表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/13

Step07.再び告白する

 北村と共に弁当を食べる様になってから、数日がたった。あれから、遥は学校がある日は毎日北村と共に帰っている。

 そのおかげで、遥は連日ハイテンションだ。


「最近の遥は、いつにも増して頭オカシイよね!」


 ──友人たちに、そう断言される程には。

 遥はフッ、と芝居臭く息を吐く。


「何を言っているんだね君は……私は通常運転だぜ?」

「あ、ゴメン、遥はいつでもアクセル全開だよね!」

「暴走特急が通常運転とか、流石マジキチ」

「失礼な」


 ムッ、と頬を膨らませる。

 今は体育の授業の真っ最中で、バスケットボールの試合をしている所だ。

 チーム編成は自由に五人で組め、と言われたので、遥は前まで弁当を一緒に食べていた二人と、「組もう」と言ってきた二人とチームを組んだ。

 遥のチームは今、出番ではないので他のチームが試合をしているのをボンヤリ眺めながらお喋りをしている。

 ちなみに、「組もう」と言ってきた内の一人は審判をして、もう一人は得点板に張り付いているため、お喋りしているのは前まで弁当を一緒に食べていた三人組だ。


「まぁ、遥のテンションがオカシイ理由なんて、簡単に想像つくけどね」


 弁当組の片方が、腕組をみしながらため息を吐く。


「なん…だと…!?希美様にはお見通し…だと…!?」

「ノゾミ様が見てる…!」

「ハイ、香織、悪ノリしない!」


 腕組みをしていた友人、希美がもう一人の友人である香織に軽くチョップした。

 それと同時に、コートの方でビー、とホイッスルの音がする。どうやら、ボールがコートから出た様だ。

 それを横目に見ながら、希美が再度ため息を吐く。


「遥の事だし、どうせ北村関連でしょ」

「何故分かった!?」

「希美先輩、ハンパねぇッス!マジハンパねぇッス!」


 嘘臭く驚いて見せる遥に、香織が便乗する。希美はそれを「ウザッ!」と一言で切り捨てた。


「アンタが北村を好きな事なんか皆知ってんだから、普通に分かるっての」

「え、何で皆知ってんの?」


 呆れた風に言った希美に、遥は首を傾げる。

 別に北村を好きな事を隠した事はないが、言い触らした事もない。何故、皆が知っているのだろう。


「まぁ、さっきも『何で男子外なんだー!運動頑張る北村君を観察出来ないじゃないかクソッ!』とか叫んでたし。普通分かるよね」


 香織がやれやれと言った風に肩をくすめながら、そう説明した。

 そう言えば、授業が始まってすぐに、そんな事を喚いた様な気もする。そりゃバレる。


「それと同時に、皆川の不憫具合も大変有名となっております」


 香織がそのまま、「プークスクス」と小馬鹿にした様に笑いながら続けた言葉に、遥は再び首を傾げた。


「え、何で今、皆川が出てきた?」

「アッハー!マジで不憫!」


 香織は答えず、ただゲラゲラと笑い出す。

 助けを求める様に、希美に視線を向けた。すると、希美は「ハハハ」とわざとらしく笑う。


「私が教えるとでも思ったか!」

「希美様!お願いします!希美様マジ天使!」

「白々しいわ!」


 遥の頭に、希美のチョップが降ってきた。手加減されているので、痛くはない。


「私は馬に蹴られて死にたくはない!」


 希美は腕組みをしながらそう言い切った。更に意味が分からない。

 馬に蹴られて死ぬのは、誰かの恋愛を邪魔した人間だ。希美に北村との仲を邪魔された覚えはないし、そんなことにはならないと思うのだが。

 それとも、皆川の恋愛の邪魔だろうか。皆川が誰を好きかなど知らないが。


「ま、邪魔する前から終わってるけどねー!」


 香織はそんな事を言いながら、未だにゲラゲラ笑っている。遥一人が、事情を分かっていない状況だ。


「でも、アイツまだ諦めてないよね」

「マジでか!」

「え、何を?

