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13.竜騎士団のお仕事(ルシア視点)

 竜騎士団の団長さんが私に挨拶をしたいらしく、カイオと一緒に本部棟へ行くことになったので、雑貨屋へ行かずに、昼は職員食堂で済ませることになった。

 他の竜騎士と会うことになるためか、並んで歩いているカイオの機嫌はかなり悪い。

「あのね。私が貴方の婚約者というのは否定した方がいいと思うの。でないと引っ込みがつかなくなるわよ」

 冗談で婚約者ならジャイルさんの奥さんに礼を言ってとカイオに頼むと、彼は『婚約者のルシアが世話になった』と素直に礼を言ってしまったので、奥さんは私がカイオの婚約者だと思い込んでしまったと思う。

 せっかく否定する機会を作ったのに、カイオはなぜに肯定してしまうのだろう。

「別に本当のことだからいいだろう? 団長にも婚約者だと報告したし」

 ぶっきらぼうにカイオはそんなことを言う。


「まだ私が既婚の竜騎士と結婚したがっていると思っているの? 自由に空を飛ぶ竜を窓から見て憧れていたから、望む結婚相手を訊かれて思わず竜騎士と言ってしまったのは悪かったけれど、私は自分のことぐらいわかっているつもりよ。聖乙女を辞めてただの村娘になった私が竜騎士と結婚できるなんて思っていないから」

 竜騎士がどれほど気高く立派な人たちか、彼らの武器を祝福する際に嫌という程聞かされたわ。そんな竜騎士はとても遠い存在だと思っていた。


「あんたがただの村娘の訳がない」

 カイオはすかさず否定する。

「もしかして、二十四歳にもなって『娘』というのは厚かましいとでも思っているの? 自分でもちょっとは思うけれど、未婚だから『娘』で文句はないはずよ」

 聖乙女よりはましだと思うのよ。二十歳超えると乙女はちょっときつい。

「そんなことは言ってない! あんたは歴代最高の聖乙女だから、『ただ』の筈がない」

 もう聖乙女は辞めたのだから、そんな大きな声で聖乙女と言わないで欲しい。


「長年神殿にいて婚期を逃した私が哀れだから、結婚してやろうと思ったの? 騎士道ってやつ?」

「そんなんじゃない。結婚相手を探すのはちょっと面倒だから。あんたでもいいかなと思った」

「面倒って何よ! 貴方の一生のことなのよ。面倒という理由で結婚を決めるなんて、本当に信じられないわ」

 カイオは竜騎士がどれほど女性に人気があるのか知らないらしい。聖乙女の殆どは、最年少で竜騎士になったカイオに憧れていた。彼は訓練ばかりしていたからやはり世間知らずなのね。


「本当に竜騎士なら誰でもいいという女がいるんだよ。自慢できるからって」

「その女性の気持はちょっとわかる気がする。だって、竜騎士は選び抜かれた人たちだし、その上、ずっと努力を怠らなかったのでしょう? 尊敬に値するわよ」

 だから私なんかに縛られてはいけないと思うのよ。竜騎士のカイオはもっと自由に好きな女性を選ばなくては。


「でもな、そんな女に限って竜騎士の仕事に理解がない。仕事より自分を優先しろと言われても困る。制約の多い竜騎士の妻になる覚悟があり、ライムンドに気に入られるような女を探すのは本当に面倒なんだ。それよりあんたはどうなんだ? 四歳も年下の男は子供っぽくて、結婚相手としては頼りないと思っているのか?」

「貴方のことが子供っぽいと思うほど、私は大人でもないから」

「大人っぽくないという自覚はあるんだ。それは安心した」

「貴方よりは大人だもん。そのうち、大人の魅力ってやつを見せつけてやるわよ」

 神殿生活が長かったから、ちょっと世間知らずなだけで、私は二十四歳だからね。

「それは楽しみだ、婚約者殿」

 カイオが口角を上げて笑った。馬鹿にしているに違いない。

「婚約が確定したって知らないからね」



「これを渡しておく。俺の魔力を込めておいたから」

 しばらく無言で歩いていたが、突然カイオが金色の認識票を差し出してきた。カイオの銀色の認識票とお揃いで、金の鎖がついている。

「ありがとう」

 認識票を受け取った私はカイオを真似て左手首へ巻く。

「これで玄関のドアも開けられるし、焜炉も使えるぞ」

 そうカイオが言うので、私は嬉しくなった。

「家へ帰った時、私がこの認識票でドアを開けるの。いいでしょう?」

 何だかわくわくしちゃう。

「ああ、好きにしろ」

 カイオの許可は貰った。私が一番に玄関に入ってやるんだから。楽しみ!



