第219話
あれから数日。
特に問題になるような歯ごたえの有るダンジョンも無く、オレ達はそれぞれ快進撃を続けていた。
逆に言えば、トリアとの出会いのようなトピックも無く、ひたすら攻略しやすいダンジョンを攻略して回って地力の増強に努めて来たとも言える。
そしてついに……
◆
オレ達が暮らしている仙台市太白区。
その区役所の近くにもダンジョンが有る。
難易度はそこそこ。
階層数もそこそこ。
特徴という特徴も無く、至って普通のダンジョンだ。
元は自動車学校だったところだが、建物の老朽化による移転に伴い、解体を待っていたその隙にダンジョン化してしまっていた。
それが今から約13年ほど前のこと。
しかしこれは当時の状況が影響してか、かなり歓迎された出来事でもあった。
元々が交通の便も良く、周辺の商業施設の充実ぶりも区内で屈指。
ダンジョンの難易度も大したことが無いとなれば、そうしたダンジョンが流行るのも、ある意味では当然の成り行きだ。
そして流行りのダンジョンが有るところには、ダンジョン景気とでも言うべき局地的な好景気が訪れる。
当時は、わざと建物を解体せずに残しておいて、半ば故意にダンジョン化させたのでは無いかという声も、ちょくちょく聞こえてきたほどだった。
当然ながら自動車学校を運営しているバス会社は正式に噂を否定していたが、問題の土地が国に従前の相場で買い上げられて損をした筈だから、確かに故意では無かったのだろう。
閑話休題……
ダンジョン自体にはクセが無くとも、周辺の魔素量によって出現するモンスターの強さが違ってくるわけで……この地域はアレ以来、一挙にゴーストタウン化してしまっていた。
地域住民の成れの果て……つまりはアンデッドモンスターだったり、オーガやトロルなどは言うに及ばず、ワイバーンやワーライオン、果てはレッサードラゴンまでが我が物顔でそこら中をウロついている。
そう……今日、オレは初めてドラゴンに挑むのだ。
一緒に来てくれているのはトリアだけ。
これは敢えて、だ。
エネアぐらいは連れてきても良かったのかもしれないが、こちらの人員を絞った分だけ他のパーティの人数が増えるため、こちらにエネアを同行させてしまうと、カタリナしか【交渉】が出来る人材がいなくなってしまうため、かなりの大所帯で、大した難易度でもないダンジョンにゾロゾロと向かうことになってしまう。
今日は、兄と父と右京君のパーティにはエネアが同行し、妻とマチルダと沙奈良ちゃんのパーティにはカタリナが同行してくれている。
ドラゴンとは言っても、あくまでレッサー。
つまりは少し劣る存在だ。
もちろん元がドラゴンなので、通常のドラゴンよりは劣ると言っても、他に比肩し得るモンスターなど、さほど居ないぐらいの強さは持ち合わせている。
そのため万が一の事態に備えて、人員は可能な限り絞っているのだ。
オレとトリアだけなら、いざ撤退しなくてはならない事態になっても、簡単に逃走可能だろう。
それにしても……わざわざ捜すまでもなく、ウジャウジャとボスクラスのモンスターが居る。
今回の目的はあくまでもモンスターの掃討と、オレ自身の強化。
まずは一方的な展開に持ち込ませてもらうべく、やっと帰って来た愛槍の柄を握りしめる。
柏木さんの各種スキルレベルが上がった結果、予想していたより遥かに速い仕上がりだった。
今は兄の得物が改造の最中で、それこそが今ここに兄の居ない最大の理由だったりもする。
今オレが立っている場所は自動車学校のダンジョンの領域の外。
つまりは、いわゆる安全地帯だ。
ここから、得物の槍に追加された無属性波を放ち、モンスターを次々に倒していく腹づもりだった。
残念ながら目的のレッサードラゴンの姿は見えないが、ワイバーンやサイクロプスなどの大物はゴロゴロ居る。
しばらくは獲物には事欠かないだろう。
◆
こうも一方的な作業は、効率だけを重視するなら最良かもしれないが、どうもモンスターと戦っているという感覚には乏しいなぁ。
先ほどから次々とモンスターが向かって来ているが、安全地帯に入ることが出来ないまま、俺の放つ魔力波によって一方的に狩られていく。
トリアはとても暇そうにしているが、レッサードラゴンが向かって来たら、にわかに忙しくなる筈なので、今はゆっくりしていて貰おう。
近付いて来るモンスターが居なくなったら、安全地帯内を移動していき、またそこでモンスターを狩っていく。
暫くは、その繰り返しだった。
そして何度目かの移動の直後、ついにお目当てのレッサードラゴンを発見する。
まだかなり距離が有るが、移動の直後だったため周辺のモンスター達を倒している途中で、こちらに到達しそうだ。
レッサードラゴンの最大の武器は、こればかりは本物のドラゴンにさほど劣らないとされている各種のブレスで、鱗の色によって放つブレスが違うらしいのだが、こちらに向かって来ているレッサードラゴンの鱗の色は……赤というか朱色。
まず間違いなく、放つブレスは火炎だろう。
有効射程距離が正確には分からないのだが、一方的に攻撃できるとは思わない方が良さそうだ。
ここからは事前に決めていた手筈通り、邪魔なモンスターは排除をトリアにも手伝って貰う。
トリアの魔力の温存と、オレの成長を優先していたからこそ、今まで1人で戦っていたに過ぎない。
レッサードラゴン戦に専念するべく、2人でサクサクと邪魔なモンスターを倒していった。
さぁ……いよいよ、ドラゴンをこの手で倒す時がやって来たのだ。
そんなオレの表情を横で見ていたトリアは、魔法を放ちながらも、呆れたように首を振っていた。
そんなにアレな顔をしているのだろうか?
……無事にドラゴンを倒せたなら、トリア本人に聞いてみよう。




