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ボス戦後の三人の話  作者: banff
2/2

ボス戦を終えた勇者のその後

閲覧していただきありがとうございます。

鍬?の勇者の成り立ちからスタートです。




 田舎の村で両親と兄弟4人と一緒に暮らしていた。

女の子たちの手縫いや料理といったことよりも、兄たちと森に探検しに行ったり、自作の弓矢で鳥を狩ったり、近所の男子友達と魚を釣ったりして、楽しい子供時代を過ごしていた。母親に「あんたは男の子みたいだね。」と言われた。格好も動きやすい男の子の服で、しょっちゅう男の子と間違われた。

 

 

 

10歳になった時、儀礼で少し離れた神殿に行った。

そこで、神父さんに祈られて、伝説の聖剣に触るのがここら辺の儀礼らしい。しかし、そこには人だかりができて列になっていた。

 

「どうしたの?」

「ああ、聖女である王女様が魔王に誘拐されてから、唯一魔王を倒せる武器と言われる聖剣を抜こうと人だかりができているんだ。抜けた者を勇者というらしい。といっても、伝説だけどな。」

 

神殿の中央に台座に刺さった立派な剣があった。

それを抜こうと躍起になっている男たちが次々と台座の前に立った。しかし、台座は抜けはしない。

 

「せっかくきたんだ。とりあえず儀礼は済ませよう。」

 

神父さんの祈りの後、列に並んだ。前の方で、村の男子友達がついでに抜こうとしたがびくともしない。

 

私の番になった。儀礼通り、剣に触れた。

 

・・・・・・ん?

 

「「「「あっ。」」」」

 

「・・・・・抜けっちゃった・・。」

 

唖然とする神父さん、列に並んだ男たち、友達、父親。

剣を頼りなさそうに持つ私がいた。

 

 

 

騎士たちが待ってましたっと言わんばかりにいきなり現れて、父親と離され、そのまま王城に連れてかれた。王室の間で王様に謁見した。

 

「・・そちが聖剣に認められた勇者か・・・。」


王様は怪訝そうに尋ねてくる。


「はぁ・・。まぁ・・・。」

「こらっ!!王様に向かってその口のききか・・」

「よい。」

 

王様はそういうと、部下に命じ、何か物を持って来させた。

 

立派な盾と立派な服と・・・お金の入った袋?

 

「王室に伝わる勇者の盾と勇者の服、そして旅の資金だ。

 それで余の娘・聖女をあの魔王から救出してきておくれ。」

 

そうして、聖女である王女様を救出するための打倒・魔王の旅がいきなり始まった。城から出る際に、偉そうなおっさんから小声でささやかれた。


「お前の村には見張りをたてた。村に戻っても無駄だ。もし任務から逃げてみろ。・・・どうなるかはわかっているだろうな。王女様を助け出してくるまで、戻ってくるなっ。失敗も許さん。

 わかったか。小僧!!」

 

 

・・・脅しだった。拒否も失敗もなしということか。

それに小僧か・・・間違われているな。けど、男の子の方が旅がしやすいだろう。そのままでいくか。

 

 

 

 それからの旅は大変だった。村も出たことがない子供がいきなり魔王を倒してこいと言われるんだ。資金も底をつく。幸い、剣と盾があったので、魔物を倒して依頼料やドロップアイテムをお金にしていったからなんとかなった。

子供の一人旅ということで親切にしてくれる人、騙したりどこかに売り飛ばそうとする人、そして、見て見ぬフリをしていく人がいた。

 

  

それでも助けてくれた人たちがいたことに感謝をし、情報を集め、あらゆる場所に探しにいき、そこのボスを倒しては、新たな情報やアイテムを集めて、出発から1年半後、とうとう魔王城にたどり着いた。

 

魔物が多くいる城の中を進み、大きな扉を開けると、大きくて綺麗な全身黒っぽい男性と囚われの同い年の金髪の可愛い女の子がいた。

  

・・・あれが魔王で、王女様か。

 

剣と盾を構える。

 

「久しぶりの人間の侵入者と思いきや、まさかこんな小僧とは・・。

 ・・・・・ふっはははは!!聖女である王女様を救うために用意したのが、こんな小僧か!!人間は臆病者だらけだなー!!」

 

・・・・魔王に同感だった。けれど、

  

「魔王、王女様を返してもらう!!」

 

そうじゃなきゃ、僕の安全はない!!

