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第240話

「……外から来た魔物?」


『はい、そうとしか思えぬので御座います。【交渉】するでも無く【侵攻】するでも無く、いきなり問答無用で魔法を放って来たので御座いますから……』


 リッチに守護者の座を奪われたらしいアラクネのユニーク個体を喚び出すのは、造作も無かった。

 今の魔素収入量からすれば微々たるもの。

 必要ならば許容出来る出費と言えるだろう。


 そして、その判断はどうやら正解。


 ごく短時間の質疑応答で、かなり真相に迫ることが出来ていた。


「他のダンジョンの守護者というセンは……いや、それだったら【侵攻】で良いのか。そうしたプロセスを実行不可能で、なおかつ守護者を打倒し得るモンスターとなると……」


『迷宮の外に産まれ落ちた魔物しか考えられませぬ。迷宮内で湧出(ゆうしゅつ)した魔物は守護者に弓引くことなど出来ませぬゆえ……』


『そうですニャー。我輩も同意見ですのニャ』


「いわゆる()()か。いや、待てよ? それだとトムは何でオレ達が行くまで、あのダンジョンの守護者でいられたんだ? グレーターデーモンは別格にしても、レッサードラゴンやサイクロプスに攻められたら、為す術もなくやられてただろう?」


『主様。それは少しばかり心外なのですニャ。……いや、確かに当時の我輩では竜や単眼の巨人には勝てませんでしたかニャー』


 まるで今なら勝てるように聞こえるが、確かに今のトムならばサイクロプスには負けそうに無い。

 レッサードラゴンやグレーターデーモンはハッキリ言って無理だろうが……それは言わぬが花か。


「気を悪くしたなら謝るよ。なにもトムが弱いって言ってるわけじゃ無いんだ。戻りモンスターには襲われなかったのか、っていう話な?」


『まず第一に……我輩が居たのは、そもそも竜や巨人が入って来られる規模の迷宮では有りませんでしたからニャ』


 あ、それはそうか。

 トムが居たのは極めて一般的なサイズのダンジョンで、小さいとも言えないが決して大きい方でも無かった。

 確かにレッサードラゴンやサイクロプスのようなサイズのモンスターは、トムの居たダンジョンの内部には居なかったと思う。

 もっぱらダンジョン外で活動していた。


『第二に……迷宮の外から魔素を求めて入って来る連中は自我らしい自我が無いのですニャー。ヤツらが守護者に成り代わるような行動に出ることは()()と断言出来るのですニャ』 


 アラクネも頻りに首を縦に振っている。

 どうやらトムの話には間違いは無いようだ。


 自我らしい自我の無いモンスターしかダンジョン外部に出現しない?

 いや、それはダンジョン内部でも同じことが言えそうだ。

 最寄りのダンジョンに居た天使や悪魔は言うに及ばず、先ほど散々撃ち落としたハーピーにしても、本来ならそれなり以上に知恵の働くモンスターである筈なのだが、戦闘以外の部分でそうした知性を感じることは無かった。

 確かにヤツらがダンジョンの守護者権限を求めて行動している姿など見たことが無い。


 ……ん、待てよ?


「そう言えば君の名前は?」


 大人しく待っていたアラクネに名前を尋ねた。

 急にオレに尋ねられて一瞬キョトンとしたアラクネだったが、すぐに自分が質問されたことに気付いたのか、答えようとして答えに詰まる。

 やはり……か。


『……申し訳御座いませぬ。何故かは知らねど、思い出せぬようで御座います。住んでいた場所、好んで食していた物、苦手な匂い。他のことなら何でも分かるのですが、何故か名前だけは失念してしまっているようでして』


「名前そのものが無いということは?」


『それはあり得ませぬ。確かに近しい者に呼ばれていた名前が有ることは分かるのです。あぁ……同族の者共の名前も忘れてしまっておりまする。なぜ、かような次第になっておるので御座いましょうや?』


「それはオレにも分からない。どうも守護者として()()()に喚び出された存在は名前を忘れてしまうようなんだ。ここに居るトムにしてもそうだし、オレに協力してくれている他の元守護者達も同じ状況だった」


 厳密に言えばカタリナだけは自分の名前を覚えていたようだが、それは例外中の例外だ。

 彼女は自分の作品に自らの名前を刻印している。

 仮のボディとして使用している人形にしてもそうだし、得物としている曲刀にしても名前を刻印することで魔力を付与し、その性能を引き上げているらしい。

 正確に言うなら自分の名前を『すぐに思い出した』ため、忘れてしまっていたという認識が乏しいだけ……と言った方が良いのだろう。


 あの悪辣な亜神達が何の意味も無くそんなことをする筈も無いのだが、今までは何となく『そういうモノ』として認識してしまっていた。

 まったく迂闊としか言いようが無い。

 つまり亜神達は守護者から名前を奪う代わりに何かを与えた……のか?

 ……何を?

 そうか……自我、か。


 もし本当にそうだとすると、いよいよ呪術の類いにしか思えない。


 リッチはどうだっただろう?

 明らかに自我は有ったようにしか見えなかった。

 それでいて元々の守護者では無い。

 守護者が本拠地となるダンジョンを放棄することは、守護者権限を有したままでは不可能なことは既に判明している。

 オレにも守護者だった時期が有るのだから、それぐらいは知っているのだ。

 しかし、アラクネがここのダンジョンの元々の守護者であるならば、一体さっきのリッチは何だったのか?


 まず、他のダンジョンの守護者では無いことだけは確かだ。

 それだったら、そのダンジョンに居ることになる。


 ここのダンジョン内でポップした可能性は限りなく低い。

 このダンジョンの中にリッチと同格のモンスターは居なかったし、守護者であるアラクネに反逆すること自体が不可能らしいから、この可能性は除外出来る。


 つまり……先ほどのリッチは、ダンジョン外に産まれたモンスターでしか有り得ない。

 その場合に不自然なのは、ハッキリと自我を有していたこと。

 そして、破格の強さだったこと。


 そうなると、もう可能性は1つしか残されていない。


 間違いなく、ヤツは…………

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