HARD-CORE
死んだほうが楽な人生ならお前が書き換えてみろ。
あいつの最後の声には痰が絡んでいた。
病院から出た俺は電話ボックスに入り、電話帳の適当なページを破り取った。
直径15mmほどの筒状に丸め、十徳ナイフのハサミで斜めに切り取る。
その筒を⑦のボタンの周りの隙間にねじ込み、つまんで引っこ抜くとその裏から黄色いカプセルが表れる。
これがあれば俺は無敵だ。
錠剤を口に放り込み、前歯で横向きに噛み潰す。
中から酸味の強いペーストが溢れ出し、唾液に少しずつ溶け出す。
歯茎に染みわたり、目の奥がアツくなり始める。
カプセルからペーストを吸いだし、心臓が肋骨を叩くのに合わせ深呼吸する。
「ぁぁ...ぁぁぁぁぁ....あぁあああああああああああああああああああ」
電話ボックスの扉を頭突き開け、血の滲んだ空のカプセルを吐き捨てた。
19:00
僅かに残る青空と2~3個の星と半月。
たまらなく美しく見えた。
その景色を遮る建物と電線。
たまらなく醜く見えた。
「ぁ...あぁ...ぅぎっ...」
黒いカッターシャツのボタンを一つちぎった。
眩しくなってきたので視線を目の前へ戻す。
じっとりとかいた汗をゴミ収集車の発てた風が撫でる。
次の瞬間、体感時速160kmで走り出す。走り出している。
SF映画のワームホールのように周りの景色が流れていく。
行く手を阻むエナジードリンクの瓶を蹴っ飛ばした。
その瓶は左斜め前方向の車道へ飛んでいき、こちらへ向かって走って来ていたパトカーのフロントガラスに突き刺さる。
体感時速160kmでパトカーは視界の後方へ消えていく。
しかし赤い光が追ってくる。
敢え無くパトカーは目の前に横向きに留まる。
「ギアッ」
飛び上がる。体感滞空時間20秒。
つま先がパトランプに引っかかり割れる。
パトカーの向こう側へ腕から着地、二人の警察官が首元をつかんでくる。
「すろぉもぉしょんだなぁ」
掌底で警察官の鼻をねじ折る。
もう一人の警察官が一歩二歩と距離を詰める。
「ひっはぁ」
既にこの左手にリボルバーを奪っている。
銃口を鼻の穴にねじ込むように押し込み、右手で2本目のリボルバーを手に掛ける。
銃弾が頭蓋骨を突き破り、紺色の帽子が宙を舞い赤信号を消した。
鮮血と赤いプラスチックが半月の光を反射しながら辺りへ散りばめられる。
パトカーに乗り込み、フロントガラスに突き刺さった瓶を蹴り出す。
ドアを閉め窓からリボルバーを出し、鼻と無線機に手をかけている警察官にもう一発ぶち込んだ。
パトカーを適当に走らせ、適当な建物にぶつけ、適当に飛び出し、適当に姿をくらませた。
目を覚ませばそこはブルーシートの中。
這い出たそこはマンションとマンションの間の50cmほどの隙間。
どうやら目的の座標には近づいているらしい。