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第161話

 帰って来たオレを迎えてくれたのは、何となく想像していた通りの2人。


 兄と妻だ。


 既に夜は更けていて、あまり多くは話せなかったものの、スタンピードの再来の可能性が高いことについては無事に報告を済ませることが出来た。

 兄は達観したような表情で受け入れ、妻は悲壮感すら漂う表情で何かしらの覚悟を決めたように頷く。

 今日の午後、兄達は湖畔ダンジョンの先の生存者を受け入れる準備をするべく、避難経路に該当する地域をうろつくモンスターを排除して回っていたらしい。


 ド田舎ダンジョン側にはモンスターの数は少なく、マイコニドの巣窟になっているサーキット跡のダンジョン側には立ち入らず……。

 主に湖畔ダンジョン周辺のモンスターの排除を(おこな)っていたのが、佐藤さんと右京君を中心とした地元有志のメンバー。

 今日は、肩の傷が癒えた森脇さんも加わっていたという。

 湖畔ダンジョン周辺に出現するモンスターはゴブリンやコボルトなどの亜人系と、イビルウルフやイビルボア(イノシシ)などの獣系の他、どこにでも現れるようになってしまったアンデッド達。

 中にはオークやイビルベアのように、初心者には荷が重いモンスターも混ざっていたらしいのだが、右京君の活躍と得意の弓の腕を存分に発揮した森脇さんの奮闘……さらには佐藤さんのリーダーシップによって、事なきを得たという。

 イビルディア(鹿)やイビルボアからは、食料になるドロップアイテム(肉……)も、それなりに得られたというから、完全に人助けのための活動にはならずに済んだし、ダンジョン内だけで戦闘経験を積むよりはこうした野外戦の機会も有った方が良いかもしれない。


 厄介な敵が多く活動している温泉地のダンジョン付近のモンスターを排除して回ったのは、兄と妻、それから沙奈良ちゃんの3人。

 沙奈良ちゃんがこちらに含まれているのは、今のところ女性でこうした活動に従事しているのが、沙奈良ちゃんの他には妻しか居ないからだが、何より沙奈良ちゃん自身の素質が頭一つ抜けているからでもあるのだという。

 女は度胸……などというつもりも無いが、オレの目から見ても、沙奈良ちゃんは明らかに右京君や他の男性陣と比べて戦闘に積極的だし、槍のセンスは当初のオレより確実に上。

 常に冷静沈着で、魔法を使うタイミングなども非常に上手い。

 前衛を務める兄の【短転移】があれば万が一の事態には陥りにくいし、薙刀の腕も一段と上がった妻が中衛に控えていれば、なおさら安全だ。

 避難経路に該当する部分に重なっているエリアはそこまで広いものでも無いし、兄の討ち漏らしを排除するだけなら、女傑2人には物足りないぐらいの仕事だっただろう。


 明日も念のため、継続して間引きを行うという話を聞いたところで、まずは兄が就寝し、妻も息子の寝ている部屋へと戻っていった。

 オレも短時間で入浴を済ませ、床につく。


 いつの間にか視覚も鋭敏になっていて、闇の中でも息子の寝顔が何となく見られるようになっていたのには驚いた。


 どれだけオレが人の領域からハミ出してしまったとしても護らなくてはならない……そう改めて誓う。


 ◆ ◆


 今朝も横着をしてしまった。


 人間、一度でも楽をしてしまうと駄目らしい。

 まぁ、ガソリンも今や貴重品だしな……などと自分で自分に言い訳しながらも、玄関で靴を履いた直後に【転移魔法】で、第6層のボス部屋まで一気に飛ぶ。

 発動までの時間も確実に短くなって来ているし、消費魔力も少なくなっているように思える。

 そろそろスキルレベルが上がるのかもしれない。

 案の定と言うべきか、ボス部屋に階層ボスの姿は見当たらなかった。

 まっすぐマチルダの暮らす部屋の前まで行きノックをする。


 しばらく待ってみたが反応が無い。


 ……まだ寝ているのか?

 いや、身体が鈍らないように、見回りも兼ねてダンジョンを走り回ることがあるとも言っていたし、たまたま間が悪かっただけかもしれない。


 頭ではそんな風に考えているにも関わらず、えも言われぬ焦燥感のようなものが、オレの中で渦巻き始めている。


 再びノック。

 今度は控え目なものでは無く、しっかりと音を立てて。


 やはり反応は無い。

 得体の知れない焦燥感は一層強くオレの中を暴れ始めている。

 ……と、酷く弱々しいものだが、オレを()()時の感覚が襲う。


 マチルダが呼んでいる。


 意識を集中し、この感覚がどこから来ているものかを探るが……ハッキリとはしない。

 ジャミングされているような……?


 少なくとも第5層方面ではなく、現在地より奥。

 第7層方面にマチルダが居るように思えた。


 第7層でモンスターの相手をしている時間も惜しい。

【転移魔法】で、一気に昨日の闘技場まで飛ぶ。


 幸いにして機械の女神が復活している様子は無く、マチルダの居る場所を通り過ぎてもいないようだった。


 観客席に唯一有った扉を開け、奥に進もうとしたところで思わぬアクシデントがオレを阻む。


 扉が開かない。

 鍵が掛かっているようだ。

 しかし、鍵穴らしきものが見当たらない。


 仕方なく、力任せに押したり引いたり、スライドさせようとしてみたりしたがビクともしない。


 ……やはり鍵が必要か。


 ヒントを求めて周囲を見回すと、ドアノブの側面に凹んでいる部分があることに気付いた。

 焦るのは仕方ない状況だが、冷静さまで失うのは良くないな。


 わざと音を立ててため息を吐き、自分自身の耳に聞かせてやると、ようやく僅かばかりの平常心が戻って来た。


 ドアノブの窪みの形には見覚えが有ったのだ。

 昨日、手に入れたばかりの金属板。

『盾』の金属板がピタリと()まる形状だった。


 ならば……と、反対側を見れば『剣』の金属板の形状と合致する窪みが見つかる。


『空間庫』から2枚の金属板を取り出し、それぞれ窪みに填めてやってからドアノブを捻ると、今度はすんなりと扉が開く。

 ……もしあの時、墓地エリアに潜んでいた悪魔を見落としでもしていたらと思うと、ゾッとしてしまった。



 そして無事に第8層へと足を踏み入れたオレは、待ち構えていたモンスターの群れを遮二無二排除していく。

 先ほどよりかなり弱々しくなった、マチルダの呼ぶ感覚を頼りに、その反応が有る方向へと脇目も振らず……。

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