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理想の世界の描き方  作者: jnjn
11/12

11話 これが書きたかっただけだろシリーズ

季節は秋へと移り変わっていく時期となり、日が傾くのが少しだけ早くなってきた10月中旬。

夜になると少し肌寒いが、まだ夕方だから問題ない。

今は学校が終わった放課後。

俺ーーー多治見 淳司(たじみ じゅんじ)は世界遺産にも登録されているドーム型の建物の前まで来ていた。

理由は簡単だ。

今日の昼頃に連絡が来たのだ。


『学校終わったらドームの前で待ってて』


という訳で現在俺はそのドームの前で連絡主である角田 翼(つのだ つばさ)を待っている。

そんな俺は今、どうにも落ち着かない気分でいた。

翼が来て欲しいような、来て欲しくないような、そんな正反対な気持ちが共存している。

だって、今日はコンクールの結果がわかる日だから。

2ヶ月前、2人で夏休みを使って完成させた作品の結果が。

その結果を聞くために、そして俺たちの関係を決定付けるために翼を待っている。

ここに来てどのくらい待っただろうか。

多分15分くらいだったのだろうけど1時間にも2時間にも感じられた。

帰ったらさすがに怒られるかなと思っていると、彼女が姿を現した。

俺と目が合うと「あっ」と小さく口を開き、小走りで近づいてきた。

「よう、おっそいな」

目の前まで来た翼にそう声をかける。

「そんなに待たせてないでしょ」

「長く感じたんだよ」

「それあたしのせいじゃない」

うん、俺が勝手に落ち着かない気分になっているだけなので、翼には何の落ち度もない、はず。

したがってこれに関しては俺のせいである。異論はない。

しかし、翼も翼で表情はどこかこわばっている。

だから、俺はこいつも緊張しているんだなとすぐにわかった。

翼は無言で俺の隣に立った。

そして、お互いにしばらく何もせず、何も言うこともなくその状態でいた。

ドーム型の建物が夕陽に照らされている。

周辺では今日も外国人観光客や大学生のグループなどで賑わい、ドームの写真を撮ったり、記念碑に書かれている文に目を通したりしている。

その様子を俺たち2人はしばらくぼんやりと眺めていた。

どのくらいそうしていただろうか。

今度は具体的な時間はよくわからない。

翼が先に口を開いた。

「……最優秀賞」

「あん?」

「あたしの……ううん、あたしたちの作品、最優秀賞だった」

翼の口からコンクールの結果が告げられた。

「……そっか」

嬉しい。すごく嬉しいのだけど…

「良かったな」

「……なによ、それだけ?」

しばらく間を置いて翼は少しムッとした表情で聞いてきた。

「褒めたいのは山々なんだが言葉が出てこないんだよ」

「はぁ? 何それ…」

翼は怒るというよりは呆れたような感じになった。

嘘は言っていない、本当に言葉が出てこないんだ…

言いたいことはたくさんある。

伝えたいことだって…

だけど、何から言えばいいのかがわからない。

「別に褒めてほしいんじゃないわよ」

そんな俺に、翼は構わず続ける。

「こういう時は真っ先に言うことがあるでしょ?」

そう言って優しく笑ってみせた。

「……そうだったな、ごめん」

あぁ、そういやそうだ。

こんな時、言わなきゃいけない、伝えなきゃいけないことなんて1つしかないことに気付かされた。

そして俺は、はっきりとその言葉を口にした。


「おめでとう、翼」


「うん、ありがとう、ジュン」


俺の言葉を聞いて満足したのか。

彼女は、嬉しそうに微笑んだ。



************************


「ちょ、ちょっとジュン…」

「ここなら比較的人通りも少ないだろ」

翼の手を取り少し早歩きで歩くこと数十秒。

俺たちはドームの裏側の方にある 慰霊塔(いれいとう)の近くにいた。

遡ること数分前……


「ということはさ」

「うん」

「実現するんだね、あたしたちの理想の世界」

「そうだな」

「将来、あたしたちが描いた景色がさ、目の前に広がってるんだよね」

1つ1つ確かめるように、そして嬉々とした様子で翼は言う。

「だったらさ……」

そして、お互いに最も気にしていることに触れる。

「その世界の中に、あんたと一緒にいられるってこと、よね?」

「………ああ」

俺の返事を聞いてほんの一瞬だけ安堵の表情を浮かべた。

しかし、すぐに意を決したような表情へと変わった。

