港へ
酷い頭痛だった。
昨晩、よっぽど歯を食いしばったらしい。
尻のポケットからひしゃげたアークロイヤルを取り出し火を点ける。
バニラの香りと砂のような味が広がった。
少し冷静を取り戻し、改めて計画を思い出す。
第一目標まで23km
濡れた靴で歩くには少し遠すぎる。
マンションの駐輪所から無難な自転車を選び、後輪の鍵をリボルバーのヒールで一撃。
3時間ほど生身、人力で移動することになる。
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「全く、粗末なもんだな。」
「何を呑気に...警官が2人死んでパトカー奪われてるんですよ?」
「しかし噛み潰したカプセルもシャツのボタンも置き去りだ。それも奴が死んだ病院の目の前に。」
「『逃げも隠れもする気はない』ってとこですかね...」
「かもしれんな...」
「おい、パトカーが三木川の底から見つかったそうだ。」
「川...協力者がいない限りそこからそうは離れていないはずですね。」
「急ぐぞ。」
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北へ向かって坂を下り1時間17分、住宅街に入った。
指示された中継地点である空き家を見つけた。
自転車を塀と家の間に突っ込み裏手に回り
台所の窓は開いているのでそこから中に入る。
二階の和室の中央に緑色のコンテナが置かれていた。
指紋認証で開錠し蓋を開く。
名刺サイズのポチ袋に詰められた錠剤と銃弾、
そして500mlの燃料用アルコールと着替え一式が入っていた。
「少し心もとないが...助力があるだけ有難いか。」
黒いカーゴパンツに無地の白いTシャツ、Gジャンを羽織り黒いニット帽をかぶった。
メッセンジャーバッグを肩にかけ、自分の服や靴はコンテナに詰めて燃料用アルコールをかける。
火を点けてコンテナの蓋を閉じるとファンが回り始め、中身をすべて灰にした。
「ッたく...どこに金かけてんだよ...」