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第28話

 意気揚々と引き揚げて来たオレだったが、ダンジョンの出入り口付近で、大量の返り血を浴び真っ赤に染まった姿のオークを目にして、冷や水を浴びせられた気分になってしまった。

 次いで沸き上がる、どうしようもない怒りの感情。


 ……誰だ!

 それは誰の血だ!?


 やはりモンスターは人類の敵だ。

 ダンジョン外にまで出没を始めたモンスターどもは、既に明確な敵対者なのだと、改めて強く認識し直す。

 オレを見つけて、まるで(わら)うかのように片頬を吊り上げるオークに無言で駆け寄り、力任せに鎗を突き掛ける。

 オークは咄嗟に棍棒を持たない左腕で、オレの狙った心臓あたりを庇う。

 一撃で決まらないなら仕方ない。

 連続で突く。

 失血を強いるように。

 特に精細な狙いをつけることなく。

 滅多刺し。

 わざわざヤツに反撃の(いとま)を与えてやることなどしない。


 気が付けば、オレに背を向けうずくまるような姿勢のまま息絶え、光に変わりゆくオークの姿があった。


 無言でオークの落としたポーションを拾う。

 グルグルと最悪の思考が(よぎ)る。

 そんなハズは無い。

 それは万が一にも起こり得ないことだ。

 嫌な予感を振り切り早足で妻子の待つ実家に向かおうとしたのだが……結果的にはダンジョンを出てすぐのところで足を止めることになった。


 ヘルメットごと無残に潰された頭部が、あの時は重厚過ぎるようにさえ見えた、鎧の中に埋まってしまっている。

 あの丸太のようなサイズの棍棒で、正面から叩き潰されたのだろう。

 酷い状態の遺体にすがりボロボロに泣き崩れているのは、自身も左腕を潰されてしまっているあの生意気な少年だった。

 兄妹は揃って槍をへし折られてしまっていたが、見る限りは目に付く大怪我はない。

 いや、兄の方が脇腹を抑えているか。

 2人ともに沈痛な表情で、様子を見守っていた。

 一昨日、ダンジョンの入り口付近で挟撃を受けていた若者達だ。


「あっ! あの時の……」


 妹の方がオレに気付いたようだ。


「……ポーションは有るか?」


 こんな時、どう声を掛けて良いか分からない。

 気付けば、そんなことを聞いていた。


「ありません。ダンジョンに入る直前、急に黒い光が目の前に現れて。私達も必死で戦ったんですが……ポーションも手持ちは全部、使ってしまいました」


 その、赤く腫らした目を隠すこともせず、淡々と力無く答える女の子。

 無言で3本、ポーションをストッカーから引き抜き、半ば無理やり押し付けるようにして渡す。

 無意識にか、先ほどオークから得たポーションは避けていた。

 憎むべき仇の遺品に救われたくは無いだろう。


 仲間の惨状を思ったのか、今日は押し問答をする気はないようだ。

 兄妹で揃って深々と頭を下げてくる。


「なんでだ? ……なんで!」


 なんで、もっと早く出てこなかったんだ?

 そう聞きたいのかもしれないな。

 それに答えるべき言葉を、オレは持たない。

 つい先ほどまで泣き崩れていた、リーダーらしき少年の方を見ることはせず、オレはその場を無言で立ち去った。


 ……なぜだか、無性に息子の顔が見たい。

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