第3話
別に僕はこの世界で嫌な思いをしたと言うわけではないのだと思う。
親も不通に帰ってくるし、夫婦仲が悪いと言うわけでもない。
かといって、貧乏だというわけでもない。
しかし、だからと言って幸せだと言う事ではない。
不幸だから、ニヒリズムに走るのではなくて、
幸せじゃないから、ニヒリズムに走るのである。
この世界は、全てコミュニケーションで構築されていて、
僕がこの世界で生きているうちは、コミュニケーションという監獄からは
逃れられないということくらいは、僕でも分かる。
そしてそのコミュニケーションが疲れるから、
こうしたひねくれた性格になってしまったのだろう。
それでいて、孤独はやっぱり辛いし、愛されていたいと思うから、
二律背反が起こって、その結果、こうして根暗なオタクになってしまっている。
ヘーゲル哲学で言う、テーゼとアンチテーゼが
ガキン、とぶつかっても、その上の概念である
ジンテーゼが見つかる事はない。
事実として、自我を殺して
コミュニケーションをして、内面を取り繕った所で、
僕の理想とする関係は構築されなかった。
しいて言うなれば、小説やアニメの世界など、
自分の作り出した理想的世界にのめり込む事
こそがジンテーゼとでもいうのかもしれない。
だとしたら、僕のオタクは
きっと最先端、他の人より一つ上の次元に
言っている事になるが…(笑)
とは言っても寂しさはなくならない。
そして、僕は絶望的なまでに
不器用である。
どのくらい不器用なのかというと、
コミュニケーションを購入する事でしか
安心して話す事が出来ないほどに、
「ご主人様ぁ、ジュース、持ってきましたよぉ。」
そんな事を考えていると、
メイドさんが飲み物を持ってくる。
彼女が持ってきたのは、
ミルクティだった。
「君はそれよかったの? もう少し甘い物の方が良かったんじゃないの?」
「えへへ、ご主人様は優しいですねー、まるで私の方が気を使われているみたいです。」
「いや、そんなこと無いよ。…」
僕は変な性癖を持ってる。
女の子が幸せになる顔が好きなのである。
女の子が本心から喜ぶ時、
僕もその子と同化したみたいになって、
ある種の幸せを感じる。
「えへへ、さぁ、ご主人さまは、わたしとの会話をご注文との事なので、
一緒におしゃべりタイムです。」
彼女の笑顔に不覚にもときめいてしまった。