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第2話

 どれぐらいフリーズしていたのだろう?


 唐突にゴブリンが後ずさりしたことで、ようやくオレも硬直が解け、遅まきながら行動を開始した。


 コイツを逃がしてはいけない。


 それはゴブリンに打ち勝てるだろう大人としては、義務に近い情動だったと思う。


 ウチのすぐそばには小学校、中学校が並ぶようにして立っているし、介護を必要とする老人が暮らすような施設だって有る。


 天気の良い日にはベビーカーや、よちよち歩きの子供を連れた子育て世代のママさん達が集まる公園なんかも有るのだ。


 弱い部類とはいえゴブリンは立派なモンスター。


 戦う力を全く持たない子供や老人には、荷が勝ち過ぎているというものだ。


 自分より強いと見るやあっさり逃走する弱腰を見せるかと思えば、自分より弱い相手には(かさ)()かって襲い掛かる凶暴な性質も持ち合わせているのが、ゴブリンという魔物なのだから。


 後ずさりから、パッと反転して素早く逃走を開始したゴブリンに、オレは悠々と追いすがり無防備に晒された後頭部に向けて、手にしていたスコップを振り降ろす。


 いきなりの遭遇でオレに唐突な混乱をもたらしたゴブリンだったが、いざ戦闘が始まると汚ない血を撒き散らしながら、あっさりと前のめりに倒れたまま動かなくなった。


 しばし残心……やはりゴブリンは動かない。




 多少の違和感を覚えたものの、咄嗟に得物として振るったスコップを構えたまま、ピクリともしなくなったゴブリンに、慎重に近寄っていく……と、ある意味では見慣れた光景を眼にすることになった。


 ゴブリンの死体が発光したかと思ったら、いつの間にか消えてなくなり、そこには親指の爪ほどの大きさの(いびつ)な球状をした黒い石コロ……コレも今では見慣れたモノだが、いわゆる魔石が残されていたのだ。


 オレが感じた違和感とは、つまりはこの現象……倒したモンスターが消えていく現象の起こりが、普段ダンジョンで見掛けるものより、だいぶ遅かったことだった。


 討伐したハズのゴブリンが、しばらく消え失せない……これがダンジョン内ならば、つまりゴブリンがまだ生きているということになるのだ。


 倒したそばから光に包まれ消えていく。


 それがダンジョンのモンスターにまつわる常識で、消えないモンスターとは死んだフリをしているか、単に瀕死状態、または気絶している……まだ考えられる状態は有るのかもしれないが、オレが知る限りでは大体がそんなもんだった。


 またオレの悪い癖が出て、つい考えこんでしまいそうになったが、こうしてばかりもいられない。


 手早くゴブリンの落とした魔石を拾うと、目の届く範囲で周囲を見回す。


 最悪の事態(今までは起こらないとされていたスタンピードという魔物の氾濫)も想定していたが、どうやら普段通りの光景が広がっているようで、少しばかり胸を撫で下ろす思いだ。


 さしあたり問題が見つからないならば、次に気になったのは家族の様子。


 オレは、妻と息子が居る我が家へと、(きびす)を返したのだった。

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