1・・・ブルーシート
世界中、どんな場所にでも不思議が転がっている。
どうしてそんなにたくさん不思議があるのか、不思議なぐらいに。
みんなは不思議に思わない?
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日本海側、西の方にある県の某国立大学の近く、学生向けアパートの2階のベランダにブルーシートが張られているのを、
小柄な男が道路からじっと眺めている。
ブカブカのスーツを着て、へんてこなタコの柄の赤い色のネクタイ、黄色いスニーカー、黒ぶちで分厚い眼鏡、肩を過ぎた髪を輪ゴムで1つにまとめている、変わった風貌の男。
長い前髪で顔のほとんどが隠れているので歳がいくつかよく分からない。
チラリと見える白い肌は若く見えるので、20代後半までか。
男はしばらくブルーシートを眺めた後、数軒先にある弁当屋で弁当を買い、それを食べながらまた眺めた。
そして通りすがった捜査官に一言。
「これね、う~ん、自殺ではないなぁ。本人がそう言ってます、ね。
え?何言ってるのかちょっとわからないって?
はいはいじゃあ、捜査に行き詰まったらこちらに連絡して、ね?」
男はちょっと変わったしゃべり方をしながら捜査官に名刺を渡した。
名刺には、「東京心霊及び未確認生物相談室長 港乃 陽光 」と書いてあった。
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2か月後、東京 渋谷。
JR渋谷駅でスマホと名刺を片手にキョロキョロしている背の高い男がいる。
スーツはグシャグシャ、髪の毛はボサボサ、ガニ股でブスっとした30代の男は、おおよそ渋谷は似合わない。
本人もそれが分かっているのか、一刻も早くこの場を立ち去りたかったが、どの方向に進んだらいいのか分からない。
「マルキューのギャクって、どこだよ!!」
イライラしながらスマホをグルグル回してウロウロ歩き回っている。
渋谷駅から徒歩15分のところに行く予定が、そこに彼が到着したのは2時間ほど経過してからだった。
築30年以上は経っていると思われる、昔ながらの古くて白い4階建てのビル。目的地はその3階。
しかし階段しかない。
「だーーーもうっ!だから俺はこんなとこ来たくなかったんじゃ!!」
猛暑のせいで汗だくになっているのもあって、階段を上りながら怒りが頂点に来ている。
そのドアには簡単な縦長の看板が掛かっていた。
「東京心霊及び未確認生物相談室」
ドンドン!!!
「こんにちは!!」
いらだちを込めて男はその古いビルの古いドアをノックした。
「は~い。」
気の抜けた声が中から聞こえてきた。
「やっぱり来た、ね?電話で連絡もらったから、待ってました、よ?」
「・・・・」
「ね?」
「・・・ね?じゃねーーー!!鍵が掛かってんじゃねーか!さっさとドアを開けやがれ!!」
なんと、中にいた男 港乃 陽光は、ドアの鍵を開けるのを忘れていた・・・。
「すみませんでした、ね?缶のお茶がいい?缶ジュース?缶コーヒー?」
「全部缶かよ!まあいいけどな!缶コーヒー!!」
「私、缶の飲み物が大好きなんです、よ。だからたくさん買ってあるんです、ね。」
港乃は良く冷えたショート缶のコーヒーを男に渡した。
「熊崎さん、でしたっけ?」
「おう、熊崎 つばさ だ!」
「つばさ・・・」プっ
港乃は分かりやすく反応した。このガニ股の大男、どう見ても”つばさ”何て名前は似合わない。
「じゃあ、クマさんって呼ばせてもらいます、ね?」
「じゃあってなんだ!プーさんか俺は!!まあいいけどな!」
「で、今日は・・・ああなるほど、3か月前の自殺の件、でした、ね?解決しない、そうでしょうそうでしょう。だってアレは」
「アレは?」
「犯人は人間ではないのですから。」