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第198話

 破竹の勢いで快進撃を続けること数日。


 周辺地域のダンジョンを攻略し続けたオレ達はついに、青葉城址のダンジョンのすぐ隣の地域にあるダンジョンを訪れていた。


 同行者は、エネアにカタリナは勿論のこと、今日は兄とマチルダにも来て貰っている。

 これはドラゴンや、ジャイアントなどが跳梁跋扈する青葉城址の近隣まで到達したことで、道中に万が一が有った際に備えてのことだ。

 妻も来たがっていたが、さすがに本格的な危険地帯に来るのに、息子を残して夫婦で来るわけにもいかない。

 第1次スタンピードの時のように、そうも言っていられない状況に追い込まれない限りは、安全マージンの取れない()()を夫婦揃って行うつもりは無かった。

 青葉城址のダンジョンとの間には、僅かながら安全地帯が広がっていて、万が一という事態は中々に考えにくいのも事実だが、それはそれ……だ。

 今では妻も、マチルダが人狼になっていない時の強さぐらいには追い付いて来ているので、そのうち共にダンジョンに挑むことにはなりそうだが、それはもう少し安全なところなら……という話になるだろう。


 ここ数日、幾つものダンジョンを攻略しているわけだが、その時にこの付近を通っていて酷く肝を冷やしたことがある。

 比較的、新しく作られた国道を通る分には問題無いのだが、隣合うように伸びている旧国道を通っていて、ごく間近にまでドラゴンが飛来してきたことが有り、そのブレスや魔法の射程距離を考えると、安全地帯上ではあっても旧国道を使うのは止めようという結論になったのだ。

【危機察知】は相対的な力関係で反応が全く変わって来るため、ここのところ仕事をあまりしていなかったが、あの時の警報は『けたたましい』という表現がピッタリくるもので、まだまだオレが力不足なのだと痛感させられてしまった。

 あの時は慌てて引き返して、攻略を予定していたダンジョンでは無く、それよりずっと小規模かつ難易度の低いダンジョンに挑んで、お茶を濁すことにしたものだ。


 閑話休題(それはよいとして)……


 今日、来ているダンジョンは周辺のモンスターからして、ここ数日とは様相が違っていた。

 兄とマチルダを加えて磐石の体制で臨んだ掃討戦も、想定していたより時間が掛かってしまったほどだ。

 顔も知らない住民達の成れの果て……アンデッドモンスターにしても、生前から使えていたとは思えない魔法を媒体となる杖や指輪も無しに行使してくる始末。

 ゴブリンやオークなども魔法を使って来る上位種や、武器や防具も非常に良い物を携えている。

 弓やボウガンの装備率も高く、それなりに手を焼かされたものだ。

 逆にオーガの方がノーマルなランクのヤツが多くて戦いやすいほどだった。


 地味に厄介だったのが、ゴブリンに良く似た……それでいて全く別物のモンスター、レッドキャップだ。

 その特徴的な赤い帽子は、犠牲になった人々の血で染めぬかれたモノらしい。

 身長は50センチほどで、ゴブリンよりもむしろ小さいぐらいだが、手の爪は長く鋭く伸びていて、眼は充血して真っ赤に染まっている。

 同じ赤でも血の赤……まるで眼底出血が白目全体に及んでしまっているかのようだ。

 ワシ鼻に茶色い肌、犬歯は牙のように伸びていて、醜悪な老人のような見た目。

 見た目上でゴブリンとの一番の差異は長く伸ばしたアゴ髭と、真っ白な長髪。

 酷く猫背なせいで身長よりも更に小さく見えるが、それでいて走るのが物凄く速い。

 小さな身体に不釣り合いなほど、大きな金属製のブーツを履いているのに、そんなことはお構い無しだ。


 そしてこのレッドキャップ。

 物理攻撃が全く効かない。

 エネアやカタリナ、それからマチルダ。

 彼女達、異世界組から事前に話を聞いておかなかったら、酷く慌ててしまっていたかもしれない。

 レッドキャップは、こんな醜悪な見た目でありながら、妖精種に分類されるモンスターなのだ。

 討伐時は魔法か、魔法を付与した武器で戦うしかない。

 それはともかく、このレッドキャップ……酷く好戦的であるうえ恐ろしく狡猾な魔物だ。

 物陰に隠れての奇襲などは序の口で、ゾンビや他のモンスターに隠れて接近することさえ多々あった。

 斧をメインの得物として巧みに扱うが、投石や砂を投げてくることも好んで行う。

 その斧さえも必要なら平気で投げてくる。

 そもそもの数が多いうえに、一時撤退も平気でするため、非常に面倒な相手だった。


 ダンジョンの中に入っても、レッドキャップには散々に悩まされた。

 元はパチンコや、ボウリング、温泉やサウナのあるスーパー銭湯、飲食店やカラオケボックスが併設された建物だったここは、敷地面積も建物の規模も非常に大きい。

 それでいて自然洞窟タイプのダンジョンで、死角になり得るところも多く存在した。

 天井からも地面からも伸びている鍾乳石や、うっすらと地面を覆う水、他のダンジョンよりも薄暗い視界……そもそもの探索難易度が高い。

 そんなところに無尽蔵にも思えるほどのレッドキャップや、自在に魔法を操る上位種のブラックキャップ達が行く手を阻み続ける。

 正面戦闘ではオレ達の敵では無いのだが、いつ来るか分からないうえ、いったん襲われると延々と続く邪妖精達の襲撃は、否が応にもダンジョンの探索速度を下げていく。

 ダンジョン内部では、外には居なかったタイプのモンスターも多く生息し、あの法則からも外れていた。


 ゴブリン、オーク、オーガ、ダンジョンに入ってから現れはじめたトロルは亜人系。

 レッドキャップ、ブラックキャップは妖精系。

 ゾンビにゴースト、スケルトンにグールはアンデッド系。


 通常のダンジョンなら、これ(アンデッド含めて3系統)以外の系統のモンスターは出現しない。

 ……だと言うのに、イビルバットにイビルウルフ等の獣系や、ワーラット、ワーバット等の獣憑き(ライカンスロープ)系。

 インプは悪魔系だし、ガーゴイルは魔法生物系、ジャイアントリーチ(ヒル)や、ジャイアントキャタピラー(イモムシ)は虫系だ。

 さらにはスライムやクリーピング・クラッド、ゼラチナス・キューブ等のスライム系統のモンスターまで出現し始めた。


 これらのイレギュラーが1体や2体なら、いわゆる『戻り』モンスターなのだろうが、明らかに数がおかしい。

 ここ数日の平和(?)なダンジョン攻略の日々とは、既に様相が大きく異なっていた。


 何か()()


 ……間違い無いだろう。


 この異変に誰からともなく気付いた時のオレ達は、一様に緊張の面持ちを浮かべ始めていた。

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