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第267話

 ここに来て……()()か。


 トムのシッポが増えた翌日も朝からダンジョンを訪れたオレ達は、厄介な特性を持つモンスターや、明らかに凶悪さを増したトラップの数々に四苦八苦しながらも、どうにか探索を進めていた。

 そして今、ようやく第79層のボスであるシャープタイプゴーレムと対峙している。


 ゴーレムというと硬い、強い、遅いの三拍子揃ったタイプが一般的だが、このダンジョンでは体型がスリムで動きも非常に速く、それでいて硬さと攻撃力は通常のゴーレム以上な異常個体が、何度か階層ボスとして登場していた。

 今回のコレは、その見た目からして材質がアダマンタイト製に見えるのだ。

 事実、オレが先制攻撃として放った無属性魔力波もアッサリと無効化され、妻やトムのオリハルコン製の武器による攻撃でも、まともに傷が付かない。

 見た目の良く似た他の素材……ということは、どうやら無さそうだった。


『ウニ! やっぱり効かニャいんですニャー』


「硬いね~。ヒデちゃん、どうする?」


「アダマントゴーレム。まさか、こんなものが存在し得るなんてね。理外の金属相手に魔法は有効な攻撃手段に成り得ないわ。……なのに、どうやってこんなの創ったのよ!」


 言われてみれば確かにその通りだ。

 アダマンタイトが(ことわり)の外に在る金属で、あらゆる魔法を弾くというなら、そもそもそれをどうやってゴーレム化したというのか……?

 ゴーレムは魔法生物系のモンスター。

 つまりは、魔力によって仮初めの命を与えられて動いている疑似生命体だ。

 ゴーレムなどの魔法生物の作製には【創造魔法】というスキルが必要で、これはあちらの世界でさえ極めてレアなスキルなのだという。

 単に【土魔法】を使えば疑似生命体が造れるのなら、これほど楽なことも無いだろう。

 わざわざ身内や知り合いをダンジョンで鍛えるより、とことんオレが【土魔法】を極めてミスリルなり、オリハルコンなり、それこそアダマンタイトでゴーレムを量産すれば良いだけだ。

 オレが矢面に立つ必要すら無い。


 今や色々な意味で規格外な存在になってきているオレ達の中でも、この【創造魔法】というスキルを持っているのはカタリナただ1人。

 カタリナによれば、普通のクレイ(土)ゴーレムを1体作製するだけでも大魔法並みの魔力を消費するうえ、その消費魔力も材質が良いものになればなるほど上昇していく仕組みになっているらしい。

 コストパフォーマンスが良い魔法とは言えそうになかった。

 昨日、オリハルコン製のシャープタイプゴーレムと遭遇した際に、この事態に陥る懸念をカタリナに相談したところ……『アダマンタイト製のゴーレムが存在するという文献や伝承は無い。そもそも作製自体が理論上は不可能だ』という回答を得ていたのだが、実際こうして目の前に居るからには、どうにか対処しなくてはならない。


「亜衣とトムは取り巻きの排除に集中! トリアは2人をサポートしてくれ! アイツはオレが抑える!」


 取り巻きモンスターの数もかなり多い。

 まずは出来ることからコツコツと……だ。


『了解なのですニャ!』

「分かった~」

「任せて!」


 三者三様の返事を頼もしく思いながらも、オレはゴーレムへと向かっていく。

 得物を普段の槍から、アダマントの杭剣に換えて立ち向かうが、材質が同じせいか期待していたような成果は得られないでいた。

【神語魔法】による付与魔法で強化して、ようやく五分五分といったところ。

 少しずつシャープタイプゴーレムの体表に亀裂が増えていくが、オレの攻撃力とヤツの防御力が拮抗しているせいか、それでも中々決定打にはならない。

 重さ……つまりは質量の違いが、この拮抗を生み出しているのだろう。


「ごめん! ヒデちゃん、避けて!」


 そして取り巻きモンスターのうちでも特に厄介なのは、昨日も苦戦したミツバチ大のリビングドールだ。

 オレ達の中でも突出して面制圧力の高い武器を振るう亜衣と、最も多彩な攻撃手段を持つトム。

 さらには精霊魔法の行使力ではエネアをも上回るトリア。

 その3人が揃っていても対処しきれないことが度々起きるのだから、コイツらも相当なモノだ。

 逆に言えば、それ以外の取り巻きモンスターも強敵揃いであるにも関わらず、3人とも大して苦にもしていないのだが……。


 それに……いくら細身とはいえ、ゴーレムはゴーレムだ。

 巨人系のモンスターほどでは無いが身長も高いし重さも相当なモノがあり、一撃の破壊力は想像するだけでも恐ろしい。

 材質がアダマンタイトというのも非常に厄介だ。

 頭部などに当たったら、かするだけでも致命傷になりかねない。

 それでいて、細身になった分スピードだけはきちんと上昇しているのだから反則も良いところだろう。

 実際、時折こちらに飛んで来る討ち漏らしのリビングドールの相手をしながら、シャープタイプゴーレムの連撃を残らず躱すのはオレの身体能力を以てしても至難の業だった。


 それにしても……先ほどからオレは必死の攻防を繰り返しながら『あるモノ』を探しているのだが、なかなかそれを見つけられないでいた。

 オレが探している『あるモノ』とは、ゴーレムがゴーレムであるからには、必ず身体のどこかにある筈の()()だ。

 ゴーレムが仮初めの命を得る際に、必ず必要となる『文字』。


 普段のゴーレム戦では、まず狙わない。


 それを狙うよりも早く勝負を決める方法は、それこそ無数に有るのだ。

 額や胸などの分かりやすいところに有る時には、戯れまじりに消し去ることもあるにはあるが、普通は魔法を使った方が早く倒せるのだから、わざわざそれをする必要は無い。

 何らかの理由(魔力を温存したい、武器スキルを磨きたい……など)が有って武器で相手にする場合でも、大体の場合において弱点を探しだしている暇が有ったら、普通に攻撃した方が早く決着がつく。

 今回、わざわざそれを探している理由とは、魔法も武器も全てが決定打にならないからに他ならない。

 それなのに……頭の先から足の裏まで隈無く探しても見つからないのだ。


 久しぶりのピンチ。

 焦れば焦るほど細かいミスが増えていく。

 つい先ほども、シャープタイプゴーレムの蹴りを避け切れずに咄嗟に左腕を使って【パリィ】したが、それでも完全に受け流すまでには至らず腕の骨が粉々に砕かれてしまっていた。

 文字探しをスパッと諦めて持久戦に移行するか、それともイチから探しなおすか……。

 この判断を間違えると、このダンジョンの攻略そのものを諦める破目に陥りかねない。


 ……どうする?

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