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4.とりあえず同居が決まった(カイオ視点)

「空って気持ちいいわね」

 最初は怖がっていたルシアだったが、随分と余裕が出てきたようだ。今はライムンドの背から地上を見渡してはしゃいでいる。

「ライムンドの飛行を気に入ってくれたようで嬉しいよ。今は低速で低高度の水平飛行だが、もっと楽しませてやるからな」

 俺が手綱を操ると、ライムンドは左の翼をあげる。そして、ゆっくりと右側に旋回し始めた。

「わぁ、凄い。見て、あれが神殿よね。その隣の広い施設が竜騎士団の基地なのね。本当に大きい」

 ルシアが座る鞍は少し斜めになっているが、彼女は怖がっていない。

「もっと行くぞ。今度は左旋回だ!」

 先程より少し速度を上げて回転半径を小さくする。


「きゃー!」

 流石にルシアは悲鳴を上げた。

「一回転も行ってみようか」

 再び水平飛行に戻すと、ライムンドの飛行速度を上げる。そして、手綱を思い切り引っ張った。

 ライムンドが上を向いて急上昇。

「いやー!」

 そして、仰向けで反り返る形になり顔から急降下。

「落ちるー!」

 ライムンドは綺麗に一回転して水平飛行に戻った。

「な、とっても楽しいだろう? 竜騎士になるための訓練生を最初に乗せる時に行う曲芸飛行だぞ。皆とっても喜ぶんだ」


「ちょ、ちょっと、いきなりやめてよね」

 ルシアは大きく息を繰り返していた。

「怖かったか?」

 十歳ほどの少年を乗せて行う飛行だが、筋力のないルシアにとっては姿勢を保つのも大変だったか。

「怖くなんてないわよ。ただ、ほんのちょっぴり驚いただけよ」

 それは多分強がりなんだろうなと思う。



 竜騎士団の基地にライムンドを降ろして、ルシアを固定しているベルトを外しても、彼女は立ち上ることができなかった。

「すぐに立てるようになるから、ちょと待って」

 ルシアはライムンドの背に手をついて立ち上がろうとするが、膝に力が入らないようだ。

「待ってやりたいけれど、ライムンドの餌の時間が迫っているからそれほどゆっくりしていられないんだ」

 大量の食物を必要とする竜のために多くの餌係が働いている。ライムンドを竜舎へ戻すのが遅れてしまうと彼らに迷惑をかけてしまうので、俺はそれを避けるためにルシアを横抱きにした。そして、そのままライムンドから飛び降りると、

「きゃー」

 悲鳴を上げてルシアが俺の胸にしがみついてくる。


「だから、いきなりはやめてって言ってるでしょう! 心の準備というものが必要なんだから」

 俺の足が地面についた途端、ルシアは俺に文句を言ってきた。もちろん俺に横抱きにされたままだ。

「はい、はい、今度から気をつけるかもね?」

「なぜそこで疑問形なのよ。とにかく降ろして。もう大丈夫だから」

 俺はルシアの足を地面につけてから、そっと背を押した。すると、彼女は何とか自分で立つことができた。

「空の散歩はとても楽しかったわ。ありがとう」

 澄ました声でそう言うと、ルシアはゆっくりと歩き出す。本当は怖かったはずなのに絶対に認めたくないらしい。そんなところが三歳上の姉を思い出させる。口うるさくて負けず嫌いな姉のことを、俺は少し苦手にしていた。



「どこへ行くんだ。俺の家はこっちだぞ」

 俺が姉のことを思い出している間に、ルシアは違う方向へどんどん歩いていた。

「貴方が止めないから、こっちでいいのかと思ったじゃない」

 ルシアが文句を言いながら戻ってくる。こんなところがやっぱり姉に似ていると思う。

「歩き出す前に行き先を確認しろよ。少しは頭を使え」

「先に伝えてよ! 今頃言うなんて遅いわ」

 俺たちは睨み合いながらため息をついた。


 

 しばらく歩くと、立派な家が立ち並ぶ一角に着く。俺はその中の一軒を指差した。

「ここが俺の家だ。でも、今は独身寮に住んでいるから、ここは殆ど使っていないけど」

 竜騎士専用の官舎は、十部屋ぐらいはある立派な二階建ての一軒家だ。十二人の竜騎士それぞれに一軒づつ貸し与えられている官舎は、緊急発進時にすぐ竜に乗れるように全て竜舎の近くに建てられている。

