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第160話

『スキル【魔法抵抗力強化】を自力習得しました』

『スキル【無音移動】を自力習得しました』

『スキル【状態異常耐性】がレベルアップしました』


 しっかり実体の有ったモンスターにも関わらず、オレに流入してくる力の量は天使やモーザ・ドゥーのそれと互するほどのものだった。

 魔法や状態異常を受け付けず、武器戦闘に持ち込むスタイルだったためか、得られたスキルもそれを裏付けるようなもの、そして……意外なことに【無音移動】なる隠密系スキルも持ち合わせていたらしい。

 観客席の歓声がうるさくて、そこまで気が回らなかったが、よくよく考えてみれば移動時に足音が一切していなかったようにも思える。

 あの見るからに重たそうな機械の身体を高速で動かしていたのだから、たとえ割れんばかりの歓声の中だとしても、少しは足音が聞こえても良さそうなものだったが、今にして思えば確かに全くといってよいほど、移動に際して物音を立てていなかった。


 まぁ……本来そんなことはどうでも良い。

 オレなりの現実逃避みたいなものだ。


 満員だった観客席にはただ独り……あの時の自称亜神の少年が座っている。

 こちらに近付いて来るでもなく、声を掛けて来るでもなく、何やら思案気な表情を浮かべていた。


 あちらから接触して来ないのであれば、こちらから行くしかない。

 その前に……機械の女神が遺した剣と、役目を終えたミスリルの鎗とを『空間庫』に収納し、宝箱を開ける。

 …………『盾』だろうか?

 またしても金属板が宝箱の中に入っていた。

 金属板をしまい、オリハルコンの槍を取り出し、少年の前に歩みよっていく。


『……久しいな、と言うほど日が空いておらぬか』


「あぁ、そうだな」


『驚いたぞ。まさか、この短期間で斯様(かよう)に力を付けるとはな。これほど早く、この時が来るとは思っておらなんだ。誇って良いぞ?』


「……それはどうも」


『む……何をムスっとしておるのだ? この身が素直に讃えておるというのに』


「そんなつもりはないんだけどな。どうしてここに?」


『あの邪神の眷属を模した人形を拵えてここに配置したのは、この身だ。対戦者が訪れたというのに観に来ぬわけにはいくまい』


「邪神の眷属……ね。あんな化け物が、そちらの世界に?」


『ふむ。あの人狼の小娘は込み入った事情までは知らぬ筈だが……。推測か?』


「あぁ」


『なるほどな。まぁ、そんなところだ。だが、あくまで近い将来の話であって、今はまだ侵食を赦してはおらぬよ』


「……時間の問題っていうところなんだろ?」


『ほぅ! そこまで察しがついているなら話が早いな。惜しむらくは、あれでまだ最下級の眷属を模した人形に過ぎぬことだが……』


「最下級……ね。ぞっとしない話だ。どうして無関係なオレ達を巻き込む?」


『無関係では無い。こちらで止まらねば、次は隣。そして隣とは此処のことだ。それにな……彼奴(きゃつ)らが行儀よく順番を守るとは限らぬ。なかなか撃ち破れぬ障壁に痺れを切らさぬとも限らないのだからな』


「そうなっても、そちらには関係無い話だろ?」


『……そうでは無い。そうでは無いのだ。此処が先に滅びれば、いよいよ打つ手が無くなる』


「どういう意味だ?」


『……それを答える権限は、この身には与えられていない』


「またそれかよ……分かった。とにかく強くなりゃ良いんだろ?」


『そうだな……今は、それが最善だ。怠るなよ? 真に困るのは、この身では無い。もし、お前に護るべき者が居るのなら、努々(ゆめゆめ)それを怠るな。また……波が渡る。選別の波が、な』


 な!?

 またスタンピードだと?


『まぁ、此度(こたび)は今日明日の話では無い。備えておけ、と言いたいだけだ。幾度か渡る波を全て乗り越えし時、その時にまた会おうぞ。生き抜けよ?』


「また、それか……言われなくても、そのつもりだ」


『つくづく、お前は面白い。それがゆえ見込まれておるのだろうな』


「願い下げ、と言いたいところだけど、そのおかげで生き抜けるなら歓迎すべきかもな」


『では、な。抗う者よ。我の役目は数多(あまた)ある。少し長居をし過ぎたようだ』



 直前まで会話していたのが嘘のように、何の前触れもなく忽然と消え失せた自称亜神の少年。

 超常の存在に相応しく、相変わらずこちらの都合や事情などへの配慮は見られないが、少なくとも純然たる悪意があるのでは無いらしいことだけは窺えた。


 ……カマを掛けすぎて、内容が曖昧な部分も有ったが、欲しい情報は得られたし、予想外の情報も洩らしてくれたのは有難い。


 無貌の観客達の正体は恐らく、少年と同様の亜神……または若干彼より下位の存在か、あるいは上位の存在。

 機械の女神は、彼らの敵対者を模したモノ。

 そして彼らの敵対者は、オレ達の住む世界をも滅ぼす可能性がある。

 何らかの理由で、彼らの世界に暮らす者達では、敵対者に対抗し得ない。

 その対抗し得る者を探すための、ダンジョン(試練の迷宮)であり、スタンピード(選別の波)であり、モンスター(判定者)……っていうところか。

 彼らの敵対者は邪神らしいが……オレに言わせれば、ダンジョン作ってモンスター撒き散らすヤツらも、立派な邪神だと思えるんだけどなぁ。


 少なくとも……そう遠くない未来に、またスタンピードが起こるという情報を得られたのだけは助かった。

 兄や妻に早く伝えなくてはいけない。

 急いで戻るべきところだが……どうも気になるのは『剣』と『盾』の金属板だ。

 何の意味も無く、このような物が手に入るとも思えなかった。


 まぁ……恐らくは、次の階層で使うのだろうが、機械の女神との戦いが思っていた以上に長時間に及んでしまったため、それを確かめている時間は無い。


 そう結論付けたオレは【転移魔法】を発動し、

 一気に自宅の玄関に飛んだ。

 ちなみに、ここに来た時も同様に【転移魔法】だった。


 横着?

 ……そうかもしれないな。

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