「ジュン、じゃあ改めて言うね」

いや、ちょっと待て。これはマズい。

今ここで"それ"を始めてしまうのはよろしくない。

しかし、翼が口を閉ざす気配はない。

「あたし、あなたのことーーー」

そこまで言いかけたところで俺は翼の手を取りその場から歩き始めた。

「え、なに!?」

「ちょっとこっち来い」

後ろから困惑を含んだ翼の声が聞こえたが、それを無視して俺は彼女を連れてドームの裏にある 慰霊塔(いれいとう)の側まで向かった。


「どうしたのいきなり」

強制的に話を止められた翼が不満げな顔で睨んでくる。

「ごめん。でもな、勝手に話を進めんなよな」

「え?」

「俺にだって言いたいことの1つや2つあるんだからな」

「もしかして、ダメ、なの?」

そう言って翼はとてもとても不安そうな顔になった。

ダメだこいつ。全然わかってない。

「なぁ翼、気付いてたか?」

「何を…?」

「俺、お前のこと好きとは言ってないってこと」

俺がどれだけ今日のために心の準備をしてきたのか。

「じゃあ、やっぱり……」

あ、翼が泣きそうな顔になってしまった。

ごめん、今のは言い方が悪かった。

でも、やっぱりこいつは全然わかってない。

「だって、今日まで言うのを取っておくつもりだったから」

「あっ……」

俺が、どれだけ……

「お前のこと好きなんだってことを」

「!!」

そして、俺は彼女の目を見てはっきりと口にする。


「好きだよ、翼」


翼を立ち直らせるために自分で絵を描いた時、コンクールの作品を手伝っている時。

俺は確かに翼を本当に心の底から助けたいと思った。

だって、翼は大切な"友達だった"から。

彼女のために絵を描いててそれに気付かされた。

中学の時から何かと話すことも多かったし、絵を描いてお互いの絵をどうこう言い合うこともあった。

まぁ、当たりが強かったりとかはあったけど……それでも友達と呼んでも変な関係ではなかったと思う。

だから、自分の絵を描いてる時も、作品作りをサポートした時も真剣になれた。

コンクールの賞が取れた先に何があるのかもわかっていたつもりだ。

でも、それでも俺は、翼を"女子"として見れるのかどうか確証が持てずにいた。

部長のアドバイス通りの行動とはいえ、自分の気持ちのありかもわからないのに賞を取らそうと真剣になるなんて、我ながら最高にヘタレな最低主人公君をしていると思う。

でも、この2ヶ月間で……いや、本当はコンクールの作品作りをしている時から気付いていた。

さっきみたいに嬉しそうな笑顔を浮かべたり。

恥ずかしそうに顔を赤らめたり。

不安そうな顔を浮かべたり……

気が強い翼が、今まで俺に見せることがなかったそういった1つ1つの仕草や表情に、いちいちドキドキさせられる自分がいることに。

その時に初めて、俺は彼女に対する好意を自覚した。

好きになってもいいんじゃないかと思えた。

もっと俺にだけしか見せない表情を見せてほしいと思った。


「だから、これからも一緒にいてほしい……一番大切な人として」


俺が望んでいることを、はっきりと伝えた。

それを聞いた翼は、しばはく目を見開いたまま微動だにしなかった。

が、やがて静かに口を開いた。

「……バカ」

「へ?」

ん?なんだか雲行きが怪しいぞ?っと思った刹那。

「この馬鹿淳司ィ!!!!!」

「〜〜〜〜〜〜!?!?!?」

突然大声で怒鳴られた。

きっとドームの前だったら大勢の人に奇異の目で見られていたことだろう。痴話喧嘩かなんかだと思われて。

場所変えて正解だったわ。

「あたし言ったよね? コンクールで賞取れたらあんたに告白するって! なのになんであんたが先に言っちゃうわけ???」

「えぇ? そこ重要なのか?」

「当たり前じゃない! どうしていつもいつもこう斜め上の行動を取るのよあんたは! しかもよりによってこんな時に!」

ほんと信じられないと翼は頭から湯気が出そうな勢いであった。目の前にカップ麺があったらすぐに湯が注げそうだ。

どうやら俺は失敗したようだ……

女心ってやつを理解できるのはまだまだ先のようだった。

結局俺は最後まで鈍感最低主人公君なのかと思っていたところ。

「でも……」

翼はいつの間にかクールダウンしており改めて口を開いた。

「はい……?」

怒られたため肩を竦ませながら俺は聞く。

「そんなあんたが好きなんだから、あたしも同じくらいバカよね」

翼はどこか諦めたような、自嘲気味にそう言った。

「ねぇ、ジュン」

「なんだよ?」

