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12.ルシアがいない(カイオ視点)

 本日は四班が完全休養日、三班が国内上空を哨戒飛行しているので、他の八人の竜騎士が会議室に集まっていた。

「陛下に会ってきた。歴代最高と讃えられた聖乙女ルシア様が神殿を出たが、未だ聖なる力を残している。そんなルシア様は他国や魔物に狙われる可能性があるので、竜騎士団の基地で保護することになった。そして、竜騎士カイオと婚約、近々結婚の予定だそうだ。カイオ、間違いないな?」

 中央に座った団長が俺の方を向く。

「間違いありません。ルシアは現在我が家に住んでいます」


「おお!」

 どよめきが起こる。それぐらい、竜騎士にとってルシアは伝説級の人物だ。彼女が聖乙女となってから明らかに魔物が国内に侵入する頻度が減ったらしい。そして、ルシアが祝福した武器が最高であることは俺が一番良く知っている。先輩たちに『反則だ』と責められるぐらい驚異的な性能だ。


「ところでカイオ、その認識票で起こったことを報告してくれ」

 やっぱり訊かれるよな。こんな物凄いものが俺たちの標準装備になれば、生存率は飛躍的に上がるはずだ。

「この認識票は俺の婚約者であるルシアによって祝福されたものです。通常時は何の変化も見られませんが、黒魔素が増えてくるとそれらを分解して白魔素に変換します。そのため、戦闘時に白魔素不足を心配することなく魔法が使え、黒魔素中毒や呼吸困難になる心配もありません。また、黒魔素の塊も瞬時に分解してしまうため、魔物の攻撃を無効化できます。昨日は試してみませんでしたが、この認識票があれば、魔物の核を直接殴って倒すことも可能かと思われます」

 これこそ反則級の装備だよな。魔法を最大出力で使ってあんなに楽に息ができたのは初めてだ。


「一度ルシア様に竜騎士団の団長としてご挨拶したいと思う。そして、できることならカイオの認識票のように、他の竜騎士の認識票も祝福してもらえないだろうか。それがあればどれだけ戦いが楽になることか」

「昼に家へ帰って一緒に昼食をとる予定ですので、午後に彼女を本部棟まで連れてきます。認識票の件はルシアに確認してください。それから、彼女は家事が全くできないので家政婦を雇いたいのですが、団長の推薦状をいただけないでしょうか?」

 竜騎士の生活維持のために家政婦が至急必要との団長の推薦状があれば、優先的に家政婦を紹介してもらえる。今日から来てもらうことも可能だ。家族の病気や出産などで、竜騎士の勤務に支障が出ないようにとの配慮だ。

「もちろん推薦状は書こう。ルシア様に家事などさせる訳にはいかない」

 団長はそう言うけれど、ルシアは家事をするつもり満々だった。でも、怪我しそうで怖い。


「それと、ルシアは全く魔法を使えませんから、対の認識票をください」

 竜騎士の認識票は金と銀の二枚一組で作られ、銀のものは竜騎士が常に手首に巻いている。対となる金の認識票は竜騎士団で保管しているが、望めば妻に渡されることになっている。金は魔力を込めることできる金属なので、これに俺の魔力を込めることで、ルシアでも家の解錠や燃料に着火できるようになる。

 雑貨屋で売っている金のカードでも同じことができるが、この際だから認識票を貰っておこうと思う。

「わかった。認識票の申請書にサインをしてやるから、一緒に事務所で手続きをしてこい」

 団長はとても機嫌よく書類にサインをしてくれた。



 団長の書いてくれた推薦状を事務所に提出すると、夕方には家政婦が我が家に来てくれることになった。そして、無事に金の認識票を貰うことができた。金の認識票には竜の紋章はなく、俺の名前と生年月日。そして、出身地が刻印されている。

