄が戻って来た。

 クリストフォルスは、アジ・ダハーカとやり合うのを止めて、再び上空を逃げ回り始めている。

 カタリナから連絡が行ったのかもしれない。

 マチルダも狙う獲物が居なくなったせいか、手を止めてこちらに向かっている。


「……ヒデ、来るぞ!」


 アジ・ダハーカを翻弄していたクリストフォルスの操るシルバードラゴンが、立て続けにブレスを放った後に反転しオレ達の潜む方向に回頭した。

 ブレス自体は残念ながら避けられてしまったようだが、挑発には充分だったようだ。

 両者ともグングンと速度を上げて、こちらに向かって飛んで来ている。


「亜衣、準備は良いよな?」


「うん!」


 妻の全身が……握りしめている薙刀が銀光に包まれ始めた。

 オレも得物に銀光を宿して待ち構える。

 数瞬の後、クリストフォルスが上空を通過…………


 ──今だ!


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