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桜子さんのショートショート

勇者アーサー殿は共と旅する~改定番~

作者: 秋の桜子

読み返せば、書き換えたくなる私。ご隠居さんに舞台に再び出て来てもらいました。

 この世界では伝説になった『おっちゃん勇者アーサー』その功績の素晴らしさよ。


  若き剣士、格闘士、二人の魔法使い、賢者と共にパーティーを結成し、数々の魔物、邪悪を打ち払い、なぎ払い、


 果ては『史上最も悪にして最強の魔王』の討伐まで、見事に完遂したのが伝説のいわれ。その後の魔物達の弱体化は、すざまじかった。


 この世を光に導きし、中年の希望の星『勇者アーサー』その名は世界を席巻し、今も消えることの無い輝きを放っている。


 そして彼は、しばしの間供の者達と休息の為に表舞台から姿を消す。これまでの過酷な任務の為に、身も心も疲れはてた配下の事を考えての事だった。


 しかし平和を愛するアーサーは、優秀な彼の配下である『大カラス』こと、変わり身の魔法使い『ブラックサンダー』に密かに命を出している。


 それは、世界の空を舞い、彼の目となり耳となり逐一情報を隠れ家に運ぶということ。


 再び、みなと共に旅へと出るときの為に、人々の楽しき集う姿を確認の任務の為、ぬかりは無い『伝説の勇者アーサー』


 ―――青い空、吹き抜ける風は穏やかで緑溢れる季節、賑やかに旅をするご一行があった。


「ご隠居、次のラーダの都は、麺類が美味しいんですよ」


『賢者コーン』が嬉しそうに、かくしゃくとした主の老人に声をかける。


「コーン、お前、旅に出ると食べ物の事ばかりだな」


『剣士ライス』は笑いながら、声をかける。全くだと『格闘士ミート』も笑いながら、同意する。


 ひどいや、二人とも、コーンはふざけながら、反論。その様子を満足そうに、眺める主の老人。


 その時、空に彼の配下である『ブラックサンダー』が化けているそのままに、ラーダの方角から現れると、情報が詰まった『光の玉』を相方の彼女へと落として、再び飛び去って行く。


 それを受け取り、中身を読むと、彼女は美しい眉間にシワを寄せる。


「ですが、ご隠居、ブラックサンダーの知らせによると、ラーダの都は、何やらキナ臭い様ですわ」


『魔法使いコリアンダー』が彼女の元へと知らせを送った彼の報告を、即座に老人へと知らせる。


「ほぅ、それはどのような」


 興味を引かれた老人が、彼女に問いかけた。


「娘を生け贄に出せという妖が、出るそうです」


 彼女の声を受けて、ライスがラーダには寄らず、次の都を目指しましょうと、強い口調で提案を出してきた。


「えー、ラーダの麺類はそりゃ、美味しいのに」


 がっかりと、肩を落とすコーン、仕方ないだろう、ご隠居を、危険な目にはあわせられない、と慰めるミート、しかしそれに異を唱える者がいた。主の老人だ。


「いやいや、皆の衆、困ってる者がいるのなら

 助けないといけない」


 彼の一言で、ご一行はラーダの都を目指す事になった。


 ――ラーダの都、そこはかつては魔物達がのさばり、民を蹂躙していたのだが、通りかかりの


『伝説の勇者』により、悪きもの達は討伐され、平和をもたらされていた、はずの場所だった。


「何だか、ご隠居、殺伐としています、ここは以前平定した場所だと思うのですが」


 ライスが都を吹き抜ける乾いた風に、微かに邪気を感じとり、厳しい表情を浮かべる。


 うなづくご隠居、不安げなコーン、警戒を怠らぬミートにコリアンダー。その時、若い娘が助けてを求めながら、此方に向かって走ってくる。


「だ、誰か、だれか、助けてー」


 人通りが多い都の大通りにもかかわらず、誰一人として、助けようともせず、黙って見て見ぬふりを決め込むラーダの都人。


「待てい、どうせ次はお前だろうから、連れて来るようにお館様からの命だ!大人しくついて来やがれ!」


 荒くれ男達は、逃げて来た娘を捕まえると、いや、離してと抵抗する彼女を無理矢理に連れ去ろうとする。


 そのような事を目の前にしても、誰も動かない人々に、厳しい目を向けながら、老人は動く。


「ミート、助けてやりなさい」


 老人の一言で、ミートはその鉄拳を奮う、荒くれ男達は、こてんぱんにやられ、覚えていろよとの捨て台詞を残して、逃走。駆け込んだ先は、


『穀物問屋ストック』


 その行き先をブラックサンダーは、空からしかと確認している。


 ド派手な看板が、掲げられた裕福な商店、そこの欲深店主にボコボコにヤられた、生意気な旅人ご一行が、やりやがった。しかも、ジジイの手下に、と息も絶え絶えに報告をする手下の輩。