 

「・・くっくっく、よかろう、小僧。

 ここまで来たご褒美だ。相手をしてやる。かかってこいっ!!!」

 

 

魔王との戦闘が始まった。

なんどもひやりとしたところもあったが、なんとか戦っている。

けれど、致命傷を与えることは難しい・・。

となると、王女様を救出し、聖なる力で封印してもらうしかない・・。

 

ボーガンを取り出し、囚われている王女様の禍々しい蔓に射った。

その弓矢は、聖なる矢と言われるアイテムでこれまでの旅で得たものだ。

 

「なにっ!!?」


弓矢の威力に魔王は驚いたらしい。

蔓が壊れたと同時に王女様が出て来て、戸惑った魔王に隙ができた。

 

今だっ!!!

 

「ぐわーー!!」

 

剣で魔王に切りつけて、大怪我を負わせた。

魔王は苦しそうだが、すぐに魔法を僕に放ってきた。

それを切って消す。


「・・はぁ、はぁ・・さっきの弓矢といい、その剣といい、なんなんだ・・?」


魔王は苦々しく言い、さらに攻撃をしかけようとした。


そうはさせないっ!!

 

魔王に切り掛かり、牽制する。ぎりぎりと睨み合う。

 

「勇者様。時間稼ぎをありがとう。」

「なにっ!?なんだ!?これは!!?」

 

魔王の周りに光り輝く魔法陣が現れた。

王女様が何か唱えている。

 

「私を2年も捕らえた罰だ・・・地の底に落ちるがいい。」


王女様はそう冷たく言うと、魔法陣が発動して、魔王が魔法陣の中に落ちていく。

 

「ぐわーーーーぁぁぁぁ!!!」

 

魔王はいなくなった。あたりは静けさに包まれた。

王女様はふぅーっとため息をついて、僕に微笑んできた。

 

「勇者様、お助けいただきありがとうございます。私は・・。」

「話は後。今は早く魔王城から抜け出して、王城に向かおう。」

「・・・ええ。魔王はいなくなっても、ここには残党がまだいますものね。」

 

王女様は納得してくれて、すぐに帰路についた。

 

 

・・・・やっとだっ。やっと帰れる・・。

 

 

 

 

 

 

「おお!!我が娘よ!!」

「お父様!!」

 

王城に帰った僕らは、すぐに王室の間に連れてかれて、王室の親子の対面を果たした。

 

・・これで、いいだろう。僕は村に帰ろう・・。

 

 

「勇者様が私を魔王から助け出してくれたのよ。」


王女様はそう言い、僕を輝かしい目で見つめた。


「おお!そうだったのか!もう2年も近く経つから、どうなっていたかと思っていたが・・・・よく、やったな。勇者よ。」

「はい。」

「それでは宴を開こう!!娘の帰還と、勇者の健闘を祝して。」

「え?・・いえ。その。」

 

早く村に帰りたい僕の意見は歓喜の声にかき消された。

 

 

 


宴は始まったが、正直、僕は馴染まなかった。

これまでの村での生活や、旅での生活とかけ離れすぎて戸惑った。

 

僕は一人、バルコニーに出た。

そしたら、着飾った王女様が来た。月明かりに照らされて、聖女様の名に相応しい様だった。僕は膝を折って、お辞儀をした。


「王女様・・。」

「やめてよ。ここに帰ってくるまでずっと一緒に旅をしてきたじゃない。魔物や悪い大人からなんども守ってくれた・・。それなのに、なんでそんなに他人行事なの?お金を浮かせるためにも一緒の部屋に泊まりましょうと言っても、私は高級な部屋を用意して、あなたは別の部屋だし・・。」

「正直言うと、王女様とどう接すればいいのか・・無礼のないようにするには、僕は礼儀を知りません・・・。」

「あなたは勇者よ。私を助けてくれた人よ!命の恩人に礼儀なんて求めないわ!」

 

その言葉に少し驚いたが、安心した。

 

