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SS:聖乙女の護衛(竜騎士団団長視点)

 魔物が吐く黒魔素の塊を、ライムンドを舞うように飛行させながらカイオはぎりぎりで躱していた。そして、矢を放つ。

 さすが最年少で竜騎士になったカイオだ。見事に魔物の核を射抜き、魔物は輝きながら消えていった。

 

 私はそんなひよっこカイオの戦いを見学することにした。これぐらいの数の魔物を一人で葬ることができなければ、一人前の竜騎士とはいえない。


 宙返りを決めたライムンドの背で頭を下にしながらも、カイオは正確に矢を射ることができるようだ。そして、さすがルシア様が祝福した鏃だ。カイオの矢は一匹の魔物を消し去ったあと、別の魔物の核近くを貫いた。それだけで魔物はもがきながら落ちていく。やがて、その魔物も光の粒子へと変わった。

 あっという間に三匹をやっつけたカイオは、手を緩めることはしない。


 確かにカイオは若い。ちょっと無茶をしている。黒魔素の塊を剣で直接切り捨てたりもしていた。村が近いので万が一黒魔素塊が村に落ちてしまう危険を減らすにはいい手かもしれないが、黒魔素への接触の危険は大いにある。

 それでも、確実に魔物の数は減っていく。

 カイオの武器は全てルシア様が祝福した高性能のもだということを考慮しても、カイオの戦いは見事だった。史上最年少というのは飾りではないらしい。

 私はそんな思いで若いカイオを眺めていた。



「団長。魔物を殲滅しました。村にも被害を与えていません」

 カイオの声は嬉しそうだ。初陣での勝利だから仕方がないか。

「ご苦労だった。しかし、あの速度で魔物の群れに突っ込んでいくのは無茶過ぎる。魔物によって攻撃方法が違うので、それを見極めてから慎重に近づかなければならない。霧状の黒魔素を吐く奴らもいるからな」

 カイオの派手な戦いは見ている分には楽しいが、部下の命は守らなければならないので、少し釘を差しておく。

「了解しました」

 カイオは素直に返事をしてきた。竜騎士になるような男は皆我が強いから、彼が次から慎重に行くとは限らないが。


「それでは、カイオは聖乙女の護衛のためここに残れ。翌朝には交代要員の竜騎士を寄越すが、それまでライムンドを村の上空で空中停止飛行させておくんだ。一晩中だぞ。魔物は光り輝くから夜でも目立つが、他国の奴らにも気を付けなければならない。熱を感知できるように視力を強化して地上を常に監視しろ。竜騎士が護衛についた後に、聖乙女がさらわれたり、魔物に襲われたりしたら、竜騎士団の名折れだからな。きつい仕事だが頑張れ」

 竜は速度を出す飛行を好む。そのため、哨戒飛行は竜も楽しみにしているぐらいだ。しかし、一地点に留まる空中停止飛行はあまり好きではないらしい。竜との信頼関係や優れた操竜技術がなければ空中に停止し続けることは難しい。竜騎士の腕の見せどころだ。 


「了解しました。只今より聖乙女の護衛の任に就きます」

 カイオは風魔法で私に声を届けると、村の上空へとライムンドを移動させた。

 村に近づいてみると、大きな黒竜を見上げる人々が見えた。中には手を振っている子どももいる。

 その上空でライムンドは小さく翼を震わせるようにして停止した。

 これなら心配はいらないだろう。


 まだ日は高い。カイオはこれから半日以上も空の上で聖乙女を護衛する。本当に厳しい仕事だ。

「団長。大丈夫です。絶対に聖乙女は守ってみせます」

 それでもカイオの声は明るい。

「頑張ればいいこともあるからな。聖乙女は本当に素晴らしいぞ。清らかで献身的な女性なんだ。しかも、初々しくて可愛いし。神殿に恩を売っておけば、そんな聖乙女を妻にできるかもしれない」

 私は若い独身のカイオを励ました。

「団長の奥さんが元聖乙女で、今でも仲がいいのは知っていますが、一晩こんなところで過ごさなければならない俺に惚気るのは、ちょっと酷ではないでしょうか?」

 私のその励ましは、カイオにとってあまり嬉しくなかったようだ。

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