 しかし、この家は一人住まいには広すぎるし、俺には家事をする暇もないので、少し竜舎に遠いが訓練生向けの独身寮の方が何かと便利だ。寮には一日三回の食事がついているし、留守の間に掃除や洗濯を済ませておいてもらえる。独身寮の風呂は共同で、部屋は一部屋しかないが、ここに来た時から住んでいる部屋なので不満もない。


「立派なお家。ここなら居候しても大丈夫ね」

「居候なのか? 嫁ではなく?」

「それは中で話しましょう」

 俺が玄関のドアに手をかざすと、ゆっくりとドアが開いた。このドアは魔法認証方式になっている。ルシアは驚いてその様子を見ていた。

「聖乙女は魔力を全く持っていないんだよな。こんなドアは初めて見たか?」

「ええ。自動で開くドアなんてびっくり」

「それじゃルシアは登録しても開けることができないな。俺の魔力を込めたカードでも作って鍵とするか。失くすなよ」

 もしそのカードを拾われたら誰でも家に侵入できてしまう。さすがに竜騎士団の基地の中まで入り込めるようなやつはほぼいないと思うけど。

「子どもじゃないのだから、失くさないわよ」

 ルシアは頬を膨らませて唇を尖らせた。とても子どもじゃないと言い張る時の動作ではない。

「まあいい。とにかく中に入れ。掃除はしてもらっているからきれいだ」



「本当にきれいね。あまり物がないけど」

 最初からついていた最低限の備品以外ほぼ何もない。それでも、寝るぐらいはできるだろう。

「必要なものはそのうち買い揃えよう。俺は護衛も兼ねているので、一階の部屋を使う。あんたは二階を自由に使え」

「でも、二階は主人の部屋ではなくて? これだけのお屋敷なのだから狭い使用人部屋があるでしょう。私はそこでいいから」

 ルシアはまた訳のわからないことを言い出した。

「歴代最高の聖乙女を嫁にもらって、使用人部屋に住まわせるなんてことができるか!」

「そんな過去の栄光に縋るつもりはないわよ。私は貧しい村出身だから、使用人部屋でも十分立派だと感じるわ」

「あんたの感想なんて知ったことじゃない。俺は世間の目のことを言っているんだ」

 歴代最高の聖乙女だぞ。十六年間にも渡って、この国を魔物から守ってきた彼女をないがしろにしてみろ、俺がどれだけ非難されると思っているんだ。

「だから、それは貴方が私と結婚した場合でしょう? 居候なら使用人部屋が適切よ。不本意ながら私は世間に慣れていない上に、他国の者や魔物に襲われる危険性があるらしいので、『聖なる力』が枯れてしまうまでここで居候をさせてほしいの。力さえ失えばただの村娘だから、放り出してもらってもいいのよ。お金も貰っているし一人で生きていけるわ」


「そんなに俺と結婚するのが嫌か?」

 俺と結婚するより、ただの居候の方がいいって、何気に傷ついてしまうだろう。

「私は贅沢を言える立場ではないけれど、貴方は違うでしょう? 若き竜騎士というだけで、どんな女性だって結婚相手として選べるわよ」

 それは嘘ではないな。自分で言うのも厚かましいが俺は女性に人気があると思う。

「俺は別にあんたと結婚してもいいけどな」

 でも、忙しくて結婚相手を見つける暇もない。

「今までの私のどこに結婚したい要素があったの? もしかして、罵られるのを好むとか?」

「そんな変な性癖はないからな! だってライムンドがあんたを嫌わなかったから。いくらいい女だってライムンドが嫌がれば結婚できないから」

「なぜよ?」

 少し呆れたようにルシアが問う。

「嫌いな女の匂いを身につけていれば、ライムンドの背に乗るのを拒否される危険がある。竜はとても鼻が利くし、繊細な生き物だからな」

「女性より竜をとるの?」

「当たり前だろう。俺は竜騎士だぞ」

 竜の信頼を失えば、俺は竜騎士ではなくなる。それだけ、相棒の信頼はとても大切なんだ。

「貴方って、絶対にもてないでしょう?」

「うるさい。とにかく二階を使え。とりあえず居候としてここに置いてやる」

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