第131話
ちなみにフォートレスロブスターのドロップアイテムだが、殻付きの焼きエビだった。
その名も『要塞エビの甲羅焼き』……食べると生命力、腕力がボーナス成長……およそ2割も向上するらしい。
シェアして食べた場合、効果も分散するらしいが、これは独り占めしたら家庭内に嵐が巻き起こりそうだ。
カニは残念ながら魔石。
期待していただけに残念だ。
閑話休題……
再び訪れた第6層には異変が起きていた。
だだっ広い雑な造りだったものが、見るからに丁寧なものに造り直されている。
パッと見、いきなり古びた洋館の中に迷い込んでしまったような錯覚に陥りそうになるほどだ。
通路も狭くなったし見るからに分岐も多そうで、これぞまさに迷宮といったところ。
以前は真新しい人工建築物のようだったが、巨人でも暮らしているのか……といった印象を受けた前回とは全く違うコンセプトに思える。
……さすがに前のはアレだったからなぁ。
こうなると出現モンスターの構成も変わっていそうだし、第6層のモンスターはスタンピードに参加していなかったものがほとんどだ。
つまりはスタンピード時に消費されなかったモノ(魔素?)が滞留している可能性は高く、それなりの数の敵が居そうではある。
初めて来たつもりで慎重に探索を進めていく必要が有るだろう。
またマッピングをやり直す必要が有るが、これは仕方ない。
ボス部屋の位置が変わっている可能性も考慮して、先入観は全て捨てて掛かろう。
まず、問題になるのが扉の多さだ。
目に見える範囲だけでも7つの扉がある。
こうも扉が多いと、そもそもの深部に通じる道筋というものが見えて来ない。
面倒でも扉の先が通路なのか、それとも小部屋なのかを丹念にチェックしていく必要がある。
まず左右対称に有る扉の右から開けることにした。
さしたる理由は無い。
どうせ手当たり次第なのだ。
警戒しながらもドアノブに手を掛けるが、特に【危機察知】も【罠解除】も反応しない。
ドアを開けて中を確認すると、古ぼけた置時計が見えた。
逆に言えば他には何も見当たらない。
アレが時計に擬態しているモンスターの可能性はあるが、特に気にせず次の扉を調べることにする。
ミラークラブなんかが居たせいで、フォートレスロブスター戦に余計な時間を取られたうえ、第6層のこの変わり様だ。
不必要な戦闘ならば避けたい。
左手の部屋も同じ造り。
こちらにはポツンと小さな宝箱が置かれている。
ミミックを警戒したが、特にスキルの反応は無かった。
中にはビー玉サイズの宝石。
念のため【鑑定】したが、単なるルビーの様だ。
世間がこうなる前なら、かなりの価値が有ったのだろうが、今となっては単に綺麗な石といった価値しかない。
もちろん、それでも欲しがる人はいるだろうが……。
◆
淡々と探索を進めていたオレだが、なんだかここは妙だ。
ダンジョン産らしくない宝石や金貨のような宝物ばかりが置かれているうえ、かなり奥まで来ているが未だにモンスターのモの字も無い。
最初にこちらを油断させておいて、いきなりの襲撃……などということも考えていたのだが、肩透かしも良いところだ。
例えば……机の上に金貨と真珠のネックレスが置かれていた場面など、前回の経験からコインイミテーターやジュエルイミテーターが擬態していることを疑ったが、全く何の変哲も無い本物だったし、扉も宝箱も彫像も西洋鎧もサーベルもカーペットも、もう何もかもが怪しいのに、どれ1つとしてオレに襲い掛かって来ない。
それでもダンジョンか、と言いたいぐらいだ。
まぁ、途中から何となく意図は分かっていた。
今回はオレを素通りさせたいのだろう。
次回からは、本物とモンスターが入り交じったような厄介な階層になるのだと思おう。
明らかに他とは違う意匠の扉が目の前に有るのだ。
もう、そうに違いない。
ボス部屋内まで何も無いことは無いだろうが……。
意を決して扉を開けると、中には階層ボスらしきワーウルフが待ち構えていた。
否が応にも、あの陽気な人狼のことが頭をよぎるが、今回のワーウルフは全く別物のようだ。
有無を言わさず猛然と襲い掛かって来たし、何より……遅い。
拙い。
そして……弱い。
あっという間に白い光に包まれて消えていくワーウルフ。
後には宝箱。
オレに流れ込んで来る力は、彼女の時とは比べ物にすらならないぐらい微弱だ。
宝箱の中身は見覚えのある短杖……翠玉の魔杖だった。
周りを見回すが特に変化は無い。
どうやら、先ほどのワーウルフが階層ボスで間違い無さそうだ。
ここまで来れば、得体の知れない衝動の正体が何か分かるかと思ったが、結局は何も分からなかった。
思わず、ため息が出てしまう。
答えを求めて先に進むには、既に時間が掛かり過ぎていた。
まぁ……せっかくここまで来たのだし、第7層を覗いてみるぐらいは良いか。
先に進めという衝動は、抗い難いものになっている。
奥に通じる扉に目を向けた……その時だった。
彼女が……あの時と全く同じ様子で、扉を開けてこちらを見て微笑んだのは。
そして扉を後ろ手に閉め、こちらにゆっくりと歩いてくるではないか……。
顔は微笑みを湛えたまま、だ。
彼女の顔を見た途端……スッと憑き物が落ちたかのように、オレの中の得体の知れない衝動は治まっていた。
次に訪れたのは疑問と困惑。
オレを呼んだのは彼女で間違いない。
しかし彼女を殺したのは間違いなくオレだ。
何故、生きている?
何故、オレを呼んだ?
何故……オレは彼女に微笑み返してしまっているのだろう?




