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第3話

 別段あまり悪い予感の様なものは感じなかったが、やはり無事な我が子の姿を見ると安心する。


 2歳になるまでまだ少し日にちのある長男は、親の心配をよそに、テレビで人面機関車のアニメを見ながら、何がおかしいのかキャッキャと笑い声をあげていた。




「あら? お帰りなさい……って、何か忘れ物?」


 キッチンで何か家事をしていたらしい妻が、出掛けたばかりで帰って来たオレの姿を見付けて、怪訝(けげん)そうな顔で問い掛けてくる。


「ただいま。いや、そういうわけじゃなくてさ……」


 今しがた遭遇したゴブリンのことを、妻に話すが、もちろん最初は信じて貰えなかった。


 何か証明する手段は無いかと、あらましを話しながら考えていると、ふとした拍子に魔石のことを思い出した。


「ほら、これがさっきのゴブリンが落としたヤツだよ」


「あら……じゃあ、本当なの? ちょっとゴメンね~」


 どうやら信じてくれたらしい妻は、息子に謝りながらも、手慣れた様子でリモコンを操りチャンネルを変えると同時に、愛息の大好きな飛び出す仕掛け絵本を()てがう。


「うーん、どこもまだそんなニュースはやってな……って! ちょっとコレ、そうなんじゃない!?」


 そこには、そこそこ見慣れたお天気キャスターが、いつになく慌てた様子で後方に見える煙を指し示す様子が映っていた。


 若干、距離が有るせいで何が起きているのか、画面を見ているだけでは判然としないが、何かしらの変事が発生したことだけは疑い無かった。


 続けて緊急速報を告げる音とテロップ。


『東京都港区台場でモンスター出現 死傷者が多数出た模様』


 死傷者多数!?


 ゴブリンで?


 いや、ゴブリンとは限らないのか?


 そんな思考の間にもキャスターを置き去りにしそうなほどのスピードで、テレビカメラは現場に近付いていく。


 階段を登り、驚く通行人の間を縫い、ひたすらに駆けていく。


 煙はおろか、燃え上がる高級外車の車体そのものや、倒れている人々、そして恐怖の象徴をカメラは映していた。


 これ以上は無いというぐらいに、それは分かりやすい脅威だった。


 ドラゴン。


 赤い鱗を持つソレは、自らが繰り広げた惨状に飽き足らず、新しい獲物を捜すかの様に、眼下を睥睨(へいげい)していた。


 カメラに遅れること数瞬、普段なら人の好さが滲み出る風貌を醜く歪ませながら、キャスターが追い付いて来て、普段には絶対に上げないような金切り声で、必死に現場の状況を伝えている。


 しかし、オレはそんな悲壮感すら漂う男性お天気キャスターの声より、また新しく変事を伝える緊急速報のテロップに、意識を捉われていた。


『名古屋城倒壊 大型のモンスターが付近で暴れている模様』


 いったい、オレは何を眼にしているのか。


 無邪気に絵本を見ながら、また可愛らしく笑う子供の声だけが、茫然自失に陥りそうなオレの意識を、まだ現実世界に繋ぎ止めてくれていた。

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