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第172話

『スキル【魅了耐性】を自力習得しました』

『スキル【剣術】を自力習得しました』

『スキル【眷属強化】を自力習得しました』

『スキル【槍術】のレベルが上がりました』

『スキル【属性魔法耐性】のレベルが上がりました』

『スキル【見切り】のレベルが上がりました』

『スキル【無拍子】のレベルが上がりました』


『ダンジョンシステムからの侵襲を確認しました……拒否を自動選択……エラー……エラー……エラー……エラー……ダンジョンシステムの侵襲を受容します』


『現在地のダンジョン──正式名……選別の迷宮の【守護者】として設定されました』


 ……は?


 薄れていく意識の中で、有り得ない言葉を聞かされてしまったような気がしたが、その時のオレには、到底それを深く考える余裕は無かった。


 ◆ ◆ ◆


 ……どれぐらい気を失っていたのかは、正直なところ分からない。


 腐れバンパイアと戦い始めたのは昼過ぎだったが、決着した時間を正確には把握していないからだ。

『空間庫』から取り出したスマホが指しているのは午前1時を少し過ぎたところ。

 翌日の昼過ぎで無くて良かった。

 まぁ、日付は変わってしまっているのだが。

 さすがに12時間以上は戦っていなかったとは思う。

 とはいえ戦闘中に経過した時間は、戦闘に集中していたため、やはりいつから寝ていたのかは曖昧だった。


 気を失う前に酷く不吉な声を聞いた気がするが、それすらも夢と現実の区別がついていない。

 取得したスキルやスキルレベルの上がったものは何となく覚えているし、新しく得たスキルについても、原理は謎だが既に自分のものという認識がある。

 ついでに言えば、その効果や使い方も分かるようになっていた。


 オレが横たわっていた所の目と鼻の先に、吸血鬼の遺したらしい宝箱が有る。

 身体を起こし、罠の有無をスキルの感覚に頼って判別するが、どうやら罠は無いらしかった。

 立ち上がり宝箱を開けると、中には古びた本が入っているのが見える。

 取り出して表紙を見るが、やはりと言うべきか読める気がしなかった。

 いったん『空間庫』に本を収納し【転移魔法】を発動する。


 今の今まで気絶していたせいか、深夜にも関わらず全く眠気は無いが、とにかく帰って無事を知らせないといけない。


『迷宮守護者の外出を確認……これより一時的に迷宮機能の全てを凍結します』


【転移魔法】が発動する直前、今度はハッキリと不吉な言葉が脳内に響いた。

 いつもの【解析者】の声とは違って、どこか男性的な音声だ。

 聞き間違いじゃ……無いよなぁ。



 思いもしなかった事態に混乱しながらも、自宅の玄関前に飛ぶ。

 深夜だけあって街頭もろくに無い別荘地には明かりが乏しい。

 そんな中、ウチだけが煌々と明かりを灯していた。


「ヒデちゃん!」


 どうやら寝ずに玄関スペースで待ってくれていたらしい妻が、真っ直ぐにオレの胸へと飛び込んで来る。

 どうにか泣きじゃくる妻を宥めながら一緒にリビングに続くドアを開けると、おチビ達と義姉を除いた全員が待っているのが見える。

 そこに入って行くには少しばかり勇気がいる光景だが、さすがに回れ右してダンジョンに向かうわけにもいかない。


「ただいま」


「「「お帰り(なさい)」」」


「……心配掛けてごめん」


 それぞれから、ひとしきり小言を貰っている間、無言で抱き合いながら泣いている妻とマチルダの姿が視界の片隅に入る。

 この僅かな間に仲良くなっていたようだ。


「ヒデ、それでクソ吸血鬼は?」


 父と母とが自室に戻る中、リビングに残った兄がそう尋ねてきた。


「しっかり倒して来たよ。……まぁ、それで気を失う破目になったわけなんだけどさ」


「例の()()か……。なるほどな」


 兄と妻には詳しく【存在強奪】のことも話してある。

 スタンピード時の防衛戦に居合わせた父も何となくは分かっているようだが、倒したモンスターによっては存在力の吸収に苦痛が伴うというのは、さすがに父親に詳しく話すのに気がひける内容だ。

 強くなるのが一段と早くなるスキル……ということぐらいしか話せていない。


「で……さ。バンパイア倒したら、ダンジョン守護者の権限ぶん取っちゃったみたいなんだよね」


 意識して明るく告げたつもりだったが、オレの口から漏れた笑い声は、自分の耳にも乾いた笑い声にしか聞こえなかった。

 兄は盛大に眉間にシワを寄せて諦めたかのように首を振っているし、妻もマチルダも泣くのをやめてオレを見ながらフリーズしてしまっている。


 しばらくの間、深夜のリビングを何とも言えない静寂が支配していた。


 その沈黙を破ってくれたのはマチルダ。


「え? じゃあ、貴方がダンジョンを管理するの? パレードは?」


「それが……意識が戻ってすぐに帰って来ちゃったから、正直あんまり分からないんだよな。マチルダ、詳しいやり方は知ってる?」


「私がまともにダンジョンの管理してたのって実質2~3日だよ。喚ばれて目が覚めて、少ししたらあのパレードだったもん。あ、そういえばマニュアルは?」


 マニュアル……って、まさかアレか?


『空間庫』から、先ほどバンパイアの落とした宝箱から得た古ぼけた本を取り出して、マチルダに見せる。


「そうそう、それそれ! 私、あんまり読んでないけど、それ見ながら魔素配分とかやってたよ?」


 どうやら、この用途不明の本がダンジョン管理用のマニュアルで合っていたらしい。

 ペラペラと捲ってみたが、表紙の文字とは違い、中はオレでも読めるようだ。


 ……何ページあるんだ、コレ。


 いささかゲンナリしながら流し読みしていたオレは、その中に興味深い内容を見つけてページを捲る手を止めた。

 急に食い入るように『本』を読み出したオレを見て、兄達がオレの肩越しに覗き込むも、どうやら兄達には読めないらしい。

 元の持ち主のマチルダさえ、もう読めなくなってしまったようだ。


 そこには……これからのオレ達の行動指針を決定付ける内容が記されていた。

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