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第188話

 ……死んでゾンビになったとは言え、曲がりなりにもプロの探索者だった人達だ。


 彼らを()()する過程で得られたスキルは多かった。

 その中でも【早熟する腕前】というスキルは、今のオレにとっては非常に有難いものだ。

 武器戦闘に関連する全てのスキル熟練度が上がりやすくなるというもので、恐らくはこのスキルを序盤に奪えたことで、熟練度が上がりにくく感じていた【見切り】と【無拍子】のスキルレベルが上がったのだろう。

 今後、使うかどうかは微妙なところだが【弓術】や【弩弓術】といったスキルも得られた。

 他にも【護衛の心得】は、妻や柏木兄妹と行動を共にする際には役に立つかもしれないし、【生命力強化】なんかは間違いなく有用だ。

 これらのスキルが元は彼らが生前、所持していたスキルだと考えると複雑な気持ちになってしまうが、彼らの分まで精一杯に戦っていくことを彼らへの手向けにすることにしよう。

 ……そう、無理やり自分を納得させることしか出来なかった。


 ゾンビ以外にもダンジョン外から流入したのだろうモンスターは多かったのだが、サイズの問題なのかサイクロプスはもちろんのこと、ワイバーンや各種ゴーレムの姿は無く、せいぜいがオークやワーボアあたりの人型モンスターが混ざる程度。

 さほど障害には成り得なかった。


 第2層以降は本来このダンジョンに出現するモンスターばかりで更に楽な展開になる。

 階層あたりの面積も狭いし時間も有限なので、今日のところはモンスターの間引きよりも先に進むことを重視した。

 ヘレシーウルフやクルーエルベアーなど、各階層のボスを務めるモンスターも、はっきり言って今や何の障害にもならない。

 以前のオレなら回れ右して撤退していただろうモンスター達なのだが、今となっては雑魚にしか思えなかった。

 中層と呼べる深さまで潜って来ているが、今のところデスサイズやフォートレスロブスターを超える強さを持っている階層ボスには遭遇していないのだから、最寄りのダンジョンがいかに難易度の設定がおかしかったか、よく分かるというものだろう。


 それでいて製パン機や結界柵などのマジックアイテムやポーション類は、潜れば潜るほど良いものが手に入る。

 金銭には今や大して価値を感じないが、このダンジョンが人気を博した理由が良く分かるというものだ。

 それに対して防具やアクセサリーに関しては、あまり入手出来ていないし、ドーピング剤やスクロール(魔)もドロップ率が良くない。

 そうした装備品や強化アイテムの不作を補うかのように、食材系のドロップアイテムや、武具素材になるアイテムは豊富に手に入った。

 食材アイテムの中では、イビルディアーやイビルボアの肉が最も喜ばれそうだ。

 鹿肉はともかく猪肉はクセが強いが、熊や狼の肉よりはまだマシだろう。

 肉類については通常の供給が途絶えて久しく、ド田舎ダンジョンには獣型モンスターの数が少ないため、無事にこのダンジョンを無害化出来たなら、食肉目的で自警団の面々に通って貰うのも良いかもしれない。


 ◆


 特に何事もなく、ここまでに踏破した階層数は20層に達した。

 現在地は第21層。

 ここに来てダンジョンは急な変化を見せる。

 これまでは低かった天井が高くなり、通路の幅もかなり広くなった。

 兄もこのあたりまでは来たことが有るらしいが、時間的な制約と出現するモンスターとの相性のせいで、兄の最大到達階層数は22層どまり。

 兄を悩ませたモンスターとは……コイツらだ。

 今の兄なら鼻歌まじりに片っ端から斬ってしまうのだろうし、今の兄には魔法という手段も有るため何の問題も無い筈だが、以前の兄の武器では確かに相手をしたくなかっただろう。


 そこにはフレッシュ(屍肉)ゴーレムに、ダイヤゴーレム、さらにはブロッブというスライムに良く似た魔法生命体が大量に待ち構えていた。

 フレッシュゴーレムは斬ると腐汁(ふじゅう)を撒き散らすし、ゴーレムのくせに病毒のブレスを放つクセ者だ。

 ダイヤゴーレムは斬擊や刺突には異常に強いため、兄の刀との相性は最悪の一言に尽きる。

 そして何より厄介なのはブロッブだろう。

 硫酸以上の威力を誇る酸性の体液で膨張した巨大なスライム……コイツを武器で攻撃することは長年愛用した得物との別れを意味する。


 フレッシュゴーレムは火魔法で焼き尽くせば良いし、ダイヤゴーレムは打撃に滅法弱いうえ、フレッシュゴーレムのついでに焼いてしまっても問題なく倒せる。

 各国の軍隊所属の探索者達は火炎放射機で対処していたようだが、個人でそんなものは用意出来ない。

 ブロッブに関しては火よりも液体窒素が有効らしいが、魔法なら属性を問わず耐性が低いようだった。


 こうして普通なら苦労させられていただろうモンスター達にも、それぞれの特性を逆手に取って短時間で撃退していく。

 就職してからのオレは思いの外、営業マンとしての成績が良く、そのため常に仕事が忙しかった。

 その分、学生時代ほどはダンジョンに行けなくなってしまったが、常にダンジョンやモンスターの情報は集めていたし、たまに公開される動画などは必ずチェックしていたものだ。

 それは単に趣味だったからなのだが、どこかダンジョン探索で活躍する自分を夢見ていた部分は有ったのかもしれない。

 口の悪い同僚には『ダンジョンオタク』などと言われることもあったが、その知識は今こうして立派に役に立っている。


 つくづく……人生、何が起きるか分からないものだなぁ。

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