「「教えぬわ!」」


 二人は声を合わせて答える事を拒否した。遥はムッとして頬を膨らませる。


「何でー!?」

「えー、他の人が言うと、皆川が更に不憫だし」

「もう北村に聞けば?」

「あ、それはダメだね!絶対面白い!」

「面白いとか言っちゃてるし」


 今度は二人して笑い出した。遥は全く面白くない。


「いいよ、じゃあ北村君に聞くよ!」

「ま、アイツも分かんない人種だと思うけどねー」


 希美はハッ、と鼻で笑った。自分で北村に聞けとか言ったくせに、酷い態度だ。


「あ、でも、北村君が何て言ってたかは教えてね!」


 香織は完全に面白がっている。口元に手を当てながら、ニヤニヤと笑う姿が腹立たしい。

 イラッとした遥は、香織の頬を全力で横に引っ張った。


「いひゃひゃひゃひゃ、いひゃい、いひゃい!」

「ニヤニヤしてるのはこの口か!」

「ひょめん!ひょめんっひぇ~」

「何語?」


 希美が冷静に突っ込みを入れると同時に、コートから一際大きなホイッスルの音が鳴り響く。その後すぐに、「終わりだー!」と叫ぶ先生の声がした。

 次は、遥たちのチームが試合に出る番だ。


「おーし、いっちょ暴れますかぁー!」


 香織の頬から手を話し、気合い十分に肩を回した。やる気?いいえ、殺る気です。

 遥の後ろで、引っ張られた頬を擦りながら「イエー!」と香織が叫ぶ。彼女も殺る気満々だ。


「あ、そうそう、遥」

「む?」


 コートに入ろうと足を踏み出しかけた遥を、希美が呼び止める。

 希美は腕を軽くストレッチしながら、遥の横に並んだ。


「さっきの話、皆川本人には絶対聞かないように」

「え?何で?」


 北村に聞いて分からなかったら、本人に聞こうと考えていた遥は、出鼻を挫かれた気分になる。

 皆川の事なのに、何故皆川に聞いてはいけないのかが解らない。

 本気で解っていない様子の遥に、希美は呆れた様にため息を吐いた。


「これ以上、傷を抉ってやるな」

「はい?」


 疑問符を浮かべた遥を無視して、「さぁ殺るぞー!」と希美はコートに入って行く。遥は慌ててそれを追いかけた。


「え、ちょっと待って!今のどういう意味!?」

「待たぬ!」

「えぇぇぇぇ!」


 他のチームメイト達は、既に試合前の挨拶のためにコートの中に整列している。

 遥も急いで整列すると、先生がピー、と力強く笛を吹き、両チームが「お願いします」と頭を下げた。


「よし行け遥!ジャンプボールだ!」

「えっ!?ちょ、荷が重い!」


 香織にグイグイと背中を押され、無理矢理ジャンプボールに駆り出される。


「え、マジでやるの?ねぇ!?」

「うん、マジ!」


 振り返ると、香織が良い笑顔で親指を立てていた。腹立つ。

 前を向くと、相手チームの背の高いバレー部所属の子が、ジャンプボールのために前に来て、遥を見てニコリと笑った。怖い。


「……やっぱ無理だろコレ!」

「遥ー、取られたら後で殴る!」

「イヤァァァァ希美様の鬼ぃぃぃぃ!!」


 喚く遥を前に、無情にもジャンプボール、もとい試合が始まった。



 結局、皆川の事について、詳しく聞く事は出来ず、体育の授業は終了してしまう。

 ちなみに、ジャンプボールは普通に相手チームに取られた。

 そして、公言していた通り、希美は遥を殴ってきた。マジで鬼である。





 * * * *





「……ねぇ、北村君」

「何だ」


 いつも通り、北村と二人で昼食を摂っている真っ最中。

 遥は、体育の時の話題を、早速北村に振ってみる事にした。


「皆川の事なんだけどさ」

「…………」


 皆川の名前を出した途端、北村が不機嫌そうな顔になり、むっつりと黙る。

 予想外の反応に、遥は話を続けて良いのか微妙に迷った。しかし、別に話を止められた訳でもないので、一応そのまま続ける事にする。


「何か、アイツが不憫とか何とか言われてたんだけど。何でだと思う?」


 疑問をぶつけ、遥は口の中におかずを放り込んだ。

 北村は不機嫌そうな顔のまま、ドスッと玉子焼きに箸を突き刺して食べる。