「・・・そうなのか。わかった。ありがとう。」

「!?・・ふっふ、やっと笑ってくれたわね。勇者様。」


王女様にも笑みがこぼれる。

旅の最中も思ったが、笑うとさらに美人だなと思う。


「笑う・・暇がなかったから。王女様が無事にここに戻ってこれて安心している。」


僕がそう言うと、王女様は次に泣きそうになって、僕の手を両手で握り、顔近くに持って行き、祈るようにした。


「・・・私のために、勇者様にはずっと辛い思いをさせてしまった。・・本当にありがとう。」


王女様の本心からの言葉だと思った。

それから2人で話をして過ごした。宴よりも心休まるものだった。

 

 

 

 

 


王女様と別れ、一人廊下を歩いている時、気配がして立ち止まった。

手招きをされて、一つの部屋に入った。そこには、騎士たちと脅したおっさんがいた。暗い顔をしている。嫌な予感がする。

 

「・・約束通り、王女様を助けてきました。もう村に帰っていいでしょう?」


騎士たちはさらに暗い顔をした。


・・・・なんだ・・?


脅したおっさんが静かに口を開いた。

 

「お前の村は・・・もう、ない。」

 

・・・・・・・・・。

 

「魔物の集団に襲われた。命からがら逃げた者もいると思うが、村は跡形もなく被害にあった・・。あの村の近くにいた我々の仲間も行方不明だ・・・。」

 

そう騎士が口を開いた。

僕は見なければ判断できないと思った。この人たちは脅したおっさん側だ。嘘をついてる・・・そう思いたかった・・。

 

「・・・・村に行ってみたい・・。すぐに。」

「わかった。明日の早朝に出れるように手配をする。」

 

 

 

 

 

村があった場所は、ただの荒野になっていた。

所々に村の形跡がある。そして、魔物に襲われた形跡も・・・。

 

「・・・すまないっ。お前が王女様を救出している間、我々はお前の故郷を守りきれなかったっ。」

 

呆然と立つ僕の後ろから騎士が声をかけてきた。

声からして、騎士も泣いている・・。

 

 つまり、そういうことなんだろう・・。

王女様の救出のために、知らずのうちに、村を、友達を、家族を見殺しにしてしまった。守れるだけの力があったにもかかわらずに・・。

 

聖剣をとったから、その代償に・・・?

 

いや、聖剣がなければ、僕も家族と殺されていたのだろう。

 

聖剣か・・・。そこから始まったのだったな・・。

  

「脅したおっさん。」

「・・この国の宰相だが、確かに覚えがある名だ・・。」

「神殿に行きたい。聖剣があった神殿に・・・。」



 

 

 

一度っきりしか行ったことがなかったから、正確な位置がわからなかった。神殿もボロボロの廃墟状態だった。ここにも魔物が来たらしい。神殿内に入っていく。

 

「何をする気だ・・・?」

 

瓦礫だらけの神殿の中央、そこにあった光り輝く台座。


僕は聖剣を取り出し、台座に突き刺す。


ズゴっ。


聖剣は綺麗に台座に突き刺さった。

大人たちは驚いた顔をしていた。僕は彼らに静かに言った。


「僕の役目は終わった・・・。もう、これは必要じゃない・・。」


 








王室の間に戻って来た。

  

王様と王女様が楽しそうに会話していた。

 

「おお!勇者よ!待っていたぞ!勲章と貴族の地位を与える!そして、何か褒美を与えよう!なんでも言うが良い!」


王様は嬉しそうに言う。王女様は目を輝かせてこちらを見ている。


僕は膝を折ってお辞儀したまま、願いを言った。

 

「では、勲章と貴族入りを辞退し、一人分の一軒の家と農地をください。そして、その場所を誰にも言わずにおいてください。」

 

周りにざわめきが走った。

 

「・・・・それが褒美だと?物ならどうだ?宝石など・・。」

「いりません。」

「・・・・・そうか・・・。ならば、せめて、生活の保障を立てさせてくれ。」

「わかりました・・。盾と服をお返しします。では、これにて。」

 

そう言うと、勇者は広間を去った。

 

王女様は驚いて泣きそうになり、追いかけようとしたが、止められた。

王様に首を横に振られ、勇者がいなくなるまで、その後をずっと見ていた。

 


 

王城の門の前に王室ご用達ではない普通の馬車と普段着を着た一緒に村に行った騎士たちがいた。そして、宰相という脅したおっさんが立っている。

 

