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第29話

 まるで駆け込むようにして急いで帰ったオレだが、それまで積み木で遊んでいた息子は、いつもの満面の笑みで迎えてくれたりはしなかった。

 それどころか怯えたように泣き出してしまう。


「ヒデちゃん、酷い顔よ……それに、返り血が凄い。怪我してるわけじゃないわよね?」


 妻さえも苦笑して息子をあやしながら、そんなことを言うのだから、よほどに凄惨な様子なのだろう。

 何も言わないが、母さえも困ったような表情のまま、目顔で洗面所の有る方にオレを促す。

 頭を冷やすためにも、我が子を胸に抱くためにも、いつもより入念に顔や手などを洗う。

 確かに酷いツラだった。


 オークの血も赤いのか……ふと、そんなことを思う。



 ◆


 昼食を終え、既に定例になりつつある報告会。


 オークの度重なるダンジョン外への出現が、やはり問題視された。

 犠牲者が、ごく近所で出たのだから、それも当然だろう。

 結果として、午後の探索には妻も赴くことになった。

 いち早く戦力の増強を図るべきという結論に至ったのだ。

 護衛と指導にあたる兄に、その分だけ負担が掛かるが、それは致し方ない。

 テレビはついに地方局のみが映るチャンネルも出てきてしまっている。

 他のチャンネルに回すと理由はすぐに分かった。

 大型モンスターの出現により、社屋ごと多くの犠牲者を出してしまったようだ。

 有名なアナウンサーだとか芸能人、人気番組のプロデューサーをはじめ、膨大な数の死傷者が出ている。

 そして、兄達に先行する形で、まずはオレが再び出掛けることに決まった。

 思わぬ惨劇に我を忘れていたオレが悪いのだが、午前中の戦利品の山をそのまま持ち帰ってしまっていたからだ。


 あまり時間を掛けるわけにもいかない。

 再び玄関でダンジョン仕様のブーツを履く。

 見送る妻の胸には愛する長男。

 ……最高の笑顔だった。

 目頭が潤んでいるのを誤魔化すように、慌てて手を振り玄関から出る。


 ダン協の建物に入る前に、チラっと遺体のあったところを見る。

 ダン協の職員が洗ったのだろうか。

 あたり一面、水浸しで既に正確な場所は分からなかった。

 入ってすぐのところで、ダンジョン警備にあたる警察官の簡単な職務質問を受ける。

 昨日まで居なかった顔だ。

 ダンジョン探索経験の有る人材が、急遽派遣されて来たのかもしれない。

 協力に感謝している素振(そぶ)りだが、どこか値踏みされているような感じも受けた。

 オレの装備は、武器こそ総金属製の鎗で凝った造りだが、防具は週末探索者(専業ではない探索者の俗称)の域を出ない。

 本当にコイツがオークを倒したのか?

 そう思われても無理はないのだ。


 窓口に行き、心なしか表情の暗い受付のお姉さんに事情を説明してから、魔石やアイテムを提出する。

 魔石の買い取り額は昨日より更に上昇していた。

 ふと思い立って、今日はポーションも5本売りに出す。

 以前の倍近い値が付いている。

 やはりポーションも品薄なんだろうな。


 鑑定して貰う品は全部で5つ。

 さて、どうなるだろうか?

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