 モゴモゴと口を動かしながら、彼は箸を持っていない方の手を顎に当てた。


「……、分からん」


 ごくん、と口の中を空にしてから、北村はそう答える。


「そっかー、北村君も分からないかー」

「………………」


 残念そうに呟くと、北村が再びドスッとおかずに箸を突き刺した。無言なだけに、謎のプレッシャーを横から感じる。

 不機嫌オーラを全身で発している北村に、遥は首を傾げた。


「どうしたの?何で不機嫌?」


 北村は口を固く閉じ、むぐむぐとおかずを噛んでいる。

 口元が微妙に拗ねた様にへの字になっている気がするのは、気のせいだろうか。


「北村くーん?」

「…………」


 プイッ、と顔を反らされてしまった。その行動が最早拗ねた子供にしか見えなくて、思わず吹き出しそうになる。

 しかし、これ以上訳も分からないまま更に機嫌を損ねられたくはないので、すんでの所で何とか堪えた。


「北村君、言ってくれなきゃ解んないよー?」


 言いながら、遥は白米を口に運ぶ。言い方が完全に小さな子供に対するものになってしまったが、気にしない事にした。

 北村がチラリと遥を見る。眉が微妙に寄っていた。どう見ても、これは完全に拗ねている。判り易い北村の態度に、遥は口元を押さえて独り悶えた。何この人超可愛い。


「……よく分からんが、」

「うん?」


 ようやく口を開いた北村に、遥は平静を装った。

 口元がにやけているのを隠すために、おかずを口の中に突っ込み咀嚼する。


「何故か、もやもやする」

「……うん?」


 ずいぶん曖昧な言い方だ。

 北村はおかずを口にしながら、不思議そうに首を傾げだす。


「……、何故だ?」

「いや、聞かれても」


 北村本人が解っていないのに、遥に解る訳がない。

 しかし、一応何故なのか判断する手助けはする事にする。


「いつからモヤモヤするの?」

「…………」


 遥の質問に、北村はおかずを口へと運びながら顎に手を当て考え込んだ。


「……、多分、お前が、皆川の事、とか言ってから」

「……ほほーう?」


 難しい顔で、自信無さげに言う北村に、遥は意味ありげに頷く。

 それは、俗世間では一般的に言うアレではないのだろうか。と言うか、アレだったら良いな、と言う遥の願望だ。


「あのですね、北村君」

「何だ」


 北村は未だに首を傾げながら、白米を口に運ぶ。

 コホンと意味もなく咳払いし、遥は緩む頬に無理矢理力を入れ、出来るだけ真面目な顔を作った。


「それってさ、妬いてる?」

「……、焼く?何をだ」

「OK、そんなの想定内だ!」


 何とも予想通りな反応をして下さった北村に、芝居がかった様子で額に片手を当てつつ肩をくすめる。

 北村はそんな遥に不審そうな視線を向けつつ、おかずを口にした。


「あえて言うなら、やきもちかな!」

「……、焼き餅?食べ物のか?」

「そんな事言う子はハグしちゃうぞー」


 真顔で首を傾げた北村に向かって、ハハハハと嘘臭い笑い声を上げながらバッと両手を広げる。

 瞬時に座ったまま後退りされた。北村はいらん所ばかり器用だと思う。

 遥は思わずため息を吐いた。

 やはり、北村が妬いてくれていると言うのは、遥の願望にすぎなかったのかも知れない。


「そうじゃなくてさ、嫉妬してくれてるのかなー、と思った訳ですよ」


 半ば諦めつつも、一応説明してみる。

 ふぅ、と息を吐き、おかずを噛み切らずそのまま口に突っ込んだら、大き過ぎて少し辛かった。

 懸命に咀嚼しながらチラリと北村に視線を向ける。

 彼は顎に手を当てた体勢で固まり、何かを考え込んでいた。


「……嫉妬」


 ボソリとそれだけ呟いて、北村はまた考えに没頭し始める。

 遥は取り敢えず弁当をもぐもぐ食べながら、そんな北村をひたすら眺めた。

 伏せられた目を縁取る睫毛は、言うほど長くはない。鼻は高いと言うか、形が良いと思う。そんな風に、北村が固まっているのを良い事に、彼をパーツごとにじっくりと観察した。

