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第130話

 さすがに緊張しながらボス部屋を開けたオレを待っていたのは巨大なフォートレスロブスターが11体……では無かった。


 いや、居るには居るが要塞の如き堅牢な巨体を誇るエビは僅かに1体……代わりにレクレスシュリンプ(無謀エビ)を一回り大きくしたようなカニが一緒に居たのだ。


 長年、プロの探索者達の持ち帰るモンスターの画像や文字情報をチェックしてきたオレだが、それらの中にこのカニの情報は含まれていなかった。

 カニ系のモンスターと言えば……

 単なる巨大なカニ……ジャイアントクラブ。

 シオマネキを大きく、そして俊敏にしたような……キラーフィドラークラブ。

 日本ならガザミと名が付きそうな、ゴツゴツした見た目でトゲだらけの……グラディエータースイミングクラブ(水泳教室では無くワタリガニという意味……)などが有名なところで、それらの上位種なら甲殻の硬さやハサミの強さが上がる分、サイズも大きくなっていく傾向が有る。

 そうしたボス級のカニも多く知っているのだが、目の前のカニはそのどれとも違う。

 まずサイズが一般的なジャイアントクラブと同程度で、ハサミの大きさは左右均一。

 見た目もゴツゴツどころかスベスベしているし、トゲすらない。

 薄い緑色なのだが、まるで鏡面加工でも施したかのようにピカピカ光っている。

 遠目に様子を伺うオレの姿が映っている程だ。

 ……ミラークラブとでも言うのかね?

 自然界に存在するカニだと……スベスベマンジュウガニっていう毒持ちのカニに、どことなく似たようなフォルムだ。

 いわゆる取り巻きモンスターなのだろうが、正体不明の敵というのは始末が悪い。

 ここは慎重に戦うべきだろう。


 まず、対海棲モンスター戦で今までも実績を残して来た旋風の魔法……ワールウインドで謎のカニもろとも、フォートレスロブスターに貼り付いたバレットバーナクル(弾丸フジツボ)を狙う。

 すると……見た目からは想像も出来ないほどの超高速で動いたカニが、フォートレスロブスターを庇うかのように立ち塞がり、自ら魔法を受けた。

 謎のカニに当たったかに見えたワールウインドは、まるで光が鏡に反射するかのように進路を真逆に変えてしまう。

 つまり……ワールウインドを放ったオレに向けて、旋風が襲い掛かって来たのだ。

 しかも速度は倍加している。

 慌てたオレは、なりふり構わず魔法を回避したが、あたかも突風のように吹き荒すさぶワールウインドを完全には避け切れず、あちこちに切り傷を受けてしまった。


 危なかった。

 無警戒にウインドライトエッジ……風の光輪の魔法を撃ってでもいたら、今頃オレは真っ二つになっていてもおかしくはなかっただろう。

 大方、対魔法に特化した新種のモンスターというところなのだろうが、これは非常に厄介だ。

 改めて気を引き締めて掛かる必要がある。

 魔法がミラークラブに反射されるとすれば、あのフォートレスロブスターを魔法無しで攻略しなくてはならない。

 それは、あの兄ですら成し得なかったことだ。

 そう考えると途端に本格的な無理ゲーじみてきた気がする。


 まず……射出系の魔法は諦めて、身体強化系の魔法を3種類まとめて掛ける。

 その間にもバレットバーナクルがビュンビュンと風切り音を立てて飛んでくるが、間合いは充分に開いているため、特に苦労せず回避しながら魔法を掛け終える。

 少しだけ危惧していたミラークラブは、特に反応を見せなかった。

 自分自身に掛ける魔法は大丈夫らしい。

 今回はいつものフィジカルエンチャント(風)に加えて、火と闇の属性の同種の魔法も併用した。

 フィジカルエンチャント(風)が敏捷を主に強化する魔法なのに対して、火は腕力……闇は魔法耐性がメインの強化対象であるらしい。

 重複可能かどうかは人狼戦の時に途中で気付いて風と闇で重ね掛けしたので、一応は実験済みだ。

 更に槍にはエンチャントウェポン(風)のみ掛ける。

 こちらは付与した属性以外の同様の魔法を重ねると、上書きされてしまうということを既に検証してあった。

 この間もバレットバーナクルは飛来し続けているがオレに躱された後、地面や壁から再び跳躍する体勢を整える前に、片手間で処理していく。


 問題のミラークラブなのだが、さほど俊敏とも思えないのに、あと一息というところで攻撃が当たらない。

 魔法を跳ね返すのが本領で、自ら攻撃をしてくるわけでもない分、瞬発力に特化しているためなのだろう。

 鎗も鉄球も、カニに当たる寸前で虚しく空を切る。

 ミラークラブを先に仕留めてから、フォートレスロブスターを魔法で打倒したいところだったが、ここは方針を変えざるを得ない。


 幸い、直接的な攻撃魔法以外は妨害する姿勢を見せないため、やりようはまだ有る。

 硬すぎて攻略を諦めたことのある兄も、今ならばフォートレスロブスターを一蹴出来るだろう。

 その時と今との違いは何なのかと言えば、結局は付与魔法の有無だ。

 単なる物理攻撃にはドラゴン並みの強さを見せるフォートレスロブスターだが、魔法が付与された武器にはとことん弱い。

 あとはバレットバーナクルを回避し続けられる敏捷性とスタミナが有れば、そこまで苦労する相手では無いのも事実。

 鋭利過ぎる程に鋭利なハサミも、バレットバーナクルの速さに対応が出来るならば、まず当たらないし、最も苦労する点は体躯の巨大さと、それに正比例している耐久力ということになるだろう。


 ◆


 魔法メインで倒していた時と比べると優に三倍以上の時間を費やして、ようやくフォートレスロブスターを沈めるのに成功した。

 庇うべきフォートレスロブスターが居なくなったミラークラブだが、相変わらずの瞬発力を見せ、なかなか倒せない。

 ふと思い付いたことを試すため、間近に居たバレットバーナクルに向けて点火の魔法を放つ。

 それに反応して瞬間移動じみた超速度で魔法に立ち塞がったミラークラブだったが、今回のこれは誘いだ。

 そこに来るということが分かったうえで、跳ね返された点火の魔法にも構わず鎗を突き出せば、いくら追いかけても捕まらないほど速いミラークラブといえども、鎗を合わせることが可能だったのだ。

 点火は非常に射程の短い魔法で、威力もライター程度しかない。

 さすがにフォートレスロブスターに点火の魔法が当たる距離まで近付きつつ、魔法に意識を割きながらバレットバーナクルを全て躱わしきるのは不可能に近いが、単体のバレットバーナクルなら話は別だ。

 オレにダシに使われたバレットバーナクルは猛然と飛来したが、そこには既に旋風が待ち構えていた。

 ミラークラブさえ居なければ、バレットバーナクルは最弱の魔法で簡単に掃討できる、カモでしかなかった。


 こうして厄介な新種のモンスターの登場に、想定していた以上の時間を使ってしまったが、ようやくオレは今日の本命……第6層に辿り着くことが出来たのだった。

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