ボス戦に敗れた魔王のその後
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封印されていた魔王の視点です。
不毛の地の底から一人の男が這い上がってきた。
「ったく、封印の解けるのに手間がとった・・。」
「魔王様・・。お待ちしておりました。」
黒髪の魅力的な男性が文句を言っている。
その傍らにすぐさま執事風の男性が立った。
「あれから、何年経った?」
「4年半と。」
「っち。あんな子供相手に時間を取られすぎた・・。」
魅力的な外見を持った魔王は舌打ちをした。
・・我を封印ができる聖なる力を持つ人間の王女を攫ったのはいいが、女の子に手を出すわけにもいかず、人間が我への対抗手段をなくせばいいと思い、王女を幽閉していた。
そこへ現れたのが、勇者という小僧。剣と盾を持って我に戦いを挑んできた。我が油断した隙に攻撃され、弱ったところで、勇者に助け出された王女が我を封印した。
・・ただ、あんな子供の封印が永遠に続くとは思うな、人間どもめ。
「人間よ。そして、忌々しい王女と生意気な小僧よ。見ているがいい・・・くっくっくっく。」
「久しいな・・。人間の王よ。あの忌々しい勇者と王女はどこにいる・・・・?」
封印が解けて、我はすぐに行動に移った。
まずは、人間の王城へ。
移動魔法が使える我は、王室の間に急に現れて人間の王と対峙する。その時も封印された嫌がらせとして黒煙を焚き、絨毯やカーテンに煤をつけ、国宝品を登場の波動で破壊した。さらに我が大きく見せるようにするなど魔王らしい演出をする。
王と近衛兵は我の演出に怯えている・・・っくっくっく。
「勇者はここにはいないっ。こ、この地図で書かれた場所にいる。」
そう言いながら王は震える手で地図を出した。
・・・すぐに居場所を吐くとは、弱き王だな・・。
「ならば、勇者を倒してから王女を攫いに来よう。さすれば、人間に希望はなくなる・・・ふっはっはっはっはーーー!!!」
人間どもにさらなる恐怖を植えつけるため、黒煙や雷を出して魔王らしい演出をし、我は地図に書かれた場所へ、勇者の元へ移動魔法を使用する。
「勇者よっ!!」
登場と同時に雷で気絶させてから、勇者をボコボコに・・・・
・・・・え?
なんだ、ここは?
何か変だ・・。土と一軒の小さい家と緑しかないじゃないか・・。
土がきれいに列に盛られている中央に人間が一人立っていた。
「・・勇者なのか・・・?」
「ん?あ、魔王。」
どうやら、この土にまみれている小柄な人間は勇者らしい。
手に持っている鍬を地面に突き刺し、首にかけている手ぬぐいで汗を拭く様は見覚えがある。
前は、鍬の代わりに剣、手ぬぐいの代わりに盾、作業着の代わりに勇者の服だったが・・。
けれど、なぜ勇者が農民のようなことをしている!?
「封印がとけたんだ・・。」
「ああ・・・勇者よ。お前はなぜそのようなことをしている?」
「自ら望んで。それに元勇者だから。今は農民。」
なにっ!!?もう勇者じゃないのか!!?
そして、なんであっけらかんとしている!?
・・・ん?この声はなんだ?
小柄な体型も部分的に凹凸がある。
・・・いや、まさか・・・
「元勇者よ・・・お前は女なのか?」
「ああ。そうだ。」
なにーーーっ!!?
つまり、我は小娘2人に負けたというのかっ!!?
それも、この肩透かしのような対応はなんなんだ!?
それでも勇者かっ!!!
「なぜそんなあっけらかんで勇者になったんだ!?」
「聖剣に選ばれて王様に命じられたから、仕方なく。」
・・・勇者本人は戦う気がなかったと・・。
「では、あの忌々しい剣は?」
「聖剣のこと?あれは台座に戻した。聖剣は僕の持ち物じゃないから、役目を終えたら手放すべきだろ。」
魔王は意気消沈した。
聖剣もなく戦う気もない元勇者の女など、我の敵ではない。
・・・我の復讐計画が・・、台無しに・・・、
・・いや、それでも、元勇者がいなくなれば、人間たちに絶望を与えられる。
魔王は元勇者の女をよく見る。
・・・なんだ、土まみれで地味だけど、可憐な感じだ。
あの金髪の王女は綺麗っちゃ綺麗だったが、大きくなったら薔薇や百合が似合う大味な美女になるのだろうな。正直、我の趣味じゃない。
それよりも鈴蘭などのシンプルな花が好きなのだ。女性の好みもそうだ。小柄で華奢で可憐なのがタイプだ。
つまり、元勇者はドストライクだ。
けど、元勇者を消さなければいけない・・。
倒されたとはいえ、好みを消すのか・・・う〜〜ん。
そうだ!勇者が人間界にいさせなければいいのだ!
目を離すとこの勇者はどこにいくか分からなそうだからな・・つまり、我の側にいさせればいい。
・・・そして、一生可愛がればいい・・・。
一石二鳥じゃないかっ・・!!
元勇者を我が城に連れ帰り、楽しもう・・。ふっふっふ。
「魔王めっ!!勇者様から離れろ!!」
いいタイミングで人間の騎士というものたちが現れた。
さっそく元勇者の誘拐を実行しよう・・・ふっふっふ。
「・・ふ・・ふっはっはっはっはっは!!人間たちよ!お前らの勇者は我が一生支配する!せいぜい絶望を味わうがいい!!・・ぐはっ!!」
突如、背中に打撃がきた。
くっ、勇者の仕業か!
女だと思って油断した。
そして、この打撃・・やはり、聖剣を隠し持っていたのか!!
卑怯だぞ!
魔王は倒れながら顔を捻って見る。
・・・・いや、あれは違う。あれは・・・鍬!!?
勇者だった女の子は真顔のまま、また鍬を天高々に持ち上げ、倒れつつある魔王に対して振り下ろした。
「ぐへっ!!」
・・・・とどめだった。
車に轢かれたカエルのように倒れている魔王。
呆気にとられている騎士たち。
鍬を剣のように肩にかけて、ふんっと鼻息をならした元勇者。
鍬の勇者の伝説がここに始まる!!
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