異世界キャンセラー ~悉く僕の転生を邪魔する幼馴染み~
「―――今だ! 異世界ダイブ!!」
僕はタイミングを見計らい、国道を走る大型トレーラーに向かって縁石から思い切りダイブした!
「待ちなさい!!」
──ガッ!!
「うげっ!!」
襟を捕まれ衝突寸前の所で僕は歩道へと引き寄せられた。軽々と僕を引き寄せたのは、生まれた時からの腐れ縁である幼馴染みの美帆であった。
「何すんだよ! もう少しで【異世界チーレムで性病無双】出来る所だったのに!!」
「ダメよ……今死んでも貴方が望む異世界に行ける確率は1/100000000000000よ?」
美帆は左手を腰に手を当て、右手の人差し指を立てて僕にお小言を放ち始めた。
「そもそもが異世界に行ける確率が低すぎるのよ? その中から貴方の望む世界へ行こうとするならば、それなりの乱数調整が必要じゃなくて?」
「た、確かに……闇雲に死んで行ける訳ではないかもしれないけど…………」
「因みに今そこのドブに頭を突っ込んで溺死すると1/100の確率で【そこそこ可愛いメイドさんは僕の肉奴隷。でも男の娘なんだよなぁ……】に行けるわよ?」
「遠慮しときます……」
僕は虚しさを抑えトボトボと家に帰った。
──ガチャ……
「ただいま…………って何で美帆までついてくるの?」
「だってアンタ目を離すと直ぐに死のうとするじゃない?」
そりゃあ、僕だって出来れば頑張ってココで生きていたいけど……就活は100社落ちたしバイトも全部落ち……どこでも採用されない僕って生きるなって言われてるのと同じじゃない?
「今日はもう死なないよ……」
「そう……なら帰るわね」
美帆は玄関を静かに閉め、歩いていった…………。美帆が去るのを見届けた僕は風呂場に湯船を溜め……ドライヤーを準備した。
「やっぱり死んでやる!!」
湯船に飛び込みコンセントが差さったドライヤーを湯船に落とす……が、ドライヤーはポチャンと音を立てるだけで感電しなかった。
「ふぅ……危なかったわね。今死んでたら【奴隷転生 ~ドMに目覚めた僕の快楽生活~】に24%の確率で転生してたわよ!」
帰ったはずの美帆が外したドライヤーのコンセントを握り締め、ケラケラと笑った。
「……どうして僕を死なせてくれないんだよ」
「アンタ……ココで何がしたいわけ?」
「普通に働いて……普通に結婚したい」
「チーレム無双が普通なの?」
「…………ごめん。やっぱり女の子にモテたい」
「正直で宜しい」
「でもココじゃあ僕……!!」
「そうね。今の世の中は一人の人に求められるスキルがハンパなくてヤバいわよね。コンビニの店員とか覚えること多過ぎよ。それで時給800円とか終わってるわ」
「…………」
「アンタ危険物乙四類持ってるのに、車の扱いがヤバすぎてガソリンスタンドのバイトも落ちたんでしょ?」
「……うん」
「ネットカフェのバイトも実家の農家の手伝いがあるから土日出勤は難しいって言ったら即落ちしたんでしょ?」
「……うん」
「チラシ挟む内職も手汗がヤバすぎてチラシが汗塗れになってクビになったんでしょ?」
「…………」
「だからアンタに今一番確率が高い物件を用意したわ……」
「?」
「一つ。今日の夜8時ジャストにウチの前で私に告白しなさい。そうしたら【何か知らないけど厨二病全開の可愛い幼馴染みの家で住み込みの仕事にありつけました。 ~ダメダメな僕の就職物語~】に100%の確率で転生出来るわよ」
「……ぷっ」
「どちらかと言うと転生というか、やり直しかしら?」
「ぷぷぷ……ハハハハ!」
「……あんまり笑わないでよ。コッチが恥ずかしいわ」
「ゴメンゴメン。でも美帆は僕の告白を断るんだろ?」
「そうね。今のアンタはお断りよ。8時までに頑張って覚悟を決めなさい」
そう言い残すと、今度こそ美帆は僕の家から出ていった。僕は濡れた体を拭き、8時に美帆の家の前に行くことを決めた―――
読んで頂きましてありがとうございました!!