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第199話

 多種多彩なモンスターの襲撃に悩まされながらも、どうにか辿り着いた第9層。


 ここにきてついに、出現するモンスター達のランクがオレが実際に体験した限りでは最高難度である、最寄りのダンジョン第8層と並んでしまった。

 あの腐れバンパイアにはさすがに劣るが、レッサーではない通常のバンパイアさえ、当たり前のように現れ始めている。

 天使や悪魔、異界の神の下僕を模した機械の女神こそ出現していないが、それらと同等以上のモンスターは先ほどから、ひっきりなしにオレ達の行く手に立ち塞がっていた。


 例えば……ギャザー。

 魔眼がそのままモンスター化したような魔法生物で、呪殺の魔眼や石化の魔眼、麻痺の魔眼など、個体によって繰り出してくる状態異常が異なる。

 要所、要所に浮遊していて、オレ達を発見すると、それまでののんびりした動きが何だったのかと思えるほど高速で飛来しては、厄介極まりない特殊能力を放ってきた。

 コイツらは、カタリナが引き付けて、兄や人狼化したマチルダがメインで速攻で対処していくことが多かった。

 カタリナのリビングドールの身体も、レイスである本体も、ギャザーの得意とする状態異常に滅法強かったからだ。

 たまにカタリナの人形のボディや、避け損ねたマチルダが石化し掛けることも有ったが、石化に関してはエネアが使う精霊魔法で癒すことが出来るので、幸い大事に至ることは無かった。

 呪殺だけは食らったら洒落にならないので、カタリナに徹底的に庇って貰っている。


 レッドキャップやブラック(血液が酸化した黒)キャップも相変わらず煩かったが、妖精系のモンスターでいえばバンシーが特に厄介だった。

 奇妙な光沢を持つ紫色の長髪。

 見る角度によって美しい女性のようにも、醜い老婆のようにも見える不思議な容貌。

 妖精という実体を持たない種だからこその現象なのかもしれない。

 存在力が不安定なのだろう。

 それでいて、まるで死人のように青ざめた顔色だけは、どちらの見た目の時も変わることがない。


 そうした見た目のせいか、バンシーをアンデッドモンスターと誤認している人は案外と多かったのだが、かなりの数のアンデッドモンスターと対峙してきた今のオレにはハッキリと別物だと言い切れる。

 アンデッドモンスター特有の、生者への理由の無い恨みだとか、憎しみといった負の感情は全く感じられない。

 あるのは、ただ悲しみ。

 そして嘆き。

 宙を自在に飛び回り、そして特にこちらに接近してくるわけでもなく、ただひたすらに泣き喚いている。

 問題なのは、その泣き声だ。

 魔法への抵抗力はかなりのものが既に備わっている筈なのに、そんなオレでも聞いているだけで気が狂いそうになる。

 実際、兄とマチルダは酷くキツそうだった。

 バンシーの嘆き悲しむ声に()()()()()自殺同然の無謀な突撃をしそうになっていたマチルダを、エネアが咄嗟に魔法で眠らせてくれなかったら、恐らくは非常に危険な場面だっただろう。

 そしてバンシーを倒すのは本当に大変な作業だった。

 魔法を付与した武器さえも通じず、魔法で倒す以外の方法が無いのに、バンシーの魔法抵抗力は破格の一語に尽きる。

 オレやエネア、さらにカタリナが、何度も何度も高位の魔法を撃ち続けてようやく撃破することが出来るほどだ。

 幸いだったのはバンシーの出現数自体は、さほど多くなかったことぐらい。


 リビングウェポン、ミスリルゴーレム、トロルメイジあたりの普通ならかなりの強敵として扱われるべきモンスターが、相対的に弱く感じられるほどだ。

 ギャザーやバンシー、それからバンパイアやワータイガーなどの高位モンスターがボスでは無く通常のモンスターとして(こぞ)って現れる状況は、実際かなりの難易度だったと思う。


 そして……この階層で一番の難敵は、何と言っても木の葉天狗だ。

 いわゆる魔法とは、また別系統の術を用いる。

 高速で飛行することも可能なうえ、地面に足を着けた状態で戦っても滅法強い。

 錫杖を使う天狗の杖術は恐らく父と較べても良い勝負になるほどの腕前だし、そもそもの身体能力では、この小天狗の方が優っている。

 短槍を扱う天狗の槍術も、オレの知るものとはまた別系統だ。

 さすがに腕比べでも力比べでも、負けたりはしなかったが、それでも技の発想の違いで虚を突かれてしまい、ちょっと慌てる場面もあった。

 太刀を操る天狗の刀術の冴えは、兄やカタリナをして互角の勝負に持ち込むほどで、兄はともかくカタリナは、マチルダの援護が無かったらかなり危なかったようにも見える。

 魔法戦においても、オレやエネアはおろか、カタリナの腕前をもってしても、魔力の差で何とか押しきっているに過ぎず、単純な技巧という意味では、かなりの苦戦を強いられていた。

 木の葉天狗が1体や2体なら、各自で対処可能なレベルだったが、数的優位は常に天狗側のものだったのも、常に苦労をさせられる破目に陥った要因だと思う。


 どうにかこうにか、これらのモンスター達を撃破しながら第9層の探索をまっとうし、ボス部屋らしきものを発見した時には、オレを含む全員が疲弊しきっていた。

 体力はスタミナポーションで回復できても、それで全てが万全では無い。

 ここのボスを倒しても、まだ守護者が姿を現さないようなら、次に同等以上の規模の階層の探索は正直に言って遠慮したいところだった。


 さぁ……運命の扉を開こうか。

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