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1-5

今回も今回とて亀更新。気長にお付き合いください。









〈ツァイカ・シティ〉の古代の名前が〈ティアディ〉。

この地方の古語であるイスフィア語で『目覚め』という意味だ。


その昔、仲介貿易で栄えたこの土地には気候が安定していることと、日常的に水が使えることから王侯貴族の避暑地や別荘地としても有名だったらしい。

西の温泉地バッカスもそう遠くはないし、北のクヤ連合國からは多くの隊商が来る。

東は森に囲まれていてその向こうにはヒンリュナ連峰が構えていたから防御力もそこそこ。

南はエウィヒュ湖が広がり漁業も必然的に盛んになった。


だからもちろん。

この時代有数の文明地となるわけだ。


だから当然。

規模の大きい遺跡も残っているはずで。


中心部から離れたところに石柱がいくつも並び、石造りの家屋跡に円形劇場跡等々。

重要な遺跡(・・・・・)はそこに存在する。

誰もいない、誰も寄り付かない遺跡。

朽ちた、意味のない遺跡。


俺とイザクはその入り口に立っていた。俺はイザクに話しかける。



「で?落盤でやっとわかった墓場ってのはどこだ?」

「一番奥、この地の領主だったディール候のお屋敷の近く。てかよく落盤だってわかったな?」

「どアホ。ここを発掘したがる酔狂モンは俺たちくらいしかいねぇよ。何せ〈魔女の呪い〉がかかった遺跡だからな」



新しく遺物が出てくるのは落盤くらいしかねぇ、そう言うと確かに、とカラカラとイザクは笑う。

遺跡に足を踏み入れつつ俺はここのことを考える。


それはそれは昔。ここが少しずつ少しずつ衰退の兆しを見せ始めた頃。

一人の魔女がここに住み始めた。

そしてそれはそれは最近、ここ100年以内の話。

その魔女は死んだ。否、殺された。魔女など信じなくなったここの住人によって。


魔女は街の衰退は運命で変えられないとわかっていたのか、せめてそれが緩やかになるように様々なことを教えたらしい。

そして住人も住人で、衰退は自然の摂理だとわかっていたし、そして何もすぐに衰退するわけじゃないから魔女の言うことを聞いて、ゆっくりと衰えていったらしい。


…自分たちはまだ幸せでいれるから

…ゆっくり衰えるなら

…それでいい



「〈魔女の呪い〉は100年近く経った今でも健在だ。来る者拒まずされど去る者逃さず。足を踏みれたなら最後、体を蝕まれる」

「けど俺たちは残念ながらそれが効かない。な、そうだろ?ゼン」

「…一応、な。アイツの加護が有る限りは無事なはずだ。でも一応マスクはしておけよ」



すぐに衰えてしまえば、この呪いはなかった。

衰えていく中でも子供は生まれ世代ができる。そして知らない彼らは定住し続ける。

そうすれば、ほら、未来はわかりきっている。


……魔女が助けてくれるのではなかったのか

……なぜこの街は衰えた

……魔女のせいだ


俺は鞄から顔半分を覆う黒いマスクをする。簡易浄化装置と呪いをある程度防いでくれる優れものだ。

これ自体にも加護がかけてあるし、俺たちの体自体にもかかってるから呪い地帯に入るには万全だ。トレジャーハンターなるもの、このくらいの装備は常に持っておきたいものだ。

俺は頭の後ろの紐を引っ張って顔と密着させる。服も服で真っ黒でロングコートなものだから、側から見ればただの不審者だった。まぁいい。それはいつものこと。


穴だらけで隙間から雑草が生えまくっている石畳道を歩く。

ここに入るのは数回目だ。誰も入れないってことは、誰も手をつけてないっていうのと同義。

おかげで結構稼ぐことができた。

道を結構奥まで進んだ頃、イザクがおいと声をかけてくる。急で、周りを見ながら進んでいた俺は少し驚いた。



「ちっと…おかしくねぇか」

「何が………?」

「空気が、ズレてんだよ…」

「え…あ、…」

「向こうからだ。向こうからズレ始めてる」



言われて気がついた。右のほう、円形広場があるほうがおかしい。

割れるような、熱と冷気が背中を合わせてるような、ねっとりとした、けれど流れるような。

それらを一言で表すならおかしい。いくら呪いが染み渡っているからといって、今までとは全く違う感覚だった。



「誰か、いるのか」



イザクが呟く。それに俺は答えた。驚きと少しの焦りと一緒に。



「まさか!それこそ俺たちみたいに加護がないと入れないし、アイツは、滅多人前に姿見せないし人嫌いもいいとこで…とにかく俺たち以外の人間が加護を受けてる可能性はゼロに近い」

「そうだけどさ…これ、〈呪い〉じゃねぇのも確かじゃね?」

「っ…」



イザクが言っていることはあっている。〈魔女の呪い〉はもっと、違う。恨みと憎しみと、何もかもの感情がごちゃ混ぜになったようなそんな力。


…だけど、これは


純粋に黒い。真っ黒で重い。明らかに〈魔女の呪い〉とは違った。

俺は行こう、と足を向ける。行って、確かめないと。

何を確かめるのかイマイチわからない。でも行かないと取り返しがつかなくなりそうな感覚に陥る。

俺の言葉にイザクは頷いた。そしてお互い、いつでも武器を取り出せるように準備をする。



「まさか…魔人とか言うなよ…」

「はっ、それこそありえないだろう。あいつらはとうの昔に封印されてる」

「…そうだったな。ありえない」

「いきなりどうした、お前らしくもない。魔人だなんてお伽の世界みたいな」

「なんとなくだよ。だってそれくらい…ドス黒い」



今いるところから広場まではそう遠くない。少し走り、けれど慎重に俺たちは進んだ。

やっぱり行けばいくほど”何か”は重くのしかかってくる。

石柱と家、そしていくつもの塔を通り過ぎて広場に出た。


この遺跡の円形広場は少し特殊だ。

天井がある。19本のコリト式石柱に支えられた、白い天井が。そして床には細い筋と太い筋が刺繍のように走っている。中央には円と線と文字で何かの文様が書かれていた。それにいくつかのベンチ。


一番特殊なのは、どこも壊れていないことだ。


この遺跡は古い。古いが故に朽ちている。

なのに、この広場だけは例外で。

屋根と筋と文様。

異様なそこは広場というより、東屋といったほうが正しかった。

そんな、場所におかしいものが追加されている。


広場の中央。

文様の上。


黒髮の、見たことのない服を着た女が立っていた。



「来た、か。堕とし仔よ」



綺麗な形をした唇がそう音を作る。



「10年…短いようで長かったぞ。我らにとってそんな時間、ただの刹那だというのに」

「…誰だ、お前は、なぜここにいることができている」



マスクもなしに、加護も見たとこない。

だけれど女は何も感じていないのかそこに立っている。



「ゼン、よこせ、貴様のその肉体全てを。すればこの力は完成するのだから」



突如、ありえない量の魔力が俺たちを飲み込んだ。

そして、俺の皮膚は鱗と化した。











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