第233話
大百足討伐から数日が経過していた。
いわゆる『イレギュラー』については、そこら中のダンジョン周辺に出現していることが分かっている。
もちろん必ず居るわけでは無いのだが、かなりの高確率で存在するのだ。
結果的に覚醒した亜衣に頼る部分が大きくなっているが、イレギュラー対策をしながらも並行してダンジョン攻略のペースを元通りにするため、パーティを3チーム体制に戻すことにした。
オレ、右京君、トム、エネア。
兄、父、カタリナ。
亜衣、沙奈良ちゃん、マチルダ、トリア。
ちょくちょくローテーションしていく方針だが、ここ何日かは以上のパーティ編成だ。
父は最近かなり肉体的な能力が上がっていて、近接戦闘に限って言えば既に超一流の域にまで到達していると思う。
魔法は何故かあまり得意では無いようだが、愛用の得物が無属性魔力波を射出可能になったことで、その弱点が解消されたのも大きい。
兄は相変わらず規格外だし、カタリナの万能性も上手くハマっていて、何ならこのパーティが最もバランスが良いようだ。
亜衣と沙奈良ちゃんとマチルダは、ここのところ異常に仲が良い。
エネア以上にどこか超然としたところの有るトリアも、この3人と一緒に居ると何だかいつも楽しげだ。
そして成長著しいのがマチルダ。
亜衣が一足飛びに強くなっていくことに焦りを覚えたのか、あのマイペースなマチルダが目の色を変えて日々の探索に取り組むようになっていた。
元々の才能で言えば、カタリナやエネア達のような完成された強みを持つ者を別にした時に、最上位に来るのは兄かマチルダだと思う。
トリアに聞いた限り、実際かなり強くなっているらしい。
沙奈良ちゃんは自分の役割を見いだすのが上手い印象だ。
どうやら自分には武器戦闘のセンスが欠けているという結論に至ったらしく、最近は魔法スキルをメインに鍛えているという。
そのため無属性砲はあまり使わない。
少しでも魔法スキルを伸ばすためだ。
毎日のように魔力切れの症状が出る寸前まで魔法を使い続けているらしい。
そうした方針は沙奈良ちゃんにはピッタリだったようで、オレの【啓蒙促成】でスキルレベルを更新する頻度は本気を出したマチルダにさえ並んでいる。
相変わらず例の謎スキルは効果が見えて来ないが、もしかしたら魔法の適性を高めるものなのかもしれない。
◆
「ヒデさん、あれは僕に任せて下さい!」
右京君が猟銃タイプの無属性砲を構え、上空から迫るハーピーの群れを狙う。
地上のトロルの大部隊はトムとエネアが相手をしてくれている。
今オレが集中すべきは……地中に潜むモンスター。
ジャイアントワーム。
イレギュラーだ。
先ほどから何度も手を変え品を変え攻撃しているが、物理防御能力も魔法抵抗力も更には再生能力までもが破格の水準のうえ、地中からの奇襲後すぐに地面に潜ってしまうため、なかなか倒す糸口が見えて来ない。
せめて他のモンスターの数が少なければ、エネア達にも厄介な大地蟲退治に協力して貰えるのだが、先ほどからワラワラと襲い掛かってくるモンスター達の数は一向に減ったように思えないほどだ。
無理もない。
この辺りにはダンジョンの数が多すぎる。
5つものダンジョンの支配領域が折り重なるような恰好になっているエリアで、これまでは手出し自体を控えていたのだ。
古くからある住宅街が多く、地域人口の減少とともに商業的価値が下がった結果、撤退した銀行の建物であるとか、特殊な形状のため買い手や借り手がつかなかったカーディーラーの跡地であるとか、潰れた大型パチンコ店なんかが軒並みダンジョン化してしまったのが、そんなダンジョンのメッカのような地域を産み出してしまった。
そのせいで局地的ダンジョンバブルが到来し、却って以前より周辺人口が増えていったのは、とても皮肉な話だと思う。
もちろん、そんな地域のモンスターが弱いわけは無いのだが、それにしても先ほどから突出した強さを持つイレギュラーが多すぎる。
何しろ、このジャイアントワームで4体目だ。
右京君が必死に無属性砲を乱射しハーピーを次々に撃ち落としていく。
トムが前に突出しながらいつものやり口で撹乱し、そこをエネアが着実にトドメを刺す。
エネアがトロルの動きを魔法で止めれば、ここぞとばかりにトムが攻勢に転じてフィニッシャーに早変わりする。
オレもようやくジャイアントワームの動きのクセを読み切り、地面から大口を開けて飛び出して来た大地蟲にむかって、アダマントの杭剣を【投擲】することに成功した。
先ほどはタイミングを外してしまい、虚しく地面に突き立つだけだったが、今度は角度も狙い通り。
斜めに突き抜けて先端が露出し、ヤツが再び地面に潜るのを上手く阻害する。
目は退化しているのか、そもそも存在しないのかまでは不明だが、存在しないからには当然ジャイアントワームの弱点には成りえず……口が有るから頭部がどちらかは分かるが、口しか無いから上下左右が分からないため、脳の有る位置も分からない。
そもそもワームに脳が有るのかもオレは知らないのだが……。
つまり頭部といえども必ずしも弱点たりえないのだ。
それでもまずは頭部から根気強く破壊していく。
ジャイアントワームの攻撃能力を奪うためだ。
たちまち有毒の体液と血液が噴出するが、それを掻い潜ってまともに食らわないようにするだけの余裕はあった。
杭剣の刺さっている場所は避けて攻撃しないと、再び地面に潜られてしまうことになりかねないため常にそれを意識する必要こそ有ったが、得物を突き刺したところから無属性魔力波を放ったり、合間に魔法で攻撃したりしながら根気強く巨大な地蟲の生命力を奪う。
ようやくジャイアントワームが白い光に包まれて消え始めた時、右京君が温厚な彼には珍しく舌打ちを鳴らした。
……またか。
地中のジャイアントワームを倒し、空のハーピー、地面のトロル……どちらも既に少数を残すのみといった状況にようやく辿り着いたかと思えば、迫り来る新たなモンスターの群れが見え始めた。
しかも空には一際大きなモンスターの姿も有る。
他のモンスターを置き去りにしてグングン加速して来たそのモンスターの頭部は巨大な猛禽類のそれ。
胴体は猫科の猛獣のものに似ている。
……グリフォンだ。