「お前達は、魔物なのにそのジジイ一行に負けたのだと?」


 怒りのあまり店主は、人間の姿から元の魔物の姿へと戻り、手下を一喝。そこへ、お客様ですが、と声がかかる。


「わかった、今行く」


 しゃおぅっと、人間の姿へと戻り、屋敷の奥座敷へと向かう店主、お忍びでの来客は、ラーダの都の家老。


 奥座敷では、きんきらきんの衣装を身にまとった家老が、嫌がる若い娘を侍らせ、スケベな世界を繰り広げていた。


「お楽しみでございますな、御家老様」


「おお、ストックか、何時もすまぬな」


 きんきら家老が、嬉しそうに声をかける。


「いえいえ、お礼など、それより、例の件は良しなに」


 黒い笑みで家老に、迫るストック、


「ふふふ、魔物のそなたが、大臣の椅子に座る。との事よの、了承しておるとも……魔物の分際で、一国を狙うとは、そなたも悪よのぉ」


 きんきらと欲深は、声を揃えて高らかに笑う。


 庭の植木に止まり、その全てを仕入れる大カラス、その姿は、誰の目にもふれることなく、再び空へと舞い上がった。


 ………その頃、ご一行は、娘が助けてくれたお礼を、と聞かないので、彼女の父親が経営している『麺料理専門店』で、舌鼓を打っている。


「やっぱり、ラーダの麺料理は最高ですよね」


 コーンは既にお代わりを三杯もし、周囲の笑いを取っていたが、不意に助けた娘『メンマ』が泣き崩れた。


「どうなされたのじゃ」


 老人が、彼女に近づき、優しく問い掛ける、涙を流し話せない彼女に代わり、父親が忌々しそうに、事情を語る。


 ………要約すると『穀物問屋ストック』の店主は魔物で、ラーダを乗っとる為に、スケベで有名な家老に若い娘を賄賂にし、取り込んでおり、


 娘を差し出さなければ、荒くれ男に化けた魔物達が、都を攻撃すると、脅しをかけている。との事。


「次の生け贄は娘なんでい、娘は、娘は、もうすぐ婚礼なんでい」


 泣き崩れる親子、その様子を眺める老人の眼には、強い正義の光が宿っていた。


「ご隠居、調べがつきました」


 その時、彼らの店屋に黒い衣装をまとった、ブラックサンダーが入ってくる。そして彼からの報告を全て聞くと


「これは捨て置けませんな、皆のもの、また力を貸してくれまいか?」


 供の者達はひざまづき、御意と答える。その様子を目にした親子は彼に問いかける。


「あ、貴方様は一体……」


「ん?ワシらは『旅の旨いもの紀行編集者』じゃ」


 さらりと答える老人。そして、さぁ行こうぞ、と楽しげに供の者達と店を後にした。



 ―――「大変です!彼奴らが、旅のジジイ共が、殴り込みにきやした!」


 奥座敷にストックの荒くれ男達が報告にきた。


 中では、きんきらスケベ家老と、欲深魔物店主が悪巧みの真っ最中、そこへ、店先の魔物を一掃したご一行が登場。


「なんだ、お前達は」


「仮にも家老という者が、何という狼藉、証拠は掴んでいる、ライス、ミート皆の者、成敗なさい」


 老人の一喝に対し、慌てる家老、ジジイの癖に小癪なとテンション上がる魔物。


「やれ!やっちまえ!」


 欲深魔物の一声で、彼方此方から出てくる手下の魔物達。


 戦いのゴングが鳴り響く。ライスは、バッサ、バッサと切り裂き、ミートはボコスカ殴り付け、コーンは皆に防御の呪文をかけ、手伝う。


 そして、再び大カラスとなった、ブラックサンダーは空から奇襲攻撃をかけ、蹴散らして行き。コリアンダーは、水魔法で一掃、


 あっという間に数を減らし、消え行く魔物達。


 旗色が悪くなった欲深魔物は、国の実力者きんきら家老に、助けを求める。その時、


「ライス、ミート、みんな!そろそろ良いでしょう」


 老人が、戦いを終える宣言をする。その様子にきんきらが、ジジイの分際で、他国に干渉するとは、言語道断、取り押さえ、厳罰に処す、


 と決め台詞を放つ。しかしきんきら家老は知らなかった。目の前のジジイの正体を、


 老人を中央に、両脇にライスとミートが、そして皆の者が定位置に立つ。


 ――老人が高らかに宣する。


「我は勇者アーサーじゃ、ひれ伏せ、聖剣、エクスカリバーの光のもとに」


 旅のジジイこと『勇者アーサー』が、空から白銀に輝く刀身のエクスカリバーを取り出す。その場が、聖なる光で満たされる。


 慌てふためく、悪しき者共、悠然と対する勇者ご一行。


「そ、そんな、ば、バカな」


「聖なる光の前で頭が高い、控えろ、さもないと、成敗してやろうそ!」


「ははー、申し訳ございませんでしたー」


 『勇者アーサー』の、正義なる力の前では、悪しき者共は、ひれ伏す事でしか、その命が助かる方法は無かった。


 こうして、ラーダの都に平和が取りもどされた。


 ――――欲深魔物と、きんきらスケベ家老の討伐も終わり、ご一行は再び歩き始める。


「サザールの街は、煮込んだ肉料理が有名ですよ」


 コーンの嬉しげな声が、青空に響き渡る。


 可笑しげに、そんな彼を眺める老人ご一行、


 吹き抜ける風は穏やかで、優しい日差しの中、ブラックサンダーは軽やかに空を舞う。


 『史上最強勇者アーサー』は進む、平和の世界を守るべく。


 ――――この世の悪を、成敗する彼等の旅は、まだまだ続くのであった。





「完」







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