第202話
『お見事~! いやぁ、良いもの見ちゃったな~。ヒトと判定者との混成パーティとか、ちょっと想定外だったけどさ……ところでキミは? どっかで見たことある気はするけど、多分はじめましてだよね? ボクに会いたいって言ってたと思うんだけど……』
……いつの間に居たのか分からない。
まさに降って湧いたとしか言い様が無い現れ方をした少女が小首を傾げながら、至近距離からまっすぐにオレの瞳を見据えている。
健康的な小麦色の肌に、有り得ない程に美しい容姿。
短く切り揃えられた銀髪が活発そうな印象を与える。
一見するとニコニコと楽しげな様子だが、糸の様に細められたその目の奥は決して笑ってはいない。
何より、その声はオレの脳内に直接響いている。
この子も亜神……なんだろうな。
「はじめましてだと思う。てっきり知り合いが居るものと誤解していたんだ。申し訳ない」
『……知り合い? ボク達の中に知り合いが居るの? ヒトの身の上で?』
「……あぁ、この近くの迷宮で偶然に知り合ったんだ」
『あ、そっか! キミ見たことあるよっ! アレだよね? こないだコロシアムでカラクリ人形と戦ってたよね? そっか、そっか! ヒトなのに、あそこのダンジョンの守護者になっちゃったっていう……うわぁ、ちょっと見ない間に強くなったんだね~』
コロシアムで人形……というと、オレが機械の女神と繰り広げた一進一退の攻防を、文字通り高みの見物をしていた『無貌の観客達』の中に、目の前の亜神の少女も居たことになる。
だが、もしそうだとすると……あれらは全て亜神級の存在だったのだろうか?
「あの中に居たのか。それは気付かなかった。オレ自身も不思議なんだが、何故か守護者になってしまっているんだ」
『そんだけ魔力を持ってたらシステムも誤認しちゃうだろうね。まぁ、深刻なエラーっていうワケでも無いし、ボク達としてもこちらの世界のヒトを殺し尽くしたいわけじゃないから放置してたんだけど……キミ、ずいぶんとアレだね~。ボクの縄張りのダンジョン、次々と攻略してくれちゃってるよね~。……もしかして気付いちゃったの?』
「あぁ、気付いていることになるんじゃないか?」
『あちゃ~、スゴいなぁ。それでキミ、どうしたいの? このまま天下統一でもしちゃう? キミがお気づきのように、多分もう少ししたら守護者の中にもキミみたいに、せっせと動き出すコ達が出て来る頃だと思うしさ。いや、実際もうそれなりに活発化してるところもあるんだよね。このまま行くとボク達側も、熱いごよーぼーってヤツにお応えして、そのうちルール変更しないとだと思うんだよね~』
やっぱりか。
最悪の想定として、安全地帯が従来通りに機能しなくなることや、ダンジョンの支配領域の広さが変わることも有るかもしれないと考えて行動していたわけだが、こうして明確にその想定が有り得るのだと聞くと、やはりショックは大きかった。
『……ん? ちょっと待って。キミ、ここのダンジョンも攻略し終わったことで、アレだよ? 魔素収入量の最低基準を満たしたから、ダンジョンの管理者権限も取れちゃうよ? もし管理者になってくれたら、ダンジョンのコンセプト変更も、モンスターパレードの実施も中止も出来ちゃうんだけど……どうかな?』
管理者権限!
それさえあれば、かなりの作業が簡略化可能だろう。
既にオレの影響下に置いたダンジョンの難易度や、その出現モンスターの構成を変更することが出来るようになるのなら、各自の強さに合わせたレベリングが可能になるわけだ。
コンセプトそのものを変更出来るのなら、一気に食料事情を改善するような、安全かつ採取や採集の容易なダンジョンや、鉱物資源の豊富な採掘用ダンジョンなんかにも作り替えることが出来るのでは無いだろうか?
それより何より、スタンピード時の防衛戦の必要性自体を無くすことが出来るのは非常に大きい。
ウマい話にしか思えないが、何故だか嫌な予感もしている。
【直感】が仕事をしているのかもしれない。
こうしたウマそうな話に裏があるのは、元々の住む世界が違っていても、共通しているのではないだろうか?
「ちょっと良いか? ヒデ、さっきからその子と何を話しているんだ? オレには、お前が独り言を言っているようにしか見えない」
「ごめん、それ私も同じなんだよね。言おうか言うまいか悩んでたんだけど……」
兄に続いて、マチルダもオレに待ったを掛ける。
エネアとカタリナは……やはり聞こえていなかった様子だ。
『あ、そっか! ごめんね~。今から、そのコ達にも聞こえるようにするから。とりあえず今までの会話は説明してあげて良いよ?』
お言葉に甘えて、彼女との会話の内容を皆に説明し、その間に先ほどの嫌な予感についてもオレなりに考えてみることにした。
メリットしか無いような話なのに、何が引っ掛かっているのか。
つまりは、そのメリットしか無いように聞こえる部分なのだろう。
ちょうどよい機会なので、そうした懸念についても簡単に説明し、兄をはじめ皆からも意見を聞いてみることにする。
そして、その判断は結果的に最良の成果をオレ達に齎したのだった。




