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第185話

 しかし狭い道だ。


 世の中が()()なる以前、車がすれ違うだけでも少し苦労していたぐらいなのだから、それも仕方がない。

 立ち上がったサイクロプスは、民家や個人商店などの低層の建物は踏み潰し、それなりの高さのある建物は薙ぎ倒しながら迫って来る。

 巨体ゆえ動きはそこまで速いわけでも無いのだが、振り回す棍棒の速度だけは別格だ。

 道の狭さが災いして、土産物屋や写真館などが次々とサイクロプスの棍棒の餌食になっている。

 サイクロプスの振り回す棍棒の材質は、パッと見では岩石の様に思えるが、これほど硬い岩石が有るだろうか?

 何らかの幻想世界にしか存在しない筈の鉱物を含有している岩なのかもしれない。


 オレもただ逃げ回っているわけでは無いのだが、周囲にまだ生き残っていたモンスターも物音に釣られて集まって来てしまっていた。

 サイクロプスの振るう棍棒は、それらのモンスターのうち最も硬いであろうミスリルゴーレムさえ瞬時に粉砕してしまう。

 質量兵器……そんな言葉が脳裏をよぎる。

 もちろんサイクロプスにしても、わざとゴーレムを攻撃しているつもりは無いだろう。

 必死に棍棒を回避し続けているオレと、そんなオレに迫るモンスター達。

 オレが避けた棍棒が、オレを目指して移動してきたモンスターに当たってしまっているというだけの話だ。


 膂力の差は歴然。

 体力、生命力に関しては比べるだけ無駄だ。

 幸い、敏捷性だけは上回っているから何とかなっているだけの話で、こうしてオレが後退しているのも、素早さの差を最大限に活かすためだった。

 サイクロプスの棍棒にとっては何の障害にもならない建物も、オレにとっては命取りに繋がりかねない障害物になるからだ。

 逃げ場が無くなったところで棍棒が迫って来たら、それこそ一瞬でミンチになってしまうだろう。


 先ほどの【転移魔法】を警戒してか、オレが大きく距離を離そうとすると棍棒を振るう手を止めて猛追してくる。

 そんな時のサイクロプスは、オレが思わず舌を巻いてしまうほどに速い。

 いや……速いというより、走ることに集中した時のサイクロプスは、その一歩が非常に大きいのだ。

 結果として、敏捷性にはオレに間違いなく軍配が上がるのに、駆けっこでは分が悪いという妙な現象が起きていた。

 そのため、サイクロプスには移動よりも攻撃を意識して貰う必要が生じる。


 時折オレも足を止めて【投擲】や魔法で、サイクロプスに攻撃を加えていたわけだが、ここでもサイズの差というものを、強く意識させられることになってしまった。

 幸い、サイクロプスの魔法抵抗力は並のレベルで、一応はダメージを与えられていたとは思う。

【投擲】に関しても的がデカいのだから、当て放題ではあった。

 それでもサイクロプスの巨体ゆえ、同じサイズの傷でも意味合いが全く変わってしまう。

 これが例えば腐れバンパイアの様に、さほど普通の人間と大差無いサイズのモンスターなら致命傷になりかね無いダメージでも、サイクロプスにしてみればかすり傷にもならないのだ。

 例えば腹に剣が刺さったとしよう。

 人間サイズなら致命傷か、重傷。

 サイクロプスのサイズだと、ちょっとチクっとしたかな……ぐらいの話になってしまうのだ。

 槍が刺さっても、何なら爪楊枝ぐらいにしか思わないのではないだろうか。


 それならば……と、サイクロプスの明らかな弱点である筈の眼を狙うと、抜群の反射神経を見せて防いでしまう。

 オレの初撃となった【転移魔法】を用いた奇襲は手を傷付けることに繋がったが、それさえサイクロプスが油断している状態でようやくということだったらしい。

 魔法にしても【投擲】にしても、今のところ眼を狙った攻撃は全て棍棒で防がれてしまっている。

 恐らくは何かしらのカラクリが有るのだろう。

 それがスキルによるものなのか、反対にこの超反射こそが本来のサイクロプスの動きで、その他の動作全てが擬態なのかまでは分からない。

 後者だと完全に手に負えない存在となるため、前者であって欲しいところだ。


 ようやく、それなりに開けた場所までサイクロプスを誘導することが出来た。

 ちょくちょく接近してくるモンスターもいるが、そちらは今のところエネアが一手に引き受けてくれている。

 こうした圧倒的な巨体を誇るモンスターと対峙した時に、いくらダンジョンに潜って強化して来たからと言っても、実際に出来ることは少なかった。

 まずはとにかく一撃を貰わないことが最優先だ。

 どれだけ優勢に戦闘を進めていっても、一瞬で引っくり返されてしまうだけの攻撃力と生命力の差が有るのだから……。


 ◆


 サイクロプスとの戦闘は、既にかなりの長時間に及んでいる。


 今では辺り一面が、サイクロプスの流した血液で染まりつつあった。

 とにかく動き回りサイクロプスの攻撃を回避しつつ、少しでも多くダメージを与えることを意識して戦っていたわけだが、細かい傷をいくら負わせてもサイクロプスの動きは一向に衰えない。

 まさか本当に体力が無尽蔵なわけでは有るまいが、そう思ってしまいそうになるほど、この禿頭単眼(とくとうたんがん)の巨人はしぶとく、そして持久力にも優れていた。

 エネアは既に周辺から集まってきたモンスターの相手を終えていて、こちらの援護に回ってくれているのだが、それでも押しきれない。

 成長した【存在強奪】の効果で、オレがサイクロプスに傷を負わせるたびかなりの力が流れ込んで来ているが、結局はサイズの差が埋まったわけでは無いのだ。

 何ともじれったい展開が、もう長いこと続いている。


 こうなったら、とことん持久戦だ。

 そう思っていたのだが……転機は思わぬ形で訪れた。


 思わず眼を疑ってしまいたくなるような光景が、それはもう唐突に飛び込んで来たのだ。

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