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あるオタクの恋愛  作者: 穹音みどり
4/5

第4話

「じゃあ、楽しい話をお願いしようかな。」


「相変わらず受け身ですねー、相崎さんは。 」


「うん、僕、あまり女の子と話したこと無いから、なに話していいか分からないし、」


「じゃあ、相崎さんの趣味を教えてください。 そこから決めましょう。」



彼女はそんな事を言うと、

僕の方をじーっと見てくる。



「そんな事言われてもなぁ……小説とか、ゲームとか…後は…なんだろう、喫茶店めぐり?」



「ほう、相崎さんは私というものがありながら他の喫茶店でも女の子とイチャイチャしてるんですね?」



「その言い方はやめてもらえるかな。 僕はただ癒されたいだけなんだから。」



「ほう……というと?」



「僕の心は繊細だからね。 普通のコミュニケーションだと、気を使って疲れちゃう。だから、こういう喫茶店に通って、気を使ってもらえる環境で、初めて安心してコミュニケーションが取れるだろ。 要するに、僕は居心地のいい空間を求めているんだ。」



コレは僕の勝手な理論。

臆病者の、勝手な理論だ。




僕は臆病で、人見知りで、対人恐怖のきらいがあるから、

好意を得られると確信が得られる所じゃないと、安心できない。




こんな事を素直に自嘲して言った所で、彼女を悪い雰囲気に

してしまうだけなのに、僕は何をしているんだろう。



「相崎さん、なんだかネクラの発想ですよ。」


「僕は人見知りなんだ。仕方が無いだろ。」



社会不適合者までとは言わないけれど、

人間の社会的定義が、「社会的、集団的動物」なのだとしたら、

僕は間違いなく社会不適合者だ。



事実として、僕の目には集団的な結びつきが強くなりすぎた結果、

「ストレス社会」と呼ばれる状態が起こっているようにしか、見えないのだから。




「まあ、相崎さんが人見知りなのは分かってますけど、

この世の中も捨てたものじゃないですよ、きっと。」



彼女はそう言ってほほ笑む。

そこに僕は彼女に一種のアニマを見出した。



「でも、君の前では素直になれるじゃないか。」



そう言ってごまかしてみるけれど、彼女は

まっすぐと、つぶらな目で否定する。



「もし私がメイド喫茶のメイドじゃなかったとしても、、、ですか?」



「うっ……」



「もう、相崎さんは、普通に優しい人なんですから、そんな簡単に嫌われたり、しないと思いますよ。」



「うん、そうだと良いんだけどね。」



心が優しければ、それだけでみんなと仲良くなれる世界の事を、

きっとユートピアって言うんだろう。 しかし、トマス・モアによると

ユートピアとは「どこにもない世界」の事を言うらしい。



なぜ、心が優しくてもみんなと仲良くする事が出来ないのかというと、

きっと感情というものが、相対的だからなんだと思う。



今まで彼女を大切にしてきた旦那が、

結婚したとたんに自分のものになったと

錯覚して浮気に走るのと同じ理屈だ。



人間は近いものほど粗末にすると言ったのは、

確かユダヤ人だっただろうか。



人はスキン・ヘッドの強面の人には

どうしても弱腰になって気を使ってしまうものだし、

自分に都合のいい人には、その都度譲歩を強要する。



まあ、とにかくこの世界は上手く行かないように、

出来ているのだろう。



まあ、コレについては、おそらく感情という基準の弊害なのだろうけれども。



「むー、相崎さん、諦めてる。」



「あはは、君には本当に隠し事が出来ないみたいだね。」



僕がこの喫茶店に来るのは、おそらく10回ほどになるけれど、

彼女に隠し事が出来た事は、一度もない。



敵わないなぁ。



そんな事を思っていると、

彼女から衝撃的な発言が出た。



「じゃあ、私が友達になってあげましょうか?」



「……はい?」



「相崎さん優しいし、相崎さんが良いなら、私、相崎さんの友達になら、なっても良いかなって。」



「……いや、君、メイドでしょ。 客を贔屓するような事は、しちゃいけないんじゃないの?」



僕に友達?

それに、年も分からない女の子と?



はは、冗談はやめてくれ。



最近の女の子はやたらと貞操観念の無さがニュースになっていたけれど、

まさか僕がそれを経験する事になるだなんて。



「相崎さんがこのメイド喫茶に通ってるのは、10回目ですよね」



「うん、そうなるね。」



「私とおしゃべりしたいから、通ってくれてるんですよね?」



「ああ、そうだとも。」



「じゃあ、良いじゃないですか。」



僕は自分の手に負えないものは、

背負い込まない主義なんだ。



だけど、この子は僕と一緒にお話をして、

僕の自己中心的な話にイヤイヤ付き合って、

それでも、僕と友達になってくれると言うのだろうか。



「……初めての友達なんだ。」


「えっ…」



驚いた彼女にもう一度だけ、言う。

照れくさいから、もう1度だけしか言わないけど。



「だから、その、、、君が初めての友達なんだ。」




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