 出た結論は、「やっぱ超好き」とか、そんな感じだ。


「……そうか、嫉妬か」


 考えがまとまったのか、北村が納得した様に頷いた。

 何度も頷きながら白米を食べ始めた北村の顔を、遥は覗き込む。


「北村君?」

「!」


 遥がいる事など最初から知っていた筈なのに、北村は大きく肩を跳ねさせる。

 何故そんなに驚かれるのか、よく解らない。普通に声をかけただけなのだが。


「北村君」


 もう一度呼ぶと、今度は顔を反らされた。

 北村は、そのまま弁当を食べ始める。

 本当に、一体何なのだろうか。


「どう?嫉妬、してくれてたりする?」


 態度のおかしい北村に、これはもしやと再び微妙に期待を込めながら聞いてみる。

 嫉妬してくれているのならば、少なくとも好意的に思われてはいる筈だ。

 それならば、北村が遥の気持ちを理解し、信じてくれる可能性も上がるのではないだろうか。


「…………」


 しかし、返って来たのは無言だった。まさか、あまりにしつこく聞いて来るから鬱陶しくなったとか、そう言うパターンだろうか。さすがに、それはキツい。


「えーと、あの、ごめん、ね…?」


 一先ず、謝ってみた。


「……何故謝る」


 北村はこちらを向かないまま、そう聞いてくる。

 遥は弁当箱の中のミニトマトを、箸でつついて転がした。


「いや、しつこいから怒ったのかな、と……」

「……怒っては、いない」


 否定の言葉に、遥は少なからず安堵する。

 しかし、北村は未だ顔を反らしたままだ。

 顔が見たい。


「じゃあ、こっち向いて」

「!」


 遥のお願いに、北村は何故か小さく肩を跳ねさせた。しかも、なかなかこちらを向こうとしない。

 遥の中に、言い知れない寂しさが生じた。


「……北村君」


 思っていたより、か細い声が出る。狙っていた訳ではないのだが、今にも泣き出しそうな声だな、と自分で思った。

 その声に反応したのか、北村が勢い良くこちらを向く。


「どうした!?」

「えっ」


 あまりの勢いに、思わず驚いてしまった。

 北村は焦った様な、困った様な、心配そうな、どれともつかない表情を浮かべている。

 キョトンとした顔で見つめると、彼は不思議そうに首を傾げた。


「……何だ、何でもないのか?」

「え?あ、うーん、敢えて言うなら、北村君がこっち向いてくれなくて、寂しかっただけ」


 遥の言った事に、北村はう、と言葉を詰まらせる。

 じわりと、彼の頬が少しだけ赤く染まった。


「……いや、その……、すまん」


 妙に素直に謝られる。

 頬を赤くさせてしゅんとしている北村に、遥は無意識の内に笑ってしまった。


「ふはっ。その可愛さに免じて、許してしんぜよう」

「……嬉しくない」

「何ですと」


 北村が瞬く間に仏頂面になる。言い方が悪かったのだろうか。


「……『可愛い』は、嬉しくない」


 拗ねた様に言う北村に、遥は吹き出しそうになった。

 だからそう言うのが可愛いんだっつーの!と心の中で叫ぶ。

 しかし、失敗した。男の人が可愛いと言われて嬉しいと感じる事など、滅多にないと分かっていたのに。


「ごめんね。でも、可愛い北村君も、好きだよ」

「!」


 謝るついでにノリで告白してみると、カッ、と北村の顔が一気に赤く染まった。

 その反応を見て、遥はおや、と思う。

 遥の告白に、北村が照れている。

 これはもしや、告白を信じてくれているのではないのだろうか。

 北村はプイッ、と再び遥から顔を反らしてしまった。

 今回は、完全にただの照れ隠しだと判るので、寂しく感じたりはしない。

 向こうを向いたまま、無言で残りの弁当を食べる北村が堪らなく愛しい。


「……好き、だよ」


 自分にしか聞こえない程小さな声で呟く。

 今日も北村と一緒に帰る事が出来たら良いなと思いながら、遥も弁当の中身を片付けにかかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