 職員食堂はびっくりするぐらい大きかった。そして人も多い。竜騎士は十二人しかいないけれど、基地で働いている人は本当にたくさんいるらしい。

 カイオはそんな中で目ざとく空いた席を探し出した。

「ここに座って待っていてくれ。昼食は日替わりでいいか?」

 カイオは慣れているらしく、メニューも見ないでそう訊いた。

「それでいいわ」

 よくわからないのでそう答えると、カイオは列の後ろに並びに行く。



 しばらくして戻ってきたカイオはトレイを二つ持っていた。

「ハンバーグと魚のフライだ」

「とても美味しそう。でも、いくらなんでも量が多すぎる」

 ハンバーグは掌位あるし、フライは二個もついている。

「この食堂を使うのは殆ど男なので、確かに量は多いかもな。半分食ってやろうか?」

「うん、ハンバーグと魚のフライを半分っこ」

 ナイフで切り分けてカイオの皿に入れると、彼は嬉しそうにしていた。

 味は本当に美味しく、大満足だった。

 私の三倍の量があったはずなのに、カイオは私より早く食べ終わっていた。



 昼食が終わると、本部棟に入って会議室に連れて行かれた。

「はじめまして、ルシア様。私は竜騎士団長のフェルナンと申します。貴女にお会いできてとても感激しております」

 竜騎士団長は大柄で筋肉質の人だった。でも、いかつい見かけに反して口調はとても優しい。

「はじめまして。ルシアと申します。私もフェルナン様にお会いできて光栄です」

 竜騎士団長は大きな手を差し出したので、私は彼の手を軽く握って握手をした。


 会議室にはカイオと竜騎士団長も含めて八人の竜騎士がいた。皆背が高くて筋肉質。それほど狭くない会議室なのに、手狭に感じる程だった。


「ところで、ルシア様、カイオの認識票を祝福されたでしょう? 我々の認識票も同じように祝福していただけませんでしょうか?」

 カイオの認識票に聖なる力を込めたことを竜騎士団長に怒られるのかと思っていたけれど、違っていて安心した。

「いいですよ。そんなことぐらいなら簡単ですから」

 むしろこっちからお願いしたいぐらいだ。早く聖なる力を枯らさないと、田舎にも帰ることができないみたいだから。


「やったー」

「おお」

「これで、俺たちもあんな戦い方ができるぞ」

「カイオだけにいい格好させられないからな」

 竜騎士の皆さんがやたらと喜んでいる。思った以上に子供っぽい人たちのようだ。


「ルシア、本当に大丈夫なのか? 嫌ならちゃんと断らないと駄目だぞ」

 カイオはそう言うけれど嫌ではない。

「本当に大丈夫よ」


「先輩方、認識票を外してください。俺がルシアに渡して祝福してもらいますから」

 カイオはまだ私が他の竜騎士を誘惑するとでも思っているのか、私に他の竜騎士を近寄らせないつもりだ。

「わざわざ認識票を外すのは面倒でしょう? すぐ済みますからつけたまま来てください」

 そう言うと、一番近くに座っていた人が近寄ってきて私に左手を差し出した。

「ちょっと、先輩。ルシアにあまり近寄らないでください」 

「カイオ、今からそんなに束縛すると、嫌われるぞ」

 その先輩はそう言って笑う。カイオは顔をしかめた。その間に軽く認識票に触れて聖なる力を込める。

「終わりました」

「えっ? もう終わったの?」

「はい。目一杯入れておきましたから」

 そう言うと、その竜騎士は嬉しそうに礼を言った。

「ありがとうございます」


 それにしても、昨夜は椅子で寝てしまったから寝不足なうえに、お昼をいっぱい食べて満腹。何だかとても眠たくなってきた。


「私もお願いいたします」

 竜騎士団長が左手を差し出した。同じく聖なる力を込める。本当に単純作業だから眠気がなくなるどころか増していく。


 ずらっと並んだ七人の竜騎士の認識票に聖なる力を込め終わった時には、起きているのが困難な程に眠たくなっていた。

「ルシア! どうした」

 そんなカイオの声を聞きながら、私は眠りに落ちた。

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