「中学の時、ジュンってあたしの絵描いてくれたよね? あれ覚えてる?」

「覚えてるような覚えてないような」

「そこは嘘でも覚えてるって言いなさいよ」

あの頃は人物画描くのにハマってて、モデルを友人とかに頼んでよく描いてたんだよなそういえば。

その中に翼も入っていたということか。

「それがさ、すっごく上手だったからさ……それからなんか、あんたのこと意識しちゃって…」

「なんか不純な動機だな」

「うるさい」

翼がジロリと睨んでくる。

何がきっかけだったのかは気になっていたところだが、まさかそんなことだっただなんて。

思えば翼の俺に対する当たりが強くなったのもその人物画描いてる時期だったな。

「それから美術部でも一緒に作業できるようにしてみたりとかしたら、あたしの絵にも良い意見とかくれるし」

なにかと翼と作業することが多かったのも彼女自身の行動のせいだったのか。

「気づいたらあんたが良いなって思うようになってた」

「ということはもう2、3年は経ってるということか?」

「そ、そういうこと」

「そっか…」

翼と俺の答え合わせのようなやり取りはこれで終わった。

「てか、あたしまだちゃんと言ってない」

そう言って翼は改めて俺に向き直った。


「ジュン...いえ、淳司君、あなたが好きです。

だから、これからも、一緒にいさせてください。

あたしの、一番大切な人として」


彼女のその言葉を聞いた瞬間、愛しさと同時に申し訳なさが込み上げてくる。

そして、気づけば俺は、目の前の彼女を抱きしめていた。

「ジュン…?」

翼が困惑を含めた声で聞いてくる。

あぁ、こうなるだろうとは思った。

やっぱり 慰霊塔(いれいとう)の側まで来て正解だったな。

「ごめんな……俺が鈍いばかりに、ずっと辛い思いをさせて…」

「謝らないで。あたし、今すっごい幸せだから」

俺と密着している彼女は優しい声色で語りかけてくる。

「好きな人と、こうして一緒になれることがこんなにも幸せだなんて思わなかったなぁ」

「翼っ…!」

俺は彼女を抱きしめる手をさらに強くした。

こんなことを言われると愛しくてたまらなくなるに決まってる。

「痛いわよ」

「あ、ごめん.....」

どうやら強く抱きしめすぎたようだ。

俺は静かに彼女から少し離れた。

「あー、でもそうね。長い間気づいてくれなかったからちょっとした罰くらいは受けてもらおうかしら」

「なんなりとお申し付けください翼様」

ずっと辛い思いをさせてしまったのだ。

少しくらいの辱めなら受けてやるつもりだったのだが.....

「手、繋ご?」

翼から提案されたのは罰とは程遠いものであった。

「罰じゃなくてご褒美だよな?」

「何よ? 嫌なの?」

「いいえ! 喜んで受けますその罰!」

そう言うと、彼女は自分の手を俺の手に絡ませてきた。

指を絡ませ合っている所謂(いわゆる)恋人繋ぎというやつ。

「積極的だな」

「せっかく恋人になったんだし、多少はね?」

「まぁいいけどさ」

「じゃあ行くわよ」

「どこに?」

「平和公園!」

翼が指したのはドームから川を挟んで向かい側にある大きな公園だった。

毎年夏になると戦没者を追悼する平和記念式典が行われる公園。

草木が何も生えてない、モニュメントや戦争資料館などしかない寂しい公園だ。

「何もないだろあの公園」

「いいの。ただ大切な人と歩くだけで幸せなんだから」

角田 翼という女はズルいやつだと俺は思った。

だって、そう言われると付き合うしかないじゃないか。

「じゃあ行くぞ。これからよろしくな翼ちゃん!」

そう言って俺は隣にいる彼女の手を握る力を少しだけ強めた。

「こちらこそよろしくね、淳司君!」

お互いに親しみを込めて「ちゃん」「君」をつけて呼び合った。

それが恥ずかしかったのか、翼は顔を赤らめつつもくすぐったそうにはにかんだ。

「あ、でもたまにはいつもの気の強い姿を見せてくれよな? 少しは刺激が必要だから」

「バカ言ってると別れるわよ?」

「冗談だって」

俺も翼をちゃん付けで呼んだのなんて初めてだから、照れ隠しでそんなことを言ってしまった。

「じゃあ、行くぞ」

「うん」

俺は愛しい彼女と手を繋いだまま、これまで踏んだことのない1歩を平和公園へ向けて踏み出して行った。


唐島には相変わらず眩しい夕陽が差している。

だけどそれは、これから新しい1歩を踏み出す俺たちを、祝福してくれているかのようだった。

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