なぜか今日は。
黒い自転車が風を切る。
寡黙な運転手はずっと、空を眺めている。
鼻歌が空に溶ける。
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「ひどい損傷ですね。」
「こりゃ廃車だなぁ。」
「川から数メートル、濡れた足跡があります。」
「ほう...北、か...。」
「何かあるんですか?」
「海だ。」
「それは...知ってますけど。」
「もっと言うと港だな。何かしらの取引へ向かった可能性がある。」
「なるほど、これ以上追えば敵は1人ではなくなるんですね...」
「なんだルーキー?ビビってんのか?」
「まさかそんな。こちらは応援も含め、かなりの数の警察が動いています。どう考えてもこちらに分があります。」
「相手が人間なら...な...」
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港の倉庫に男が二人。
「トオル、看取ってやれたのか?」
「あぁ。こいつも受け取ってきた。」
「感傷に浸るのもほどほどに...ってか。」
メッセンジャーバッグからSDカードを取り出し、ノートパソコンに挿入する。
続いてUSBデバイスを繋ぎ、二人の網膜をスキャンした。
「さぁこれからの計画はと。特に変更はないようだな。」
「いや、一部ある。ここまで警察を引き付けてからの出発になった。」
「おいおいここで派手にやり合うってのか。」
「やり合うのは俺だ。お前は出発時間を少し遅らせるだけで構わない。」
「お前はどうするんだ?」
「このゴムロープでぶら下がっていく。」
「相変わらず無茶すんなぁ...」
バッグの中身を長机の上に広げていく。
マグナムが2丁、銃弾、錠剤、GPS、通信機、そして刃物が数本。
「こっからのドンパチにも装備は変更なしか。」
「あぁ。お前の用意は?」
「すべて予定通りだ。」
アタッシュケースを開くとそこにはマウスピースと関節サポーター。
「3Dプリンターの設定に手間取っちまってギリギリになっちまったよ。」
「あぁ、上出来だ。メインディッシュも間に合ったようだな。」
「どうだ、俺だってこんなでけぇもん作るの初めてだからよ。なんかもう感無量っつーか...」
「よくやるよなぁ。」
「どの口が言ってんだ。」
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「港の倉庫、全て契約者の照会が済みました。」
「目星はついたか?」
「すべて貿易、輸入関係の企業ではありましたが既に倒産して放置されていた物が3件。」
「こんなところでも不景気に邪魔されんのか...」
「3チームに分かれますか?」
「いや、割ける人員も限られている。1/3で衝突しては最悪の事態も考えられる。全人員で順番にだ。」
「了解しました。」
日が傾き始めた。
なぜか今日は、熱さも寒さも感じない。