第1話
なっ!?
玄関を開けてすぐ、オレの視界に飛び込んで来たのは緑。
それも酷く薄汚れた深緑。
正確には緑の肌をした醜悪な小人……いわゆるゴブリンだ。
オレも大いに面食らったが、あちらも同様に驚いた様子で、グゲグゲと意味の分からない言葉(?)を発しつつ眼を剥いて固まっている。
お互いに驚愕の表情を浮かべ、咄嗟に身動きが取れずに居たが、それでも先に我に返ったのは幸運にもオレの方だった。
とにもかくにも考えるよりも先に前蹴り。汚いし臭いしで、恐らく無意識に距離を離したかったんだろうオレは、ゴブリンの鳩尾辺りにキックをお見舞いし、狙い通りに彼我の距離を稼いでやった。
たたらを踏んでゴブリンが後ろに倒れそうになりながらも、こらえようとして頑張っている間に、オレは玄関の横に置いて有った雪かき用のスコップを構え、ゴブリンを牽制する。
しばらくにらみ合いが続いたが、冷静になればなるほど、意味が分からない。
ゴブリンを見たことが無いからじゃないかって?
いやいや、今どきゴブリン見たことない大人も珍しいよ。
何せ、世界中にダンジョンが発生してから、もう既に20年が経っているんだ。
テレビの映像や、ネットの動画は元より、ダンジョン探索が本職じゃなくとも、週末やなんかにダンジョンに潜った経験の有るヤツなら、それこそ掃いて捨てるほど居るご時世だ。
オレも学生の時には随分と潜っていたし、今でも小遣い稼ぎ程度には、ダンジョンを利用している。
じゃあ何故、オレが今さらゴブリン風情に驚いているか……それは……ゴブリンがダンジョンの外に居るから、そこに尽きる。
ダンジョンの魔物……いわゆるモンスターには絶対の法則として、ダンジョンの外に出ないという特性が有り、それは世間でも既に常識になっている。
第一、ウチのすぐ近所にもダンジョンが有るので、もしモンスターが気軽にダンジョンから外出するようなら、そもそもこのあたりには住んでいない。
しかし現実に目の前にゴブリンが居る。
一度こうやって同等以上の態勢で向き合ってしまえば、小学校中学年程度の身長と膂力しか持たないゴブリン相手なら、今のオレ(スコップ装備、普段着姿)でも十分に渡り合える。
そういうわけで既に脅威にもならないのだが、なんでここに居るのかという疑問ばかりが、グルグルと頭の中を支配して、具体的な行動(ゴブリンを倒す、いったん逃走する、助けを呼ぶ、家族に注意促すなど……)を出来ずにいた。
そう……まさにフリーズ中。