「ご用意していただき、ありがとうございます。」

「・・・本当にいいのか?これで。」

「はい。一瞬、旅を続けることもいいと思いましたが、一旦、落ち着いた生活をしたいです。いきなり始まった旅だったので・・・。」

「・・・・帰る場所がないお前が戻ってきたら、私の養子の案も考えていた。娘としてな・・。」

 

驚いて、宰相を見上げた。

宰相は小難しい笑みを浮かべていた。

 

「調べたら、知った。見かけで判断してしまったことを詫びよう。あのような理不尽な旅にもかかわらず、お前は完遂させた。その根性と実行力は好ましい。が、もうお前の人生を強制させない・・。いつでもサインをする用意はしている。その気になったら、尋ねに来い。」

「われわ・・俺らが定住地の場所まで連れていくし、生活の保障をする。場所を知っている人は王様、宰相様、そして、俺らの5人だけだ。」

「わかった。ありがとう。」

 

 

 

 

 

 

 

あれから、4年半。

 

僕は十分な家と農地で自然の脅威や作物の豊かさを感じつつ日々を暮らしていた。周りに農家がいないため、一人の時間が確保できた。

いきなり始まった魔物との戦いだらけの旅の疲労や、帰る場所がなくなったショックから癒えるには十分だった。

 

静かな一人暮らしだが、ずっと一人ではなかった。普段着を着た騎士たちがうまい食材や必要物資と共に頻繁に遊びにきて、畑仕事の手伝いや剣の稽古やボードゲームをして楽しんだ。たまに、宰相の家に招かれて、食事や会話をした。服を何度かもらったが、女の子用なので農作業には使えない。宰相は養子の件はまだ諦めてないらしい。養子にはなる気はないけど、宰相のことは最初と違って、今はそれほど嫌いじゃない。時折冷徹なニヒルなおっさんだ。


願い通りの僕の望んだ平穏な生活だっ。

 

 

 

 

そうして、今年も畑を耕す時期がきた。

 

鍬で畑を耕していた時、見覚えのある男性が突如現れた。


「勇者よっ!!」


男性は元気よく言ったのに、その後しばらく呆然としていた。


「・・勇者なのか・・・?」

「ん?あ、魔王。」

 

綺麗な男性をよく見れば、魔王だ。

 

・・封印とけたんだ。

致命傷を負わせてない曖昧な封印だったもんな。

復讐かな?・・・封印した相手にはそうだよね。

  

手に持っている鍬を地面に突き刺し、首にかけている手ぬぐいで汗を拭く。

 

警戒したところで、聖剣を持たない僕に勝ち目がない。

話を続けることにした。

  

「封印がとけたんだ・・。」

「ああ・・・勇者よ。お前はなぜそのようなことをしている?」

「自ら望んで。それに元勇者だから。今は農民。」

 

魔王は戸惑っているのがわかる。

 

たぶん自分を倒した勇者が農民になっているのが許せないのだろう。

 

戸惑ったままの魔王が体の方に目線が行った。

何度も上下に目線を動かせる。

  

「元勇者よ・・・お前は女なのか?」

「ああ。そうだ。」

 

もう隠すことではないので、あっさりと答えた。

頭を抱えて悩む魔王。  

  

「なぜ勇者になったんだ!?」

「聖剣に選ばれて王様に命じられたから、仕方なく。」

  

そう言うと、魔王は哀れそうな目で僕を見た。

 

前も思ったが、意外に魔王は同感を得やすい・・。

 

魔王は僕の周りを見回した。 

 

「では、あの忌々しい剣は?」


「聖剣のこと?あれは台座に戻した。聖剣は僕の持ち物じゃないから、役目を終えたら手放すべきだろ。」

 

  

魔王は意気消沈した。

しばらくした後、僕を見上げた。

じっと見る目が熱を帯びて、段々に頬が赤くなっていく。

・・・なんだ?

殺気ではないから、殺すわけではなさそうだ。  

 

そして、魔王は悪い笑みを浮かべて始めた。


  

  

 

  

「魔王めっ!!勇者様から離れろ!!」

 

騎士たちが集まった。見覚えのない者だらけだから、王様か宰相のおっさんが約束をやぶってバラしたな・・。まあ、非常事態だから仕方ないか。

 

魔王が笑い出して叫んだ。

 

「・・ふ・・ふっはっはっはっはっは!!人間たちよ!お前らの勇者は我が一生支配する!」

 

・・・はあ!?僕を支配する!!?

