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第269話

「もう! 何なの、この階層は?」


「亜衣、落ち着け! トム、後ろからも来るぞ!」


『ニャんで、さっきから我輩のところばっかりー』


「……キリが無いわね」


 見渡す限りのモンスターの大群。

 空中からも、正面からも、背後からも、地中からもモンスター、モンスター、モンスター、だ。


 第80階層は、まさかの丸ごとモンスターハウス。


 原理自体は非常に単純だが、さすがにこの深層でコレをやられると、単純だからこそキツいものがある。

 しかも遮蔽物の全く無い平原型にダンジョンの構造が急変したため、彼我の数の差がモロに響く。

 異なるタイプのモンスターが混在して襲い掛かって来るのは、いつものことと言えるかもしれないが、さすがにここまでゴチャ混ぜで無秩序な構成は見たことが無かった。

 かと言って全く連携してこないかというと決してそんなこともない。

 自ら囮となるモンスターもいれば、盾となって他のモンスターを守るモノもいる。

 それでいて魔法を使うモンスターは、他のモンスターを巻き込むことにも構わず範囲魔法を放ってくるので、一時たりとも気が抜けない。


「このままトリアを中心にトライアングルで戦うしかないな。トリアはトムの援護をメインで。亜衣はオレがフォローする」


「そうね。分かったわ」


『お願いしますニャー』


「了解~」


 いったん下の階層に戻って出直す手も有るが、出直したところで結局この巨大なモンスターハウスを突破しなければならないのは変わらないのだ。

 肚をくくるしか無いだろう。


 さすがに、すぐ下の階層のボスだったアダマンタイトの装甲に覆われたシャープタイプゴーレムが無数に押し寄せて来たりはしないが、同じようなシルエットのゴーレムは材質は違うものの数えきれないほど存在している。

 ガーゴイルや、ワイバーンのゾンビのように空飛ぶモンスターの数も多いし、スペクターやレイスなど霊体タイプのアンデッドモンスターは、オレ達の虚を突くように地中からも出現してくる始末だ。

 ゴブリン、コボルト、オークなど、最近すっかり雑魚扱いしているモンスター達も、明らかに上位種と分かるほど手強い個体が多く、そうした傾向はオーガやトロルなどにも共通している。

 リッチやバンパイア、ギャザーなどの魔法や特殊能力に秀でたモンスターは後衛として控えているし、決して無尽蔵に居るわけでは無いのだろうが、昨日からオレ達を散々に翻弄している小型リビングドールは相変わらず厄介だった。


 厄介と言えば……これは、さすがに反則じゃないのか?

 先ほどから、悪魔や天使の中でも強い部類のグレーターデーモンだったり、アークエンジェルが出現していて、またもや1ダンジョン2モンスター系統(アンデッドは例外)の法則性が崩れたのかと首を傾げていたのだが、いざ戦ってみると意外な事実が判明した。

 性能的にも本物と遜色ない強さのそれら悪魔と天使の正体は、なんのことはない。

 非常に精巧な造りのリビングドールだったのだ。

 さらには、グランドドラゴンのリビングドール、デュラハンのリビングドール、グリフォンのリビングドール、サイクロプスのリビングドールなどなど……さすがにここまでやられると笑うしかない。

 ゾンビもそうだが、リビングドールは、ダンジョンモンスターの出現系統の法則に縛られないのだろう。

 足りない部分を補うのに、これほど便利なモノは無いということになる。


 トムは良く戦っているが、恐らくトリアの援護が無かったら少し危ういところだっただろう。

 反対に亜衣の戦いぶりは非常に安定している。

【神語魔法】で全身に銀光を纏い、次から次へと斬り伏せていく。

 自然、オレがフォローすべき対象は、亜衣よりもトムがメインになっていった。

【遠隔視】で俯瞰の視点を保ちながら、自らの相対するモンスターと戦うのも、すっかり慣れてしまったものだ。

 トムとトリアのコンビで、対処しきれない場合のみ手を貸すように心掛けたが、徐々に危うい場面というのは減って来ている。

 亜衣に関しては既に全く危なげ無い立ち回りを見せ始めていた。


 ◆


 長かった被包囲戦闘も、ようやく終わりの時を迎えようとしている。


 意図的に作られたとしか思えない、この大掛かりな『トラップ』も、オレ達が相手では相性が悪かったと言えるだろう。

 何しろ、普通の探索者ならば起こり得ないような、いっそ劇的とすら言えそうな成長を常に続けているのがオレ達なのだ。

 倒したモンスターの存在力を喰らえば喰らうほどに強くなっていくオレはもちろん、その影響を全員が享受しているのだから、質より量というのはオレ達には通用しない。

 もちろん、それなりに苦戦を強いられはするし、いつ終わるのかさえ判然としない長時間の戦闘が精神的にもキツいのは事実だ。

 しかし、倒せば倒すほどに戦闘そのものは楽になっていくわけで、途中からは戦いとさえ呼べない展開になっていたのは否定できない。


 最後に現れた階層ボスらしいモンスター。

 ティターンを模した……しかし本物よりは少し小柄なリビングドールが持っている盾は恐らくアダマンタイト製だろうが、今さらそんなものに攻撃を阻まれるほど、オレ達のスピードは遅くないだろう。

 投擲されたピルムも本物よりは細く短い。

 難なく躱し、反対に本物のティターンが持っていた特大のピルムを【無拍子】で【投擲】してやると案の定、ティターンもどきはアダマンタイトの盾で防ぐ間もなく胸の中心に大穴を開けて地面に倒れた。

 そこにすかさずトムとトリアの魔法が次々に襲い掛かり、ティターンもどきを全身ボロボロにしていく。

 さすがにアダマンタイト製の大盾を持った左腕は無事だが、それは何の慰めにもならない。

 ラストは一段と銀光の眩さを増した亜衣の薙刀が、仰向けになったままのティターンもどきの首を刎ねて……終幕だ。

 白い光に包まれて消えていく。

 本来の個体としての強さは、アダマンタイトの装甲に身を包んだシャープタイプゴーレムより、あるいはティターンもどきの方が上だったのかもしれないが、装甲をケチって盾にしたのが致命的だったな。


 件のシャープタイプゴーレムのドロップアイテムは、残念ながら本体部分に使われていたミスリルの特大インゴットだったが、今回はアダマンタイトの大盾が丸ごと手に入った。

 スタンピードまでに分解と武具への加工が間に合うべくも無いが、これほどのサイズなら……コレはコレなりに使い途が有るだろう。


 ボス部屋というものが存在しなかったためか、ティターンもどきが消えた跡に唐突に出現した古めかしい昇降機を眺めながら、ようやくオレ達は一息つくことが出来たのだった。


 ……ドロップアイテムの回収だけでも一苦労だな、これ。

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