 俺はルシアがしてくれたように認識票を握り締めて魔力を込めた。すると確かに金の認識票から俺に魔力が感じられる。

 それから昼まで訓練を行い、家に帰ることにした。ルシアはおとなしく家で待っているだろうか。



「ただいま」

 玄関を開けても人の気配がしない。

 台所にも食事室にもルシアはいない。風呂場にも洗面所にも彼女の姿はない。

 階段を上がって、ルシアの部屋の前まで行く。そして、ドアをノックした。

「ルシア、寝ているのか。もう昼だから起きろ」

 何度かノックしたが返事がない。

 そっとドアを開けてみる。

 二台のベッドには毛布が畳んで置いてあるだけで、ルシアは寝てはいなかった。部屋には隠れるところなどない。たった一つ置かれたチェストの上にはライムンドの模型が飾られていた。


「ルシア!」

 俺は叫びながら二階の全ての部屋を探したが、ルシアを見つけることはできなかった。

 再び一階へ降りると、俺の部屋にする予定の客間や使用人部屋も調べたが無人だ。

 外へ出て裏庭に回ってみたがやはり誰もいない。

「どこへ行った?」

 家は荒らされていないので、ルシアは自分の意思で家を出ていったようだ。慣れない基地のどこへ行ったのだろうか?

 俺は昨日連れて行って、今日も一緒に行こうと約束した雑貨屋かもしれないと思った。


 しかし、急ぐと数分で着く雑貨屋にもルシアの姿はない。店員に訊いても若い女性の客は朝から一人も来なかったと言われた。

 まさか、竜舎の方へ行った? 竜はおとなしい生き物だが、とても大きいので普通の人にとっては脅威だ。踏まれるともちろん命はない。

 それとも用水路に落ちたのか? あのルシアならば、魚でも泳いでいれば用水路を覗き込んで落ちてしまいそうだ。

 訓練生の独身寮なんて行ってないよな。ルシアは長年神殿にいたので、年齢のわりに幼いところがある。男にも全く慣れていない。変な男に騙されて部屋に連れ込まれているかも。


 ルシアを一人にするのではなかった。彼女なら一緒に出勤しても許されただろう。どうせ午後には連れて行くことになったのだから。

 

「ルシア! どこにいる!」

 俺は用水路を覗きながら家への道を歩いた。家の近くまで戻っても用水路にルシアは落ちていなかった。

 やはり竜舎の方か? それとも独身寮でルシアのことを聞き回るか?

 俺が家の前で迷っていると、隣に建っているジャイル先輩の家の玄関が開いた。そして、ルシアが出てくる。

「どこへ行っていた? おとなしくしていろと言っただろうが!」

 俺はルシアに駆け寄って思わず怒鳴ってしまった。


「ジャイルさんの奥さんは妊娠しているのよ。そんなに怒鳴らないで」

 ルシアの後ろから先輩の奥さんが顔を出す。

「カイオさん、ごめんなさい。私が誘ったの」

 奥さんは大きなお腹で頭を下げてくれて、本当に申し訳ない。

「ジャイルさんの奥さんはね、家から閉め出された私を親切にも家に入れてくれて、お茶と手作りの焼き菓子を振る舞ってくれたのよ。とても美味しかったわ。それから、竜騎士の妻の心構えも教えてもらった。貴方が私の婚約者なら、ちゃんと奥さんにお礼を言ってよね」

 なんでルシアが偉そうにしているのかわからないが、とにかく先輩の奥さんが保護してくれていたらしい。もちろん礼を言うのはやぶさかではない。


「婚約者のルシアが大変お世話になったようで、申し訳ありません」

 俺が礼を言えば、先輩の奥さんが変な顔をした。

「もしかして、聖乙女のルシア様?」

「恥ずかしながら、そうなんです。ごめんなさい。言い出せなくて。でも、本当に楽しかったから、またご一緒させてくださいね」

 ルシアが微笑むと、先輩の奥さんはこくりと頷いた。

 二人の間に何があったのか、訊かない方がいいような気がする。

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