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第168話

 バンパイア……つまり吸血鬼の弱点と一般に言われている陽光は、ダンジョン内では望むべくもない。


【転移魔法】も決して万能では無く、こちらに敵意を向けている相手を連れて転移することまでは不可能だ。

 マチルダの場合は、オレに欠片も敵意を抱いていなかったから、ダンジョン外にも飛べたということになる。


 ニンニクも一応は持ってきて【投擲】してみたが、全く効いていないようだった。

 ……臭そうにはしていたが。

 一説によると吸血鬼は水を恐れるという話も有ったのだが、水魔法はさほど効いていないようだったし、ペットボトルに入れてきた水にも何ら反応を示さなかった。

 もちろん十字架にも無反応だ。

 そもそも、この世界の化け物でも無いしなぁ。

 あちらの世界の聖印でも有れば、話は別かもしれないが、当然そんなものは持っていない。

 逆にお清めの塩をバラ撒いてやった時には、僅かに嫌そうにしていたが、それは恐らく傷口にでも入って染みただけの話だろう。

 つまり考え得る限りのバンパイア対策は全て試した後なのだ。

 残念ながら特効を示すものは、どれひとつ無かった。


 あとは正攻法を愚直に繰り返すだけか……と、思い掛けたその時。

 唐突に思い出したことが有った。


 ヒントはマチルダだ。


 いや、正確には人狼……つまりワーウルフの特性を思い出したのだ。

 西洋でメジャーなモンスターを列挙していく際に、人によって上位に来るモンスターは違うだろう。

 しかし、狼男(マチルダは女性だが……)やバンパイアは必ず上位には来る筈だ。

 あとは……いわゆるフレッシュゴーレムかな。

 産みの親となったマッドサイエンティストの名を冠する怪物……そう、アレだ。


 話が逸れかけたが、つまり一般にはワーウルフの特性として知られている、鉛の銃弾や普通の刀槍では傷を受けないという特殊な体質。

 それと同じように、バンパイアにも効かない武器が有るのではないだろうか?

 オリハルコンの穂先を持つ槍が効かない相手というのは想像しにくくて、今の今まで思考の片隅にも出てこなかった。

 オレが思考の海に没入しながら戦闘を続けている一方で、腐れバンパイアは相変わらず減らず口を叩き続けている。

 うるさいから意識しないようにしていたが、マチルダのことをオレの想い人だと誤解している吸血鬼は、先ほどから何度かマチルダのことも口にしていた。

 そのおかげで、こうした可能性に気付けたのだから皮肉な話だ。


 まずは……これ。

 一応、念のためにと持参していた木の杭だ。

 バンパイアが寝ている隙に、心臓に打ち込めば倒せるなどという説が昔からあって、それを覚えていたからこそ用意してきたものだが、まぁ案の定バンパイアが寝ているワケもなく……全くの無駄になりかけていた。

『空間庫』から宙空に取り出したそれを、野球のバッティングの要領でフルスイングした槍の柄で打ち出し、バンパイアの肩口に突き刺すことに成功。

 うまく虚を突く形になったのが幸いした。

 残念ながら心臓の有るであろう辺りには刺さらなかったが、初めてバンパイアの顔が苦悶に歪んだ。


 ……どうやら、この路線で間違ってはいないようだった。


 木の杭を忌々しげに引き抜いて後方に放り捨てたバンパイアは、一層その勢いを増して攻め掛かって来たが、ここに来てようやく動きや魔法の来る時のパターンを把握出来てきたため、決して余裕は無いものの、どうにか捌きながら次の一手を考える。


 杭はあれきりだ。

 ならば同じく木でいこう。

 幸いオレの今の得物は槍だ。

 柄の材質は『神使樹』という謎物質だが、木には違いあるまい。

 当然、杭のようには尖っているわけでもないが、長さを調整するため裁断されただけの石突きの部分は未だに手付かずで、金属で覆われていたりもしなかった。

 クルリと槍を半回転させ、穂先と石突きの位置を入れ替える。

 明らかに苦い顔になるバンパイア。

 決して鋭利な断面では無いが、先ほどの杭が刺さった肩口の傷の治りが遅いことから考えると、全く無駄にはならない筈だ。


 ◆


 ……このままでは埒が明かない。


 ひとしきり戦闘を継続した後の率直な感想がコレだった。

 確かに驚異的な再生能力は封じることに成功しているし、バンパイアの攻撃パターンの解析はさらに進んで、オレがダメージを受ける場面は時間とともに減って来てはいる。

 しかし、いかんせん槍の穂先の無い側で戦っているため、オレの与えるダメージも極めて少ないのだ。

 これで柄による殴打が有効な相手なら、また違った形で戦闘が推移していったことだろう。

 しかし、全くと言って良いほど殴打は効いていないように見える。

 途中、不慣れな剣で戦ってもみたが……やはりオリハルコン自体がダメらしい。

 かなり苦労してようやく斬った傷も、瞬く間に癒えてしまった。



 戦いながら頭の中で判明している状況を整理していく。


 まず材質。

 どうやらオリハルコンは無効。

 手持ちのスローイングナイフに使われている、鋼鉄や魔鉄も無効。

 木の杭、神使樹は有効。


 次に攻撃属性相性。

 殴打は明らかに無効。

 刺突は有効のようだ。

 斬撃は不明。


 魔法の効きは恐ろしく悪いが、強いて挙げるなら光属性が有効。


 まだ試していないのは……また()()か。


『空間庫』にオリハルコンの槍をしまい、もう使うことも無いだろうと思いながらも、一応の予備として持ち歩いていたミスリルの鎗。

 今回は機械の女神との初戦闘時のように、斬撃を試すために取り出したわけではない。

 そうした使い方をしようにも、既に鎗の側面に取り付けられた月牙はボロボロで、とても使い物になる状態ではなかった。

 目的はミスリルそのもの。

 ミスリルを無理やりにでも漢字変換するならば『魔銀』となる。

 つまり特性としては銀に近い。

 そして銀と言えば……昔から魔物退治の定番金属だ。

 そして……どうやら、その推測は当たっていた。

 腐れバンパイアの顔が、初めて吸血鬼に相応しく青ざめていったのだ。


 さて……今度はオレが嗤う番だろうか。


 せいぜい凶悪そうに見えるよう笑みを浮かべて、オレは吸血鬼に向かって勢いよく駆け出していく。

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