僕はこの平穏な生活が好きなんだ!!邪魔するな!!

 

僕はとっさに鍬を手にとって背を向けている魔王に思いっきり叩きつけた。

 

「せいぜい絶望を味わうがいい!!・・ぐはっ!!」

  

魔王は倒れながら顔を捻って見る。その顔は驚きでいっぱいだ。

 

 平穏な生活を脅かす者は誰だろうと許さん!! 

 

僕は真顔のまま、また鍬を天高々に持ち上げ、倒れつつある魔王に対して振り下ろした。


「ぐへっ!!」

 

 

・・・・倒れたか。ふんっ。

 

 


 

 

「・・勇者・・・様・・・?」


魔王が鍬を持った元勇者に倒されて唖然とする騎士のうちの一人が前に出てきてそう呟いた。


金髪と青い瞳と面影が少しある顔、たぶん・・


「・・・王・・女様・・・?」


よく見ると騎士のうちでもっとも豪華な服を着ているハスキー声の美人だった。

その美人は唖然としたまま頷いた。

 

「・・・・やはり、勇者様・・ですか・・。」

「お久しぶりです。王女様もご立派になられて。騎士の格好もお似合いです。」


僕は昔やったように膝を折ってお辞儀をした。

王女様はそれを止めるように僕の肩に手を当ててしゃがんできた。 


「やめてくれ。俺は君から助けてもらってばかりの人間だ・・。」

「しかし・・。」

「言っただろ。命の恩人に礼儀は求めないと・・。忘れたのか?」

「・・・いえ。覚えています。」


僕は王女様に促されるように立ち上がった。

王女様は僕の体を魔王のように目線を上下にして見た。


「・・・・女の子・・だったのですか・・?」


顔を見上げると、騎士たちのように鍛えられた体を豪華な服で包んだ美人な王女様が驚いていた。同時に、失望した顔があった。

 

「はい。そうです。黙っていて申し訳ございませんでした。」

 

僕は頭を下げた。


自分を救ってくれた勇者が実は女の子だということを王女様に黙っていたことは、こういう顔をされるとわかっていたから。

だから、王女様とは会うべきじゃないと思っていた・・・。


王女様はハッとして、慌てていた。


「い、いや、謝らなくていい!むしろ、女の子の身で魔王や魔物たちと戦って、傷ついて、辛い思いをさせて、今では土だらけの生活をさせてしまっている・・こっちが謝らなくてはならないっ。」


王女様は泣き出しそうだった。

その顔を見て、責められないことに安堵し、僕は王女様に微笑んだ。

 

「いえ、僕は今の平穏な生活がいいのです。」


僕の顔を見た王女様は、目を見開いてみるみるうちに顔が赤くなった。

さっきの魔王みたいだ。


・・・・なんだ?

 

 

 

 

「殿下!ここにいては危険です。いつ魔王とその部下たちが襲ってくるか・・。」

 

騎士の一人がそう叫んだ。

倒れた魔王はいなくなっていた。魔王の仲間が連れ去ったらしい。

 

「しかし、勇者様が・・。」

「僕は大丈夫だから、聖女様は安全なところに逃げてください。」

 

確か、王城の中に聖なる間があって、そこなら魔王も来ないはずだ。

聖女様を隠すにはもってこいの場所だ。

 

渋る王女様に僕は逃げるように促す。

王女様は僕をじっと見て、手を引っ張った。僕はバランスを失い、王女様の胸に倒れこんだ。

 

「ダメだっ!!こんな勇者様を一人にしておけないっ!!」


僕よりはるかに大きい王女様は、僕を抱き込んだ。

 

王女様、胸板で僕が圧迫されるっ!!

 

・・・え?胸板? 王 女 様?・・・王・・女?・・様・・・

 

戸惑ったままの僕をよそに、王女様の命令で僕までもが王城に避難することが決定していた。

 

「さあ、勇者様、王城に避難を!!」


周りの騎士たちに促される。

僕の手を王女様の大きな手で包まれ、軽く引っ張られる。

 

「勇者様。さあ、行こう。」

 

 

・・・ああ 僕の平穏な生活がっ・・・。

 

 

 




 

元勇者の平穏な生活がここに終止符された!!





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